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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
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婚約へ2-フジの求婚②

 リリスの涙の意味は……?


 リリスは無言のまま、フジを見詰め、ただ涙だけが流れ続ける。


(……すみません)

フジは絶望感で目を閉じ、唇を噛んだ。


「そうですよね……当然です。

騙して……すみませんでした」


フジは深々と頭を下げたまま動けなくなった。

後悔が怒涛のように押し寄せ、呑み込まれる。


 涙が溢れる前に出て行かないと……


目を閉じたまま、体を起こしつつ背を向けた。


その時、空龍と雪希が、リリスの背を優しく押した。


リリスがハッとする。


「……違ぅ、違うのっ! 待って!」


背を向けたままのフジに駆け寄る。


「私……時々、悲しそうな……辛そうな目をしているの、気づいてたの。

それ……私が苦しめてたのね……」


フジが首を横に振る。


「いえ、全て私が悪いのです。

貴女は何も悪くない。

勝手に御自分を責めないでください」


「責めて当然でしょ!?

確かに、私……ずっと逃げてたもの!


あの目にも……

気づいていながら、聞くのが怖くて……

いなくなってしまいそうな気がして……

気づかない振りをして逃げてたの!


だから……もう逃げない!

それなら……

これからは何でも話してくれる?」


「えっ? 今……何と……?」


「もう、逃げたりなんかしませんから、これからは、隠さず、お話しください!

二度と、苦しめたくなんかないから……」


「……これからが……あるのですか?」


「私なんかで……本当に……いいの?」


外套が翻り、ふわりと二人を包む。


「リリスでなければならないんです」

(ずっと一緒に居てください)


(はい。ずっと一緒に居させてください)


(離しませんからねっ)

(離れませんからねっ)


(リリス……)(フジ……)


やわらかく、心地よい、静かな時が流れる。


ゆっくりと少しだけ顔を離し、見詰め合い、微笑み合う――


 あっ!!


二人は慌てて体を離し、見回した。


いつの間にか、空龍と雪希は居間から出ていた。



♯♯♯



 隣の部屋で空龍と雪希は、慣れない服に袖を通しながら、二人の幸せそうな笑い声を聞いていた。


「今後、ご同席頂きます儀式には、このような御召物を御着用頂きます。

都度、お手伝いには参りますので、御心配なく」

魁蛇(カイダ)が衝立の向こうで、女中に手伝ってもらっている雪希にも聞こえるよう説明していた。



 空龍と雪希が着替え終わり、居間に戻ると、リリスとフジが並んで座り、微笑んでいた。


「お父さん、お母さん、背中押してくれて、ありがとう。

その服とっても似合ってるわよ♪」にこっ♪


「あの……まだ、お話があるのですが……」


「どうぞ」三人、にっこり。


「こちらは後日また改めて、と思っていたのですが、

たった今、隠し事はしないと誓いましたので、簡単に。


先程、リリスさんから私の年齢を尋ねられました。


竜と人とは、生きる長さが違います。

天界と人界では、時間の流れが少し異なりますし、

成長の仕方も異なりますので、ご理解頂き易い説明は難しいのですが……


私は、人界の時間で二百年と少し生きています。

身体的年齢を人に換算すると二十歳くらいらしいです」


「……想像が追いつかないわ……」


「そうですよね。


竜は、天界の時間で数千年から一万年ほど生きます。

人界ですと七、八千年ほどでしょうか。


人に、どのような術や薬を使っても、三百年が限界です。

ただ、竜人となれば、竜と同じように生きる事が出来ます。

もちろん加齢の仕方も竜と同じです。

ただし……

竜人は人界には行く事が出来ません」


「竜人って……見た目は変わるの?」


「いえ、竜の人姿と同じ、人のままです。

あ、見た目は変わりませんが……


あの……子供が……

人と竜の間の、半分半分では――

その……赤子ではなく……」恥ずかしさ全開~


 お、落ち着いて、きちんと説明しなければ!


ひと呼吸。


「人のような赤子ではなく、完全な竜として、卵から生まれます」


「私……卵を産むの!?」言ってから赤面。


「竜人になれば、です」つられて、また赤面。


四人とも暫し沈黙……


コホン。

「でも、この件は急ぎませんから、

ゆっくり考えてください」にっこり、が固い。



「それと――」


「まだあるの?」笑う。


「ええ。

婚約から婚儀の間に妃修行があります」


「えっ!?」リリスが固まる。


「あっ!

