仁佳東14-集縮の水筒
くノ一の皆さん、王子達に恋してましたよね。
森に降下して来た色とりどりの美しい竜達は、若者達を乗せ、飛び立った。
「この者達は?」
金竜の背に乗っていた忍頭が、睦月に尋ねた。
「魔物にされていた者と、その友に御座います」
「竜と親しげに……」
「はい。以前もお会い致しましたので」
「巷では既に、このような事になっておったのか……」
「まだまだ、ごく一部に御座いまするが」
(兄貴達! ヤバいよ!)
(人をアカとクロに移して!)
「くノ一さん達! 人を移してっ!」
くノ一達の動きを見た忍達も手伝い、赤竜、黒竜、紅竜、橙竜の背に人を集めた。
その間に、複数の闇の穴が開く。
赤竜が結界を張る。
(クロ兄! 領域供与!)
サクラに促され、クロが供与を発動した。
(フジ、聖輝水を拡散してくれ!)
治癒を持つ四竜が降下し、桜竜が作った光の球に、治癒と浄化の光を注ぎながら拡げる。
藤竜が紫炎に乗せて拡散した聖輝水に当たった獣化兵が、人や魔人に戻り、拡げた光の座布団の中に受け止められる。
「代わります!」
藤竜が降下し、光の座布団の中に、聖輝水を散布し始めた。
四竜は、光を縮めながら結界の上へと移動し、藤竜に託して飛んだ。
藤竜が大きな光の球を結界の上に乗せると、更に、その外に結界が生じ、元の結界と光の球の雪達磨を包んだ。
「アカ殿! クロ!
ワラワと くノ一達を、あの中へお願い致す!」
くノ一達が黒竜に移り、黒竜が光の球との接点へと上昇すると、接点の結界が開き、四人は球の中へと跳んだ。
光の球に当てている藤竜の掌から、聖輝水の瓶が幾つも現れ、漂う。
姫と くノ一達は、その瓶を抱え、中の人達に配り、飲ませていった。
♯♯♯
宙の四竜は、背中を合わせ待機し、魔物達を引き付けていた。
(兄貴達、全開で浄癒閃輝いくよっ!)
辺りが真っ白に輝き、色が戻った時には、魔物達は消え失せていた。
「あれは本物の魔物だから、救えねぇんだ」
供与を解いた黒竜が、悔しさを滲ませて呟いた。
その微かな声は、忍達にだけ届いていた。
竜達が降下し、大きな光の球を地面に置くと、若者達も、忍達も、その光の球に入り、聖輝水を配り始めた。
赤竜は、より大きな結界を張り直し、黒竜と共に次の襲撃に備え、上昇した。
「アカ、あの結界は?」
「天性……堅固だ」
「自分で見つけたのか?」
「勿論だ」
「他にも有るのか?」
「神眼と掌握」
「何が出来るんだ?」
「見えないモノが 見え、実体の無いモノを掴む事が出来る。
だから恍恒鏡を使って、竜宝を再現しようと考えた」
「ってことは……もしかして……」
「それで職能を決めた」
「そんな前から!?」
「俺の天性など、小さなモノだ。
クロ、もっと真剣に自分と向き合え。
お前の天性は、遥かに大きいのだからな」弟。
「アカ……ありがとう……」兄。
♯♯♯
紅竜と橙竜も、別の所に上昇していた。
「王子様方、慣れていらしたわね……」
「これが人界の現状なのね……」
「私達も出来る事を探しましょう」
「そうよ!
