婚約へ6-家族の輪
フジも浮かれたり、嫉妬したり、表情豊かになりました。
♯♯ フジの屋敷 ♯♯
王と王子達が会食の場に入り、席に着くと、空龍、雪希、リリスも、魁蛇に案内されて来た。
卓上が料理で華やぐ。
(あの二人……)(うん……)
アオとサクラが、給仕している二人を目で追う。
髪の色が普段と違うし、顔の殆んどを白い布で覆っているが――
(なぁ、あれ、クロだろ?
あっちはアカか?)
(だね~♪ ハク兄も気づいた?)
(アカ兄まで、なにしてるのぉ?)
(クロに掴まれた)曲空されたようだ。
(髪は?)
(クロが煩い)仕方なく変えたらしい。
(大変だねぇ)
(まぁ、いいさ)
(一緒に食べよ~♪)
(いや、フジの顔は見た。すぐ戻る)
(連れてってあげるから~、ねっ)
身を低くして、ススッとアカの傍に行き、前掛けの裾を引いた。
(ほら、父上も気づいたし~)
(む……)
「リリスさん。
フジを受け入れてくださって、ありがとう。
空龍様、雪希様、
この料理は、フジの兄達が、二人を祝福して作ったものです。
どうぞ、お楽しみください。
クロ、アカ、ありがとう。
着替えて来なさい」
親達は和やかに語り合い、兄弟達はフジをひやかしつつ、祝福しまくった。
「ん?」「あれ?」「なんか外が――」
「騒がしいな」「はい」「叫び声か?」
「もしかして――」全王子、立つ。
「お前ら! 逃げろっ!!」王、先に逃げる!
王子達が、王を追って窓から飛んだ。
「フジ! 説明と挨拶は任せた!」
窓の外から王の声。
「ここに居らしてくださいね」にこっ
フジは、ひとりだけで隣の部屋に入った。
騒々しい足音が迫る!
フジは機を計り、扉を開けた。
「母上様、いかがなさいましたか?」平然。
「こちらに、王が いらっしゃるのでしょ!?」
「いえ、お見えになっておりませんが……
本日は確か、天兎の国では?
それより、母上様、私と会った事が知れたら、お咎めを受けてしまいます。
屋敷の者に見つからぬうちに、城へお戻り下さい」
「あ……そうね……
王は天兎の国でしたか……そう……
フジ、見ないうちに逞しくなりましたね。
人界の任、無茶しないでね」うるうる
「はい、母上様」にっこり
そっと抱きしめ、
「母上様も、お身体にはお気をつけ下さい」
背を擦った。
(サクラ、もう十分、離れましたか?)
(うん♪
天界の門に曲空したから、もぉだいじょぶ~♪
ありがとね、フジ兄♪)
母から体を離し、
「それでは、お急ぎ下さい。
私は気づかなかった事に致しますので。
お見送りは、こちらで失礼致します」恭しく礼。
フジが会食の場に戻ると、蛟達が片付けていた。
「お騒がせして、すみません。
お恥ずかしい所をお見せしてしまいました。
こんなですが、本当に王家なんです」ははは……
「親しみが持てて安心致しました」空龍が微笑む。
「母は、全ての儀式を完璧にしないと気が済まない方ですので、まだ、内密に進めているのです。
私達は今、人界の任に就いております。
その任の間は、王子は城にも立ち入れず、王と王妃に会う事も許されておりません。
ただ、特級儀式の時だけは別ですので、王と王子が同席していれば、そういう事となってしまいます。
婚儀関係も特級儀式なのです。
ですから、父も兄弟達も、慌てて逃げてしまったのです。
今日の書面で、十ほどの儀式を省略しました。
残りは母も同席しなければなりませんので、上二人の兄達が儀式を終えるのを追うように、こなしていくつもりです」
「キン様とハク様も、ご結婚されるのですね?
おめでとうございます」
「はい♪ ありがとうございます。
兄達の儀式は、公開されるものも多いので、ご覧になってくださいね。
今日は、お疲れになられたでしょう。
お部屋にご案内致します」
「こちらのお屋敷に、ですか?
よろしいのですか?」
「私の家ですので、もう、皆様の家です」
「フジって……本当に、王子様なのね……」
「この子ったら、今頃なの?」雪希が笑う。
「まだ、実感なんてないわよ」ため息。
「今日一日、夢の中みたいよ……」
「すみません。
盛り沢山になってしまって……」
「フジ様、お立場故に致し方ない事は承知しておりますから、この子の言う事は、お気になさらないで下さい」
雪希が困り顔。
「一晩、眠れば大丈夫でしょう。
フジ様もお疲れになられたでしょう?」
「私は慣れておりますから大丈夫ですが……
あの……『様』は、なんだか恥ずかしいです」
頬を染めて俯く。
「ね?
