砂漠編3-禁忌の技
西の国の砂漠には、兎が住んでいます。
翌朝、蛟が両手と首に数珠を掛けて現れた。
木玉の数珠かと思ったら、木と木の間に、小さな淡青紫の半透明な玉が入っている。
「キラキラと綺麗じゃのぅ♪
此は如何したのじゃ?」
即座に姫が駆け寄り、興味津々で尋ねる。
「この木、百檀は身に着けますと、術力を回復するものでございます。
間の月華石は、効能が多くございますが……月の力を美貌に変える石とも――」
「砂漠という所は、髪も肌も乾いて仕方のない所じゃと思ぅとったのじゃ」
蛟が言い終わらない内に、姫が両手を差し出して言う。
「姫様には、特別にこちらを――」
月華石だけの数珠と、若草色の簪を取り出す。
「見事じゃのぅ♪」
また、蛟が言い終わる前に貰う。
姫は暫く簪の細工を愛でていたが、
「ミズチ、ワラワの木数珠は何れじゃ?」
手を差し出す。
必要なんて無いよね?
「術など使えるに決まっておろぅ」エヘン♪
皆の視線が疑いを含んで集まる。
「なんじゃ、その目は?
見ておるがよい」ふんっ。
姫は両手を挙げ、天を睨むと、モゴモゴと何やら唱え――
「有魔解貪!!」
両手を勢いよく振り下ろす!
暫し待つ。
……もう暫く待つとするか……。
天が俄に暗くなり――
星が瞬き――
星が次第に大きく――
……って! こっちに来るっ!?
「姫様っ!! アオ様っ!!」
蛟が聖獣に戻り、二人を掬うように背に乗せ、飛ぶ。
上空に舞い上がり、降る火球が、地で破ぜるのを見下ろす。
「姫様、この術は……最後の敵に取っておきましょう。
いいですか?
隠し技ですから、魔物達に知られぬよう、絶対に使ってはなりませんよ」
「秘密なのじゃな? あい解ったぞ♪」
蛟が上手く釘を刺したところに、宙を蹴って跳ぶ白狐に乗った陰陽師達と慎玄が合流した。
澄んだ青空と、灼熱の陽が戻ると――
岩山が、あちこちで木端微塵になっていた。
そのひとつに降りてみると、岩山の瓦礫と、元に戻った兎達が落ちていた。
幸い、魔物にされていたおかげで、兎達の怪我は大した事は無く、殆どが気絶しているだけであった。
慎玄が回復の術を唱えると、兎達は元気に去って行った。
岩山は、玉が入った壁だけが無傷で残っており、砂に刺さっていた。
玉を回収すると、暫くして、その岩山の瓦礫は全て砂になり、風に舞った。
今日は、これの繰り返しだな……
ひと山ひと山……って、何処まで有るんだろう?
♯♯♯
次の瓦礫の山に向かう。
途中、何やら大きなものの影が過り、戻って来た。
「アオ、何やってんだ?」
頭上に黒輝の竜が浮かんでいる。
アオが経緯を話すと――
「んじゃ、遠くの瓦礫から、玉と兎を運んだらいいんだな?」
「ありがとう、クロ。
多くて困っていたから助かるよ」
クロは飛んで行き、遥か彼方で降下した。
「あんなに遠くまで有るんですねぇ。
本当に助かりましたね」
「そうだね……」俺も……飛びたいな……。
歩を進めていると、また、影が留まった。
「アオ兄様、先程の火の技は何方が?
まさか、魔物ですか?」
見上げると、藤紫の竜が浮いていた。
「あれは 火の技なんだね?
姫の必殺技だよ。
最後の敵まで取って置くと決めたから、もう撃たないからね」
「それならよいのですが……人が放ったのでしたら、禁忌の有魔解貪ではないでしょうし……」
いや……確か、それだよ。
「あ、クロ兄様……」
「あ♪ フジも手伝ってくれるのか?♪
ちょっと来いよ」
クロは兎達を並べ、玉の小山を作って、フジを連れて行った。
蛟が玉を袋に仕舞い、慎玄が兎達に回復の術を施す。
それを見ながら、
「姫はどうやって、あの火技を会得したんだい?」
「旅の僧から習ぅたのじゃ」
「僧侶が攻撃技を?」
「さよぅじゃ。
ワラワが一番強い術を教えて欲しぃと望んだら、アレを教えてくれたのじゃ」
「僧侶が……禁忌の技を……慎玄殿、僧侶も攻撃技を使う事が出来るんですか?」
「どうなのでしょう……私は使おうと思った事も御座いませんので」
「そうですか……姫、その僧侶の名は?」
「確か……純慎じゃったかのぅ……」う~む……?
慎玄が一瞬、目を見張った――ような気がした。
黒竜が戻って来た。
「アオ、悪ぃ。ハク兄に呼ばれた」
クロは手早く兎を並べている。
「クロも心で話せるのかい?」
「出来ねぇよ。
んな事すんの、サクラん坊だけだよ。
だから、いつも中継してもらうんだ。
戦力としてはダメなヤツだけど、アイツいねぇと困るんだよな」
「そうなんだ……」
「んじゃ、フジは置いてくからな」上昇。
が、すぐにフジも呼び出されてしまい――
「アオ兄様、すみません……」飛んで行った。
アオ達は次の瓦礫の山を目指し、また進み始めた。
♯♯♯
二つ目の瓦礫の山で兎を集めていると、アオの背後に一瞬、煌めきが過った。
おや?
振り返ると、兎達と玉が――
(サクラ?)
(ん?)
(手伝ってくれるのかい?)
(うんっ♪)
そうして、何度か集めてくれたが、アオが壁の玉を回収した時――
(アオ兄、ごめ~ん)
(どうしたんだい?)
(『洞窟に戻れ』って~)
(そう。気にしないで戻ってね。
手伝ってくれて、ありがとう)
(うんっ♪ また、あとでね~)
アオ達は、次の瓦礫の山に向かった。
凜「アオ、飛びたくなった?」
青「まぁね。見ているとね。
それに、飛べるようになるって事は、
記憶も戻るんだろうしね。
いつまでもサクラを困らせたくないからね」
凜「アオとサクラは相思相愛よね~」
青「なんか……その表現は……」
凜「もちろん兄弟愛よぉ。何を想像したの?」
青「いや……何も……」




