仁佳東13-忍頭
前回まで:闇の黒猫が馬車の周りを
うろちょろしています。
が、今回は、先行している
くノ一達のお話です。
♯♯ 仁佳 帝都南部 ♯♯
睦月、如月、弥生は、仁佳の忍頭を追尾していた。
建物や人が疎らになった為、距離を空け、追っていると――
「ヌシら、何奴だ?」
忍頭は背を向けたまま低い声で言った。
「中の国の者に御座います。
忍頭様、私共の話を お聞き下さいませぬか?」
「話とな?」
「はい。私共は、天の竜から聞いた話を伝えております。
人の世を、人の力で魔物から護るため、どうか、お聞き下さいませ」
「近頃、竜が人を助けたなどという噂をよく耳にするが……そのような、まやかしなど信じられる筈が無かろう。
立ち去られよ!」
忍達が現れ、頭の周りを固め、控える。
「いえ、まやかしなどでは御座いませぬ!」
「ならば、竜とやら見せてみよ」
「今直ぐには無理で御座いますが、呼びますので、お待ち頂けましょうか?」
「フン、やはりな。
竜など居らぬのであろう? 目障りだ!」
周りに控えていた忍達が斬りつけて来た!
くノ一達は剣を抜かず避けていたが、相手が多く、躱しきれず、とうとう抜いて剣を合わせた――
――ら、
相手の剣が根元から折れ、弾け飛んだ。
くノ一達が風となり、次々と折れた刃が飛ぶ。
最後に、忍頭の剣を睦月が弾き、
「話だけ、どうかお聞き下さい!」
剣を収め、身を低くし、頭を下げた。
「……その名刀の話ならば聞こう」
「忝のう御座います!」
「銘を見せて頂けるかな?
……『赤虎』とな……聞いた事も無いが……」
「竜から頂きました剣に御座います」
「またしても竜か……」
「呼びますれば」
睦月はカラクリ竜に「ハク様へ」と囁き、飛ばした。
「伝説では、三代・金虎が、竜の国なる所に行き、天の竜に、その技を伝えた、とされておる。
それが真ならば、その赤虎とやら、弟子という事なのか?」
「詳しい素性などは伺ってはおりませぬ故……
ただ、確かなる剣、それしか知り得ておりませぬ」
その時、天から鮮やかな彩橙色の竜が降りて来た。
「このコは貴女のかしら?
ハク様は、お呼びしたから、すぐいらっしゃるわ」
睦月がカラクリ竜を受け取る。
「竜……」忍頭、固まる。
「喋っ……た……」顎が落ちそうな程、愕然。
「どうしたんだ? ミカン――あ、睦月」
白銀の竜が現れた。
忍頭が、へたり込む。
「誰だ?」ハクが忍頭を指す。
「仁佳の忍頭様に御座います」
「乗せたらいいのか?」
「そうして頂けますか?」
ハクが忍頭の襟首に爪を掛け、ひょいっと背に乗せた。
「皆、乗れよ。空で話したらいい」
くノ一達も、剣を折られた忍達も、ハクとミカンに分かれて乗り、飛び立った。
「忍頭殿よぉ、剣は、何本 折られちまったんだ?」
忍達が折れた刃を拾っていた事に気付いていたハクが尋ねた。
「十四本に御座います」
まだ話すどころではない忍頭に代わり、睦月が答えた。
「たくさん折っちまったな♪
アカに頼みに行くか」あはははっ♪
「赤虎の剣……我等も頂けるのですか?」
「やっと口が利けたなっ♪
折っちまった代わりだ。すまなかったな」
馬車に降下すると、深紅の竜が飛び立とうとしているところだった。
「アカ、この男達の剣、作ってくれ。
お前の剣が折っちまったんだよ」
赤竜が忍達ひとりひとりをじっと見る。
「解った。だが、人を殺めたら赦さんぞ」
飛び立った。
「ならば、いつ使うのだ……?」忍頭、首捻る。
「魔物と戦う時、で御座います」睦月、微笑む。
睦月に目を向けた忍頭が頬を染め、視線を漂わせた。
ハクとミカンは、再び天に舞い上がった。
船の発着場にしている荒野に向かいながら、天界と魔界の事を話し、東の国との戦を終わらせて欲しいと求めた。
荒野に近付いた時、天から船が降りて来た。
「船が……飛んで……」またまた唖然。
「あの船には、人が乗ってるんだ。
魔王によって魔物にされちまって、天界を襲撃した人々を、元に戻して、回復したら、こっちに送っているんだよ」
「貴殿方は……襲撃されたというのに、その人達を助けたのですか?」
「当然だ。
捕らえられて魔物にされちまった、あの人達には、何の罪も無ぇからな」
「当然……と……?」
「信じられぬとは存じますが、竜の皆様にとりましては、それが『当然』なので御座います」
「ほとんどが仁佳の人だ。
戦をしているアンタらの国からなら、多少、人が消えちまっても気にも留められないだろ?