だから王子様だって実感、まだ持てないのよ。
腰が低過ぎるんですもの」両親を見る。
雪希が楽しそうにクスクス笑い出した。
リリスも一緒に笑った。
フジは、そんな二人を見て、嬉しくなって笑い――
空龍は申し訳なさそうに堪えていたが、とうとう笑ってしまった。
「私を家族の輪に、入れて頂けますか?」
リリスが、両親の間にフジを押し込んで、三人をぎゅっと抱きしめた。
「私の大切な家族……」
「リリス……」三人も抱き返した。
♯♯ 天界の門 ♯♯
「アオ、これから婚儀関連は、どうなるんだ?」
「クロの好きなようにすればいいよ」
「皆の分、交渉してくれたんじゃねぇのか?」
「ハク兄さんは王太子なんですから、省略なんて出来ませんよ」
「アオ! オレもフジみたく省略したいっ!」
「って、俺に言わず、父上に言ったらどうだ?
そこにいるんだから。アカみたく――」
「あーっ! アカ、抜け駆けっ!」
クロが、父と話しているアカに向かって飛ぶ。
「父上っ、オレも略式でお願いします!!」
「アオ、二人が焦っているのだが、皆には、どう伝えたのだ?」父が笑う。
「いえ、まだキン兄さんにしか伝えていません。
基本、各々好きな形ですればいいと思っているので」クスクス♪
「ひっでーなっ! アオ!!」クロが戻った。
「王太子は少しだけ省略。
他は、これからのフジを参考に考えていけばいいって話になっているよ」にこっ♪
「母上も納得したのか?」
「これからだけど、説得するよ」
「御披露目祝列は?」
「婚約は無し、成婚のみだよ。
でも、クロは、こっちより人界の方が大変なんじゃないのか?」
「うっ……」
「で、一回だけでいいのか?」
「ハク兄さん、王太子は別ですよ。
でも、立太子と婚約を同時にすれば、そこは一回で済みますよね? 父上」
「そうだな。纏めればいい」
「午前中に立太子と婚約式、午後、戴冠式。
翌日、御披露目という事でどうですか?」
アオがキンとハクを見る。
「そこまで纏められれば十分だ。
ありがとう、アオ」
「明るい話題提供も、王族の務めなんだろ?
しゃーねぇよなぁ……
で、いつ母上と対決するんだ?」
「対決って……いつでも構いませんが――」
「ミドリなら、いつでも空いてるぞ。
これから対決するか?」
「城に入ってもいいのですか?
それとも他の場所で?」
「外に出すと迷惑必至だからな。城に来い」
「解りました。では」父の手を取り、消えた。
「アオは、やっぱスゲーな……
平然と行っちまった……」
「クロも少しは見習え」ハクが笑う。
「でも……アオ兄、結婚する気あるのかなぁ……」
サクラの言葉で、考え込んでしまった王子達だった。
♯♯ 神界 ♯♯
【スミレ♪ 私も今日から、ここよ♪】
【追いつかれちゃったぁ】
【一緒に頑張りましょ♪】
【張り切ってるわね~】
【だって、アメシス様が天竜王子様と絆を結ばれたって聞いたから、私も早く神に成りたいの♪
私、助けてくださった王子様と絆を結びたいのよ】
【助けて? 誰かと会ったの?】
【私ね、魔物に捕まってしまって……
黒い鱗の天竜王子様が助けてくださったの】
【クロだわ……】
【あ♪ やっぱり知ってたのね?♪】
【私の絆竜の弟なのよ】
【良かったぁ~
スミレの名前 言っちゃったから、どうしようって思ってたのよぉ】
【つい、言っちゃうわよね~】
孤「天尊、儂は間違っておったのであろうか?」
桔「いいえ、『越えるべき』その御判断は
間違っていようとは存じませぬ。
三界の光は、そうそう容易く
消されたりなど致しませんよ」
孤「そうか……
ならば、もう暫し見ていよう。
過去のようには封じなかった事が
正しかったと信じて、な」
桔「はい。では、こちらも、そのように」
孤「時流は、儂の封印を揺さぶる方向に
動いておる。
しかし、未だ、その時ではない。
頼む、護ってくれ」
桔「はい。仰せの通りに」