でも、そんなに大変ではありません。

王妃ではありませんのでっ!」焦る、焦るっ!


リリスの顔を覗き込みながら、また泣いてしまうのではないかと、恐る恐る続ける。

「あの……

難しい事では無く、この国の文字や、歴史や文化を勉強したり、それと、お茶の作法とか……」


「うん……」


「あっ、舞踏も!

舞踏なら得意ですよねっ♪」


「舞踏なら……」フジと踊るためなら……


「ちゃんと教えてくださいますから大丈夫です。

ひとりで頑張らなくていいですから。

私がいますから」にっこり


「はい。

フジと一緒にいるためなら……私、頑張ります!」




 そして、フジは改めて婚約申し込みの口上を全て述べ、誓いを立てた。

空龍と雪希に異存など有る筈も無く、すんなり終わった。


ただ、

「フジ♪ もう一度お願い♪」にっこにこ♪


「えっ!?」真っ赤。


「だって~、今日しか聞けないんでしょ?」


「『今日』って……」


 普通、一度きりの言葉ですけど……


「ね?」にこにこ♪


フジは空龍に助けを求める視線を送ったが、空龍は微笑んでいるだけで、雪希も同じで――


恥ずかしさが爆発しそうになりながら、フジは、もう二回、誓いを立てたのだった。




 そんなこんなあったが、フジの心は充たされ、安堵から少し余裕も出てきた。


「早速なのですが、真っ先に行きたい場所があるんです。

ご一緒にお願い出来ますか?」


居間を出ると魁蛇が待ち構えていた。

「リリス様、御召し替えを……」恭しく礼。


「では、私は外でお待ちします」フジも礼。




 リリスの着替えを待ち、親娘が庭に出ると、藤紫の竜(フジ)が待っていた。


「先ずは、お墓参りに。

その後で屋敷に向かいます」


フジは三人を乗せ、ゆっくり浮き上がると、慎重に竜骨の祠へと向かった。



「やっと竜に乗れたわ♪」


「お母さんっ、恥ずかしいから、はしゃがないでっ」


「だって、この前は車椅子だったでしょ?

やっと直接なのよ♪」ぺたぺた♪


「喜んで頂けて嬉しいです♪」「もうっ」


「雪希、そんなに覗き込んだら、落ちてしまうよ」

空龍が優しく笑いながら言う。


「お父さん、止める気ないでしょ」笑う。


背で楽しんでいる親娘の笑い声に包まれ、幸せいっぱい抱きしめて藤竜(フジ)は飛んだ。


(護竜甲殿、展開お願いします)【はい♪】



♯♯♯♯♯♯



(アオ、サクラ、眠っていたのか?)


(あ、いえ、起きています)

(書面 読んでた~)


(そうか。そちらの進み具合は、どうだ?)


(順調ですよ、キン兄さん)

(フジ兄も、いい感じ~♪)


(そうか。ならば、昼前にフジの屋敷に向かう。

母上の代わりに署名すればよいのだな?)


(はい。王太子も可でしたので、お願いします)


(解った。では、また後でな)


(はい)(は~い♪)


「アオ兄?」覗き込む。


「うん、大丈夫だよ」にこっ


「もしかして……」


「うん。何か開いたみたいだね」


「ん♪ あとで確かめよ~♪

そろそろ、コレ運んどこ~♪」書面の束~♪


「そうだね。

前王の署名を待つ間、竜宝達の話を聞こうか?」


「うん♪」





凜「アオ、大丈夫?」


青「大丈夫だよ。少し驚いただけだから」


凜「そう。じゃ質問~♪

  どうして天界と人界の時の流れが違うの?」


青「異空間との接点が絡んでいるらしいんだ。

  まだ解明されてはいないんだけどね」


桜「今の人界には、異空間との大きな接点が

  無いんだよ~」


青「異空間には『時空の(はざま)』が有って、

  三界は、その流れに乗っているらしいんだ」


桜「だから、大接点が無い人界は、

  時の流れが、ちょっとだけ ゆる~いの」


青「でも、普段は全く気にならないよ」


桜「あとは、ハザマの森が、時々

  進めちゃうの~」


青「うん。戻るより、進める事が多い

  らしいんだ。しかも天界だけをね」


凜「不思議だね~」


桜「まだまだ わかんないコトだらけ~」


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