婚約へ5-フジの屋敷
前回まで:リリス達は白い竜と話しました。
♯♯ 竜骨の祠 ♯♯
アオ、フジ、サクラは、竜骨の祠の前で、笛を奏でていた。
三曲終わった時、サクラが笛を下ろし、微笑んだ。
「フジ兄、父上がフジ兄の屋敷で待ってるみたいだよ~」
「えっ!? まだ、約束の時間には――」
「待ちきれなかったみたいだね」
アオも微笑んだ。
「掴まって~♪」
「サクラでも、俺でも構いません」
「んじゃ、父上に♪ せ~のっ♪」
――フジの屋敷。
「お♪ 来たか。
なら、アオとサクラも、このまま立会人だ」
(人の姿の父上って、なんだか新鮮だね)
(だね~♪)
(ん? さっき父上は『も』って言ったね)
二人、気を探る。
(皆、来ているね)
(キン兄だけじゃなかったね~♪)
(皆、気を消しているから、俺達の態度でフジに気づかれないようにしないとね)
(うん♪)
「せっかく早く揃ったんだ。
会食の前に署名だけ済ませたいんだが、いいだろうか?」
フジが頷いた。
♯♯♯
隣室ではキンとハクが、王と前王の署名が既に入っている沢山の書面に、王太子として署名をしていた。
「アオ、サクラ、リリス殿と御両親様に説明を頼む。
フジは全てに署名しなければならぬからな」
キンが手を止めて言った。
(昨日は束だったけど、広げると、こんなに た~くさん あるんだね~)
(名前が長いから大変だね)
書面も改善しよう。
名前の長さも――
そうだな。活動再開の手始めとしては、
内々の事も、いいかもしれないな。
(俺、ちゃんとしたらリリスさん驚かせるし、いつものだと不安にさせちゃうから、空龍さんと雪希さんに説明するね)
(解った)
各々の書面に添えている、人界の文字に訳した紙を見たリリスが、
「これ……全部、フジ様の字よね……」呟いた。
「そうですね。
内容は、この紙を読んでください。
署名欄は、ここです」指す。
「難しい言葉もありますから、何でも聞いてくださいね」にこっ
「ひと言目から……すみません」俯く。
「あ……人界には無い言葉ですから。
一緒に読みましょう」にこにこ
(フジ、お願いだから睨まないで)
(あ……つい……すみません)皆には謎の赤面。
兄弟の署名が済んだ書面が、次々と回ってくる。
(フジ、リリスさんを焦らせて、どうするんだい?
リリスさんを盗ったりしないから落ち着いて。
せめて、見えない所に積んでくれないかい?)
(はい……すみません)更に赤面。
「どうしたんだ? フジ」
ハクが小声で言い、ニヤニヤ。
「べっ、別に何もっ」
(ハク兄さん! 大事な時ですからっ!)
(そぉだよ~。フジ兄で遊ばないでよぉ)
キンが立ち上がり、リリスの署名が必要なものと、そうではないものに分け始めた。
(ハク兄さん、終わったらサクラを手伝ってくださいね)
(はいはい)
(『はい』は、一回!)アオとサクラ。
(は~い)アオとサクラがキッと睨む。
(はい……フザケません)
ハクが最後の一枚を書き終え、立ち上がった。
(ハク兄♪ 『真面目なお医者さん』なんだよねっ)
「お願いします」にこにこにこっ♪
(あ……ああ)
雪希への説明を引き継いだ。
各々、真面目に説明しつつ――
(だいたいねぇ、俺の真似して戦力外のフリしようとしても遅いって。
ハク兄は、とっくに標的なんだからさぁ)
(やっぱ分かるか?)
(バレバレ~
ニワカ仕込みで騙せる相手じゃないんだから、普通にしてていいんじゃない?)
(そっか……ま、そうだろなっ)
(それで、護竜槍 見つかった?)
(ああ、場所だけは、な。
翁亀様が仰った通りだったから、すぐに判った。
あとは、どうやって手に入れるか――つーか、まずは、どうやって入るか、だ)
(やっぱり深神界なんだね?)
(ああ、そうだ。
境界で小願璧を翳したら、光ったよ)
(入るのも、命の保証なんて無い大変さだけど、そこに住んでる神の持ち物だとしたら――)
(厄介極まりねぇだろうな)
(ん~ 、頼んでみよかな……)
(何か、いい手があるのか?)
