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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
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仁佳北2-桜華と嘉韶①

 前回まで:紫苑と珊瑚は父親に会いました。


 東の国の軍師は、戦場に送られて以降、殆ど眠れずにいた。

暖かな陽射しを受け、子供達の無事な姿を眺めているうちに、安堵感からか、つい微睡(まどろ)み、夢を見ていた。

懐かしい夢を――



――――――



 暖かさに包まれ、目を覚ますと――


紅の瞳が覗き込んでいた。


「姉様ぁ♪ 生きてるわ! この人♪」


少女が弾みながら、後ろに向かって手招きする。


桜華(オウカ)! 勝手に行っちゃダメでしょっ!」


「姉様っ! 待っ――きゃっ!」


桃華(トウカ)! 足元ちゃんと見なきゃ――あっ!」


梅華(バイカ)姉様も、桃華姉様も、泥んこ~♪」


「桜華が走るからでしょっ!」姉達。


「だって人よ! 初めて見たんだもん」


六つの瞳が覗き込む。


「まだ、ちゃんと起きてないわ」


「コギ! これへ!」


「はい。一の姫様」大きな白狐が現れた。


「この人を(やしろ)まで運んでちょうだい」


「畏まりました」


大狐の背に乗せられ 、運ばれていく。


「この人、何してたのかしら?」


「ここ、どこだか、わかってるのかしら?」


暖かい光に包まれた。


「桜華、ダメよ。人に使っては。

どう作用するか分からないんだから」


「でも……辛そうなんだもん……」


「コギ、どうしたらいいの?」


「姫様方、御手を。

『癒し』を弱くお出し下さい」


「このくらい?」


「もう少し弱く……もう少し……

……その位でしたら、人にもお使い頂けます」


「ありがとう、コギ」


三姉妹は、慎重に光を当てながら、社に向かった。



♯♯♯♯♯♯



壱彌(イチヤ)、気分は、どう?」


目を覚ますと、また紅の瞳が覗き込んでいた。


起き上がろうとすると――


「まだムリよ。寝てなきゃダメ」


押し戻された。


「ここは? ……どうして名を?」


「ここはハザマの森、狐の社。

お名前は、ご自分で名乗ったのよ。

覚えてないの?」


「記憶が……はっきりしないのです」


「今は大丈夫?」


「なんとか……あの……貴女は?」


「桜華よ」にっこり♪


桜華が、私の額に手を当てた。

優しい暖かな光に包まれる。


「弱い光しか当てちゃダメって言われたから、ゆっくりしか治せないの。

しばらく、おとなしくしててね」にこっ


『三の姫様』障子の向こうから声がした。


「何?」


『お父上様が、もうすぐお着きです』


「解りました。すぐ参ります」


「姫……様……?」


「はい」にっこり



 三の姫・桜華様が部屋を出、ひとり残されてしまったので、記憶を辿っていると、次第に定かとなってきた。


 ハザマの森……

 そうだ! 修行に来ていたんだった!


 壱彌は、帝の陰陽師頭の家に長男として生まれた。

家の名に恥じぬ者になれ、と修行の旅に出され、海を渡り、『迷いの森』『人拐いの森』とも呼ばれる、この森まで来たのだった。


やっと、目指す森の入口に着き、教えられた通り自分に術を掛け、踏み込んだのだが、


未熟さ故か、感覚が狂い、方角が分からないまま出口を求め、さ迷う事、数日。

木々の繁りに覆われ、空も見えず、昼間でも薄暗い森をただひたすらに歩いていた。


そして、人より遥かに大きな烏に襲われ――


気付けば、紅の瞳が目の前に有ったのだった。


 大きな狐に運ばれたような……

 姫様方の式神であろうか……?


