婚約へ7-アオとミドリ
前回まで:フジの婚約までのステップは
完了しました。
予告なしに遅くなり申し訳ございません。
アオが扉を開けると、ミドリが満面の笑顔で飛んで来た。
「アオ♪ 来てくれて嬉しいわ♪
本当に無事だったのね……心配したのよ」泣く。
「母上、何もお泣きになるような事はございませんから」
肩を抱き、椅子に向かう。
茶を淹れながら、
「将校達が見えた時、私は別行動していただけなんです。
私だけが一度も会えず……ですから、ただの勘違いなんですよ」
やわらかな笑顔を向けた。
「そうなの? 勘違いなのね……良かった……」
茶を置く。
「ご心配をおかけした事を知り、すぐにでも参りたかったのですが、如何せん、人界の任の最中ですので、お会いする事が儘成らず、遅くなりました事、申し訳ございませんでした」
「そう……母を想っていてくれたのね……
それが わかったから……もう、いいわ。
頭を下げていないで、顔を見せてちょうだい」
顔を上げて微笑む。
「このような戦など無ければ、望む時にお会いする事が叶いますのに……」
「そうよね。戦など無ければ……
可愛い あなた達と離される事などありませんものね」
「はい。ですから私は、一刻も早く、この戦を終焉に向かわせたいのです」
「終われば、みんな帰って来ますわよね?」
「勿論です。揃って戻りますよ」
「早く終わっていただきたいわ」
「私達兄弟は七人もおります。
母上がお産み下さいました私達なら、この戦、終わらせる事が叶う筈です。
長い歴史上、誰も成し得なかった事でも、母上の子なのですから、成し得る筈です」
「ええ、私が産みましたもの。
みんな素晴らしい子供達ですわよ」にこにこ♪
「七人で力を合わせ、この戦を終わらせ、母上の元に戻る日が一日も早く参るよう、努める所存にございますので、今は、天界に参る事は難しいのですが――」
「早く任が解かれる為でしたら、私も耐えますわよ。
可愛い あなた達の為ですもの」うるうる
「ありがとうございます、母上」抱きしめる。
「聡明な母上にお産み頂けた事、大変、幸せにございます。
私達は、この任が解かれる日が早く参るよう、儀式などでの帰城も控え、耐える所存です」
「そう……会える機会が減るのね……
でも、終われば、いつでも会えますものね」
「はい。終わりさえすれば、いつでもです」
「耐えますわよ、私」
「母上……」暫しの我慢で、ぎゅっ!
「私の想いをご理解頂けるのは母上だけ……
ですので、打ち明けるのですが……」
「なぁに? 何でも母に聞かせて?」
「近々、兄上方の立太子の儀がございますが、その際、出来る限り儀式を纏める事は叶いますでしょうか?」
「簡単な事よ♪
私から王にお話しすれば、すぐに叶いますわ」
「母上にご相談して良かった……」にこっ
「もっと ないかしら?」
「サクラを除き、兄弟皆、適齢期ですので、今後、婚儀などもあるかと存じますが――」
「そうよね……結婚してしまうわよね……
でも、しないのも心配ですし……」
「その儀式が多く、
何度も帰城しておりますと――」
「任が解かれる日が遠ざかるのよね?」
「母上の聡明さには感服致します」
「わかりましたわ♪
小さな頃から、おねだりなどしなかったアオからの相談ですもの。
母として、力を尽くして、王を説き伏せてみせますわ!」
「ありがとうございます、母上」
「儀式全てに関して、纏めて、簡単に、できる限り無くせばよろしいのね♪」
「はい♪ 母上♪」極上にっこり。
「あ、今夜はお城に泊まるの?」
「いえ……戻らなければ――」
「そう……ね……今は耐える時ですものね。
また会えますわね?」
「戦さえ終われば、いつでも」にこっ
「そうですわね。
その為に、母も戦いますわよ!」立つ。
ミドリが勇ましく出て行こうとして、振り返った。
アオは内心ギクリとしたが――
「良い知らせを待っていてね♪」バタン♪
足音が遠ざかる……
アオは椅子に崩れるように座った。
子供の頃は、論破する事しか
考えていなかったけど……
演技力はサクラの足元にも及ばないけど……
懐柔……成功かな……?
