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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
171/429

仁佳北1-東の軍

 さて、馬車は――

その前に、合流直前の紫苑と珊瑚のお話です。


♯♯ 仁佳 北部 ♯♯


 紫苑と珊瑚は、ハザマの森に在る狐の(やしろ)から、馬車に戻る途中であった。

上空を伽虞禰(カグネ)の国から、仁佳(ニカ)の国へと、妖狐の姿で宙を蹴り、跳んでいると――


「紫苑、あの軍旗……」


「東の国ですね。様子を窺いましょう」

式神を飛ばした。


上空で、式神達が見ている光景を確かめる。


「まさか……父様が……」

「軍師……でしょうか……」顔を見合わせる。


二人は、東の国の都で陰陽師頭をしている筈の父の姿を、軍の大将の傍に見た。


式神を近付けると、父は、それと気付き、大将から離れ、物陰に身を隠した。


父を追って、紫苑と珊瑚が降り立ち、人姿になると――


桜華(オウカ)……いや、ひと乃なのか?

ならば、壱彌(イチヤ)か?

二人共、無事であったか……良かった……

しかし、何故ここに……?」


「それは、こちらが聞きたき事」

「父様こそ、何故このような場所に?」


「軍師として遣わされた……それだけの事」


「陰陽師頭ともあろう方が」

「直々に、ですか?」


「進言がお気に召さなかったのであろう。

お前達は、妖狐の血が目覚めたのだね?」


「私共は魔物と戦っております」

「その戦の中、母の血が目覚めました」


「今は、母の元より」

「仲間の元への移動の途上でした」


「そうか……

母とも会い、仲間とも出会うたか……」


「はい。ですので、御家におかれましては」

「私共の事は、元より無き者とし」

弐彌(ニィヤ)を正式な後継となさってください」


「壱彌……」


「その呼名は、弐彌にお与えください。

今は、紫苑と呼んで頂いております」にっこり


「ひと乃は……?」


「珊瑚でございます、父様」にっこり


「この、仁佳との戦は、魔物により(たぶら)かされ、起こったもの」


「戦場より人を拐い、魔物兵と化し、人の世を襲う。

既に、そのように利用されております」


「ですので、私共は仲間と共に、この戦を終わらせるべく、帝都に向かっているのです」


「この軍も、お退き頂きますよう」

「お願い申し上げます」


近付く足音に、紫苑と珊瑚は姿を消した。


「軍師殿、こちらでしたか」


「補給頭殿、何用にございますか?」


「主軍よりの支給の品が届きましたので、お確かめ頂きたく、お探し致しておりました」


「そうですか……では、参りましょう」


紫苑と珊瑚は姿を消したまま、二人に付いて行った。




 荷馬車の列の中に禍々しい気を感じた紫苑と珊瑚が、発している木箱を積んだ荷馬車に近寄った時、大将が来るのが見えた。


「わざわざ、このような場所に、如何なさいましたか?」


「勅命を受けたのだ。六の荷は、どれだ?」


補給兵達が慌てて探す。


「六の荷、こちらでございます!」


禍々しい気を放つ木箱が、次々と荷馬車から下ろされる。


大将が蓋を開けさせた。


 やはり、あの環か!!


「勅命とは大仰な……」大将が唖然としている。


「如何な命にございますか?」


「これを、皆、身に着けよ、と……

この環は何か特別な物なのか?」


「私も初めて拝見致す物にございます。

しかし……何やら不穏な……」


 いや……本当に見た事は無いのか?

 この感じ……

 私は、この環を知っているのか?


大将が環を手に取ろうとした。


「触れてはなりません!」

紫苑と珊瑚は思わず叫び、御札を放った。


御札が環に触れ、暗紫色に変わる。


 数が多過ぎて、消す事が出来ませんか……


「お前達……」

「何奴だ!?」


「失礼を致しました。私の子にございます」


「という事は陰陽師か?」


「はい。

私より遥かに強い力を持っておりますので、密かに同行させて頂いておりました」


「ふむ……」(いぶか)しげな視線を向けながら、

「軍師殿の供よ、これは何だ?」環を指す。


「その環には、呪が掛けられております」

紫苑は言葉を選んだ。


「帝よりの賜り物であるぞ!」


「それ故、何者かが妬み、呪をかけたのではないでしょうか」

父は軍師として解釈を添えた。


「それならば……有り得るか……

では、如何にすればよいのだ?