「コギ……」と、呼んでいたか……


「はい。お客人、如何なさいましたか?」

大きな白狐が現れた。


「あ……」狐が喋った……



 そして、コギから、

この世――『三界(サンカイ)』には、この『人界』の他に『天界』『魔界』が在り、

ハザマの森が三界の交わる場所である事、妖狐が守護している場所である事を聞いた。


「現状では、人が易々通る事が叶う場所ではございません。

回復なさいましたならば、お送り致しますので、二度と立ち入らぬよう、お願い申し上げます」



♯♯♯♯♯♯



 軽やかな足音が近付く。

「壱彌♪」障子が開く。

「あら、起き上がって大丈夫なの?」


「もう大丈夫ですよ、姫様」


「退屈でしょ? これ、人の本よね?」


差し出された本は、古い異国の物ではあったが、どうにか読むことが出来そうだった。


「ありがとうございます♪」にこっ


「良かった~♪ 壱彌、やっと笑った♪」



 それから、桜華姫様は、出掛ける用がある日は本を持って、

そうでない日は人界の話が聞きたいと、毎日、私の部屋を訪れて下さった。



♯♯♯♯♯♯



 歩けるようになり、裏庭で、久しぶりに術の練習をしていると――


「術が使える人も いるのね!?」

桜華姫様が軽やかに駆けて来た。


「妖狐の方々の足元には、とてもとても及びません」


「人は術が使えないって聞いてたわ。

なのに使えるなんて……

壱彌は魔人の血が入っているの?」


「さぁ……聞いた事もございません」


「見てあげる♪」額に掌を当てる。


「あのっ」「じっとして!」「……はい」


頬が染まっていくのを感じながら、待っていると――


「とっても遠い御先祖様に、妖狐がいらっしゃるわ♪

だから使えるのねっ♪」


桜華姫様は嬉しそうに言った後、ぶつぶつと呟きながら考え始めた。


「だったら……」再び額に掌を当てると、


口の中で術を唱え始めた。


浮遊感に慌てていると、


頭の中で光が弾けた。


「あ……」


「もう一度さっきの術、やってみて♪」


言われるがまま、掌の紙片を蝶に変えようと、術を唱えると――


掌から、ぶわっ! と、無数の蝶が湧いて飛んだ!


「うん♪ 開いたっ♪

……綺麗ね~♪」


「はい……」


慌てた足音が迫り、「桜華! 何事っ!?」


「あ♪ 桃華姉様♪

壱彌は狐の血を引いてたの♪」にっこり♪



♯♯♯♯♯♯



 すっかり回復し、近々人界に帰らねばならないと決まった日――


裏庭の奥、森に少し入った所から、桜華姫様の声が微かに聞こえた。

辺りが静か過ぎるので、聞くとはなしに聞こえてしまっていた。


「お願いよ、コギ、父上様にお会いしたいの!」


「なりません、三の姫様。

今は、この社からお出になる事は許されておりません」


「なら、壱彌を帰さないで!

ずっとここに……お願いよ……コギ」


「この社でも、人をお護り出来る程、安全ではございません。

壱彌様の為に、お帰り頂かねばならないのです。

どうか、お聞き入れ下さいませ」


「なら、人界の方が安全なの!?

だったら私が人界に参ります!」


「姫様、ですから、それは――」


押し問答の末、コギは桜華姫様を妖狐王に会わせたようだ。



♯♯♯



「壱彌♪ 私も人界に参ります♪

コギも付いて来てしまうけど……

一緒に修行しましょ♪」満面の笑み。



 そして私は、妖狐王の三の姫・桜華様に連れられ、コギの背に乗ってハザマの森を出た。





凜「このお話は――」


華「私と夫が出会った頃――

  三十年くらい前から数年間の思い出ね♪」


凜「えっと、お名前が、紛らわしいような」


華「そうねぇ、まだ嘉韶は御家を継いで

  なかったから、壱彌だったのよね~

  代々、長男をそう呼んでいるらしいから

  仕方ないわよねっ」


凜「桜華様は、妖狐のお姫様なのに、

  妖狐王様は、人と結婚してもいいって

  仰ったんですか?」


華「『人との子か……それも面白かろう』

  って笑ったの」うふふ♪


凜「その言い方、妖狐王様らしいわ~」


華「でしょ♪ 父も、あの子達を気に入ってる

  みたいだから、いずれ一緒に暮らすわ♪」


凜「それがいいですよ」うんうん


華「その前に、しなきゃならない事が

  あるのよね~」


凜「はい?」


華「もうすぐ判るわよ。ケリつけなきゃ」


凜「えっと……眼差しの凄みが……」


華「あらっ? 気のせいよぉ~」うふっ♪


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