だから、戦を早く終わらせて欲しいんだよ」
着地した船に降下した。
「あら、ハク様♪ その方々は?」
「見学者だ。ボタンさん、案内してるのか?」
「ええ。楽しんでおりますわ♪
方々も、ご案内すればよろしいのですね?」
「頼んでいいか?」
「ええ♪ 勿論ですわ♪」
金華の竜が現れた。
「兄貴、仁佳の忍達だ。案内、頼んでいいか?
ちょっと行きたい所があるんだよ」
「解った。ああ、あの招待状か?」
「そうだ。じゃ、後よろしくなっ」
ハクとミカンは船を見送り、仁佳の帝都に戻った。
森に降り、人になって歩き始めた時、人の声が聞こえた。
(ミカン、隠れろ)木の陰に隠した。
「絶対、来るって~」
「本当かよ?」
「竜なんて――あ、人がいる」
若者が数人、ハクとミカンの方に向かって来ている。
そのうちの ひとりが走って来た。
「やっぱ、お前かぁ」
「隠密さん、やっぱり来てくれたんだな♪」
「まぁな」
「竜は?」
「今、飛んだとこだが……」
「後で、また来るのか?」
「呼ぼうか?」(ミカン、竜に戻ってくれ)
彩橙色の竜が、木々を抜けて飛んで来た。
(喋るなよ)(うん♪)
ミカンが若者達に囲まれる。
「で、結婚式は?」
「まだ時間があるから世間話してたら、竜の話になっちまって……」
「時間があるのなら乗るか?」
「いいのか?」
「間に合うように知らせてくれよ」
「そりゃ、もちろんだよぉ。
皆で遅刻するじゃないか~」
「だなっ」
(悪りぃな、ミカン。ちょっと飛んでくれ)
(何が悪いの? 楽しいじゃないの♪)
若者達に「綺麗だ」を連呼されながら、ミカンは上機嫌で飛び、ハクと共に結婚式に参列した。
「ハク先生、ありがとうございます!
来て頂けて、本当に嬉しいですっ!」
「幸せにしてやれよ~
さんざん泣かせたんだからなっ」
「なんか違う意味に聞こえますけどぉ」
二人で大笑い。
「そちらは?」
「婚約者だ」ミカンが、にこやかに会釈する。
「そうですか♪ 先生もお幸せに!」
「もちろん、その点は誰にも負けねぇよ♪」
「流石、ハク先生だ!
でも、俺も負けねぇ、です」
「だなっ♪ お互い頑張ろうなっ♪」
そして、再び森へ――
わいのわいのと賑やかに若者達が付いて来る。
(どうしたもんだかな~)
(もう、竜になっちゃう?)
(それは流石に――あ……)
兄弟達とボタンが降りて来た。
(ハク兄♪ みんなで飛ぼ~っ♪)
睦「あの、凜殿……ミカン様とは……?」
凜「あ……睦月さん……
でも、隠しても仕方ないかぁ。
ハクの婚約者さんだよ」
睦「然様で御座いますか……
当然で御座いますよね……確かに……」
凜「そんな落ち込まないでよぉ~
きっといい事――あ♪ ほらっ♪」
睦「え?」
凜「向こうから~♪」
睦「あれは……」
凜「ま、ゆっくり話せば?」
睦「あのっ! 凜殿っ!?」
凜「じゃ~ね~♪」
霧「睦月殿、竜の街を案内してくださるとか。
お頼み申してもよろしいかな?」
睦「私も一度参りましたのみで御座いまするが
私で、よろしいのでございましょうか?」
霧「睦月殿と――いや、その……お頼み申す」
睦「では、案内致しますれば」
凜「うん♪ お似合いよね~♪
如月と弥生も、そう思うでしょ?♪」
如&弥「はい♪」