疲れた……
でも……母上も……
もしかしたら……俺は、母上の事を
誤解しているのかもしれないな。
調べてみるべきだな……
♯♯♯
アオが深蒼の祠で疲れを癒していると――
「やっぱり、ここだったか」
「父上……どうしたんですか?
何か問題でも――」
「いや、問題など全く無い。
これを見せたくてな」紙を出す。
「これは……議事録……」
「正式に可決したよ。
財政的にも大歓迎でな」
目を通しながら「王太子も、ですか……」
「ミドリの押しが効いてな。
やけに張り切っていたが、どうやって味方につけたんだ?」
「一応、息子ですから」にこっ
「一応、夫なんだが、どうにもならんぞ」笑う。
「提案者は俺と母上……連名ですか。
俺の名など出して欲しくは無いのに……」
「それもミドリが譲れないと言ってな」
紙を返そうとすると――
「それは写しだ。皆に見せてくれ」
「解りました」
「アオ、お前は……どうするんだ?」
「今は、魔王との戦しか考えていません」
「そうか。まぁ、アオの道だ。
思うがまま生きろ」
「はい。ありがとうございます、父上」
♯♯♯
馬車に戻ると、また家賽の小屋が有り――
兄弟達の顔が窓に有った。
窓越しに紙を広げると、
窓が開き、紙が奪われた。
(キン兄さん、千里眼を貸してください)
母に、皆の喜ぶ声を聞かせた。
♯♯♯♯♯♯
その夜――
「アオ、サクラ、工房に連れて行け」
「何か できてるの?」(せ~のっ)
――工房。
「菩銅鏡は出来ている」
小さな鏡を二つ持って来た。
ルリがアカの頭に乗っている。
「解空鏡の魂、こちらに頼む」水晶玉を指す。
大きな鏡が有る暗室を閉めきり、サクラが水晶玉、アオがルリを持ち、向かい合った。
二人が術を唱える。
(解空鏡、移って)
【はい】光が移った。
アカに水晶玉を返すと、
「次から、魂を持ち込んだら、そうしてくれ。
アオを恋しがって可哀想だ」
アオにルリを渡し、優しく撫で、微笑んだ。
「アカ……ありがとう」ルリをなでなで。
「忍達の剣は、明日の夕刻だ。
解空鏡は時間が掛かるかもしれん」
「たくさん頼んで、すまない」
「それは気にするな。楽しんでいる」
「そうか、ありがとう」
「うむ」(アオ、大丈夫か?)
(俺は大丈夫だよ)
(その名、変えるべきだと思うが――)
(皆は知らないから。このままでいいよ)
(しかし――)ルリと遊び始めたサクラを見る。
(あまり、サクラに心配を掛けるな)
(うん。気をつけるよ)
(一日も早く、神と結べるよう、俺も努める。
まだ、諦めるには早い)
(妖狐王様にも、そう言われたよ)
(妖狐王様に? ならば、尚更だ。諦めるな)
(うん。ありがとう、アカ)
(アカ兄、アオ兄の事、知ってるよね?)
(話す気は無い)
(うん。それは解ってる。
キン兄も何も言わないから、話せない事なんだって解ってる。
だから……俺は知らなくていい。
ただ、俺……どうしたらいいのか教えてよ)
(サクラはサクラのままでいい)
(でも――)
(傍に居るだけでいい)
(俺じゃダメなんだよ)
(誰にも……その代わりは出来ぬ。
しかし、サクラにしか支えられぬ)
(……うん)
凜「なんだか、アオって薄情?
親を大切にしてないような?
いや、馬鹿にしてる?」
桃「アオには、まだ、親という者が
解らないのですよ」
凜「育てたのが蛟達だから?」
桃「それもあるでしょうね。
それに、竜は卵生ですし、温めなくても
孵化しますからね」
凜「だから、本能的に、ぬくもりを知らない
ままなのかなぁ……
でも、兄弟は仲良しですよね?」
桃「そうねぇ。アオは、兄弟を繋ぐ事には
熱心だったわね」
凜「どうして、親には冷たいのかしら……」
桃「それでも、何か気づいたようですから
様子をご覧になって頂けるかしら?」
凜「はい♪ それは、お任せください♪」