護られているばかりではいられないわ!」
「帰りましたら、大婆様と翁亀様に御相談致しましょう」
♯♯♯
忍頭は睦月を見付け、近付いた。
「我等の認識の甘さ、痛感致しました。
戦を終焉に向かわせる為、努める事を約束し、この方々は、回復するまでお預かり致します」
「ありがとうございます」にっこり
「あ……」目を逸らす。「いや……何でも……」
♯♯♯
(帝都の森に戻る?)光の球に掌を当てる。
(アオ、サクラ、頼む)
(クロ兄、アカ兄、森に戻るよ~)
(アオ兄、せ~のっ♪)
――森。
「何とっ!?」
「これも、竜の力に御座います」
黒竜――の塊が現れた。
「このように」
「然様ですか……」
人姿のハクとフジが、黒竜から降り、近付く。
黒竜が消え、再び現れると、樽と瓶を置いた。
「皆をどこに運べばいい?」
「その声――」
ハクが口の前に指を立てる。
「町外れの我等の屋敷に」
「って、判るか?」振り返る。
ハクが向いた先には、人姿のアオとサクラが立っていた。
「見つけた~♪ お庭でいい?」
「はい……」
「参列者の皆さ~ん♪
ご協力ありがとうございました。
空の旅の続きをしましょ♪」
人姿のミカンに連れられて、若者達は再び竜に乗った。
竜が飛び立ち、木々の向こうに見えなくなった。
紫苑、珊瑚、コギが現れた。
「魔人をお救い下さいまして、ありがとうございます」丁寧に礼。
コギの配下が現れては、魔人達を連れて消える。
あれよあれよという間に、それは終わり、妖狐達は去って行った。
「じゃ、お頭さん、入って~♪」
が、忍頭は呆然として動かないので、ハクが連れ込んだ。
(せ~のっ)
――忍屋敷の庭。
「何故……この場所が……」
「もぉ~、いちいち驚かないで~♪
どこに運んだらいいの?」
「ならば、道場へ……」
ひょい♪ とっとこと~♪
フジが樽を置き、鏡を入れ、聖輝水を注いだ。
「薬は、この樽に湧きますので、ご自由にお使いください。
飲み水代わりにもどうぞ」にこっ♪
「お頭さんよぉ、ちょっと味見してくれ♪」
ハクは、フジが持っていた空瓶を貰い、瓢箪から何かを注いだ。
忍頭が恐る恐る舐めた。
「美味い……」
「だろっ♪ 竜喜って酒だ♪
どこに置いたらいい?」大きな瓶を指す。
忍頭の部屋に瓶を置き、鏡を入れ、瓢箪の酒を注いだ。
「協力の礼だ。好きなだけ飲んでくれ」
瓶の中では、酒が見る間に増え、なみなみになった。
「ありがとう……ございます……
あの……貴方様は、本当に竜なのですよねぇ?」
「疑り深いオッサンだなぁ。
あ、ちょうどいい♪ 庭に出ろよ」手招き。
庭では、綺桜と瑠璃の竜が、人姿になろうと光っていた。
「あっ!」
「いいから、人になるトコ見せてやれ」
「いいの?」「ああ」
二竜が人姿になる。
「な♪」
「お頭さん、コレど~ぞ♪」
竹筒のような焼物の筒が、たくさん入った箱を差し出した。
「水筒です。
たくさん入りますけど、重くはなりませんので、お使いください」
「何だ?」ハクが一本 手に取る。
「集縮~♪」
「そっか♪」瓶に向かい「見てろ」入れる。
水筒が沈み、酒を吸い込んでいく。
空になる程迄ぐんぐん吸い込み、湧き出す酒を飲み込み続ける。
「まぁ、だいたい分かったろ?
まだ入るんだが――」取り出した。
酒は再び、瓶になみなみに戻る。
「遠出するのに便利だろっ♪」渡す。
「軽い……」おもいっきり傾け――
「あっ!!」「やめっ!!」「馬鹿っ!!」
どぶぁーーーっ!!
アオは竜になり、サクラを掴んで飛び、
サクラが笑いながら酒の海に一本 投げ入れた。
「ずぶ濡れだろーがっ! 勿体ねぇっ!」
「いや……まさか……申し訳ござらぬ」
「よく解ったろ? そういうモンだ」
「賑やかじゃのぅ♪」
「あ……姫様、終わったのか?」
「終わったぞ♪」
「ずっと気になっておったのですが……
貴女様は、もしや、中の国の静香姫様では?」
「如何にもじゃ♪」
「では、中の国は、既に竜と……?」
「ワラワの婿は竜と決めておるぞ♪」
「もう……そこまで……
仁佳は先進国と驕り、中の国を侮っておりました。
甚だしい失礼を、今 猛省致しております!
どうか……どうか平にお許し下さいませ。
我等に、力を尽くす機会をお与え下さいませ!」
「中は小国じゃからの、致し方無いわ。
御主らの今後に期待致すぞ♪」わはははは♪
(姫って、よその人いると大きくなるよね~)
(だな。ま、頼もしい限りだけどな♪)
(あ、婿殿が来たよ。後は任せよう)
(だね~♪ 馬車に戻ろっ♪)(フジ、戻るよ)
(連れてけよ)(うん♪ せ~のっ♪)
「姫~、どこだぁ? あ、いた」
「次の殿じゃ♪」ぐいっ
「え!? 待てっ! おいっ!」
「ははぁ~っ」平伏。
桜「睦月さ~ん♪
アカ兄が、くノ一さん達の剣は
だいじょぶ? って聞いてたよ~♪
あれ? お頭さんと何してるの?」
睦「次なる打合せにて――
あのっ! サクラ様!?」
桜「姫~♪ 来て来て~♪」ぴょんぴょん♪
姫「如何したのじゃ? サクラ――
睦月……と忍頭……うむ♪ 任せおけ♪」
睦「姫様っ!? 何を!?」
姫「まこと喜ばしき事じゃ♪」わはははは♪
睦「お待ちくださいませっ!
姫様っ! サクラ様っ!」