(まぁね。ウンと言ってくれればいいけど……)
(サクラにしては自信無さげだな)
(俺、自信あった事なんて無いよぉ)
(そうは見えねぇけどな)
(買い被り過ぎだよ)
(ま、そういう事にしといてやる)
アオが部屋から出ようとしていた。
(アオ兄、リリスさん終わっ――てないねぇ。
追い出された?)
(そんな所だよ)
(暑苦しいヤツらだなぁ)
(ハク兄だって、ミカンさんと一緒だと おんなじでしょ)
(っせーなっ!)
「サクラ、代わろう」
「ありがと、キン兄♪」
(アオ兄、父上トコ行こっ♪)
♯♯♯
「おっ♪ 王様達、竜宝の国はどうだった?」
「父上に、そんな呼び方されるのって、すっごく変な感じだからぁ~
その呼び方やめてぇ~」
「そうか。残念だな。
さっき聞いて、嬉しくて仕方ないんだがな。
それで、コハクに話していたんだ」
携行用千里眼を仕舞う。
アオは苦笑して、
「形を失った竜宝の多さに圧倒されました」
「た~くさん、ついて来てくれたよね♪
今回は時間が限られてたけど、今、アカ兄にお願いしてる物が再現できたら、いつでも好きなだけ いられるから、欲しいものあったら言ってね♪」
「考えておく」にこにこ
「竜宝薬も沢山ありましたので、その製法などを、フジの大器まで運ぶ方法を模索しています」
「わわわっ!」
「竜宝薬が、どうしたのですか!?」
フジが突進して来て、サクラに覆い被さった。
「あとで、ちゃんと話すから~」きゃは♪
(フジ兄に、こんなのされるの初めて~♪)
「母上に見つかる前に終わらせないとね」
(嬉しくて仕方ないんだね♪)
「あ……そうでした」赤面。
フジとサクラの塊を見て、キンとハクが笑う。
皆で笑っていると、扉が叩かれた。
王子達が素早く身を隠す。
魁蛇が現れた。
「会食の準備が整いました」
安堵の吐息と共に王子達が現れる。
王の笑い声に連れられて移動した。
♯♯ 神界 ♯♯
【アメシス様、次は、この鈴の音を絶やさず鳴らし続けてください。
この鈴――湧気鈴は、振動や風では鳴りません。
高めた気の力のみが音の源です。
この静寂の祠は、外界の音のみならず、気をも遮断します。
こちらで、修行を続けてください】
【はい。最高神様】
【この修行を成し得るまで、私がアメシス様の代わりを致します。
心置きなく、集中してくださいね】
【ありがとうございます】深々と礼。
最高神はアメシスに微笑むと、女神の方を向いた。
【それでは、見守りをお願いしますね】
【お任せください】にっこり
♯♯♯
【最高神様!】
最高神殿に戻るなり、筋肉質な風貌の男神に呼び止められた。
【天竜が深神界近くに来ておりましたが――】
【構いませんよ】にこっ
【いえ、そうではなく、絆を結んでもよろしいでしょうか?】
【おや、珍しい事を……
何も許可など、既に中位の神ならば、自由に結べますよ】
【個紋の有る天竜でしたが……】
【ああ、それで。
その言い伝えには、何の根拠も有りません。
ただの迷信ですよ】
【では――】
【あ……
王子達は、結心の弓矢を再現しようとしております。
それが成し得たならば、絆を結んでよいですよ】
【試練……という事ですか?】
【はい。必ずや成し得るでしょうからね】
【解りました】
【ならば、儂も、そのように致そう】
初老の風貌の男神が現れた。
【おや……
はい。そのように、お願い致します】
【天界で、見込みの有る孫弟子を見付けたのでな。
絆を結ぼうかと思うたのじゃが、物作りに与える試練、ふむ、良い考えじゃ】
大神が嬉しそうに去って行った。
【あれほどの大神様が……】
【王子達は、闇の神を滅する事を目指しております。
絆を結ぶのでしたら、修行なさいますか?】
【はい! よろしくお願い致します!】
凜「シャルディドラグーナって長いね~」
桜「昔は、長い名前が偉いヒトの証だったんだ」
凜「だから御先祖様のお名前も長いの?」
桜「そゆこと~
竜は鱗色で名付けるから、
名前が偏るでしょ。だから個人を特定
し易くする為にも、長くなるんだ」
凜「でも、王子達は短いよね?」
桜「うん。ここまで単純な名前って
かえって珍しくなっちゃってたみたい~
王族では付けてなくて重複しないから
だいじょぶって、付けたみたいだね~」
凜「アオは? 何してるの?」
桜「考え事~」
凜「改革?」
桜「そぉみたい~」