勅命に従わぬ訳には参らぬぞ」


「呪を祓うまで、お待ち頂きとうございます」

「私共にお預けくださいませ」


「祓うのに、どのくらいかかるのだ?」


「まずは、気を高められる場所にて、詳しく見なければなりません」

「その後の返答で、よろしいでしょうか?」


「この二人が、このように強く申すなど、滅多な事ではございません。

おそらく、触れれば、この軍が全滅する程の呪でございましょう。

お待ち頂く事、叶いませんでしょうか?」


「全滅など、させられる筈がなかろう!

存分に! 速やかに! 完璧に祓え!!」


「畏まりました」三人、礼をして大将を見送る。


「誰も近寄らせるな!」

大将は補給頭に怒鳴って去った。




 珊瑚は木箱を見張る為に残り、紫苑は光の矢となり、馬車へと急いだ。


「この環は、本当は何なのだ?」


「これは竜血環(リュウケツカン)。人が触れると、魔物にされ、操られてしまいます」


「そのような恐ろしい物が……」


「既に、仁佳では多くの人々が被害に遭っております」


珊瑚は父に、天界や魔界の話をした。


「竜を見たという噂は耳にしていたが……

まさか本当に――」


 目の前に、色とりどりの竜と紫苑が唐突に現れた。

竜達は人姿になると、手袋を着け、木箱を軽々と担ぎ、環を壺へと移し始めた。


「共に戦っております仲間でございます」


「竜と共に……妖狐ではなく……」


「はい♪

もちろん、妖狐の皆様も、ご協力くださっておりますよ」


「全部、入りおった……消えおった……」


紫苑が近付いて来た。

「一刻程、お待ちくださいとの事です」



 待つ間、紫苑と珊瑚が、母の事などを話していると、天に闇の穴が穿たれ、魔物が噴出した。


二人は妖狐になり、中空に念網を張り、上空へと駆け昇り、御札を放った。


御札に当たった魔物が、人に戻り、落ちる。

はたまた消え去る。


瑠璃と綺桜の竜が現れ、空が輝きに満ち――


沢山の人々が、念網に受け止められた。


妖狐が念網を地に降ろし、竜が人々を光で包んだ。

現れた者達が、その光の半球に入り、水を配り始めた。


東の国の兵士達は、その一部始終を見た。


そして、一人 二人と、恐る恐る半球に近寄り、光の中に入り、水配りを手伝い始めた。


妖狐が跳んで来て、人姿になる。

「あの環に触れると、あのようになるのです」


「あの人々は……?」


「すぐに元気になられます」にこっ


「しお~ん! さんご~! 手伝ぅてくれ~!」


「呼ばれておりますので♪」

二人は嬉しそうに駆けて行った。




 大将が慌てた様子で駆けて行く。


元に戻った者の中に、大将に似た男が居た。

大将は駆け寄り、背を支え起こした。

「兄上っ! お気を確かにっ!」


「これを飲ませれば治るぞ♪」


大将は、目の前に差し出された瓶から、その手を辿り、顔を見て――


「貴女様は、もしやっ!!」


「苦しゅうない♪ 早よ飲ませよ♪」

そう言って、少し弾みながら去って行った。





凜「『壱彌』と『ひと乃』が、御家での

  呼び名だったのね?」


二「はい♪」


凜「意味とか、あるの?」


紫「主家の長男、長女という意味です」


凜「じゃあ、弐彌は弟さん?」


珊「母が違いますが、弟です」

紫「祖父母を送った時に、姿は見ました」


凜「そっか。離れて暮らしてたんだよね」


紫「接する事は生涯無いと思っておりましたが」

珊「この旅が終わったら会ってみるのも」

紫「よいか、とも思うようになりました」


凜「うんうん。きっと、いい人だよ。

  お父さんに似て」


二「はい♪」


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