砂漠編2-岩山の玉
砂漠に巣食った魔物は、大きな兎でした。
大兎達が居た後ろの壁には、赤い玉が光っていた。
玉を回収し、岩山を出て歩き始めると、岩山はサラサラと砂に還っていった。
「ひとつひとつ やるのか?」
くるくる回りながら、うんざり口調で姫が言う。
「やるつもりだよ」
しかし、確かに……
比較的 近くに見えるだけでも、
両手で足りない数の岩山が見えるんだよな――
「やるしかないよのぉ……」
「魔物退治の旅なんだからね」
「そぅじゃったのぅ。
それは心したが……砂まみれなのじゃが、水場は何処じゃ?」
それがあれば苦労は――
「それでしたら、陽も傾きましたし、こちらで休みますか?」
蛟は糸が付いた鏡を取り出し、低い所に向かって投げた。
キラリと鏡面を天に向け着地した鏡から、水が湧き出、見る間に大きな池ができた。
続いて、いつもの賽子のような二つの木片が、木の串で繋がった物を、池に向かって投げると、岸辺にひとつと、池に高さ四分ほど浸かった段違いの小屋が、通路で繋がった状態で現れた。
「ほぅ♪ ミズチ、次は何が出るのじゃ♪」
「あとは、夕食が出ますので、それまでに水を浴びてくださいませ」
恭しく一礼。
♯♯♯
夕食の後、アオが、ひとり星を眺めていると、紫を帯びた光が、上空を通過して北東へと飛び去り、再び、こちらに向かって来た。
一瞬 身構えたが、竜であることが判り、警戒を解いた。
藤紫の竜が降り立ち、人の姿になった。
「フジ様ぁ~♪」
夕食の片付けをしていた蛟が、駆け寄って来た。
「素材をひとつ回収したのですが、キン兄様から、アオ兄様に渡すよう託けられましたので。
こちらです」
木の枝のような、杖のような物を、蛟に渡した。
「身に着けて歩けば術力が回復します。
大きければ大きい程、回復力が増しますが……細工は、蛟殿の得意とするところですね」
にっこり。
「それと、こちらも――」
少し透け感のある不思議な花の束も渡した。
「こちらの気候は、お肌の大敵ですからね」
「それでは、兄様、また……」
美しく一礼し、藤紫の竜は飛び去った。
「腕が鳴ります~♪」
蛟は楽しそうに弾みながら、自分の小屋に向かって行った。
仕方ない。皿を洗うか……。
アオは苦笑を浮かべ、水場に向かった。
♯♯♯
夜更け――
(サクラ、来るかい?)
(うんっ♪)現れた。
(洞窟に帰っていたんだね?)
(うん。キン兄に呼ばれたから~)
(何かあったのかい?)
(なんにも~『時々は戻るように』だって~)
アオが必死で笑いを堪える。
(心で話していても真似られるんだね)
(俺にはフツーだから~♪
ね、アオ兄、アレなぁに?)
小屋の隅に置いてある風呂敷包みを指した。
(姫の剣なんだけど、手合わせしていて俺が折ってしまったんだ)
(じゃ、貸して~)
(どうするんだい?)
(アカ兄に直してもらうから~)
(直せるの?)
(アカ兄は鍛冶師なんだ♪)
(さっきの……フジは?)
(薬師♪)
(皆、何かの職に就いているのかい?)
(ハク兄は お医者さん。
で、クロ兄は料理人♪)
(キン兄さんは?)
(ん~とぉ……学者さんで~、俺達の まとめ役♪)
(将って事?)
(うん♪)
(俺は……何をしていたのかな……?)
(……まだ、教えちゃダメなんだ……)
(そう……サクラ、ごめんね)
(ううん、俺こそ ごめんなさい)うるっ――
(俺は大丈夫だから、泣かないで、ねっ)
(うん……)ぽろぽろっ――
(……アオ兄……ごめんなさい)
アオはサクラを抱きしめた。
サクラは心を閉ざし、泣きじゃくった。
♯♯♯♯♯♯
その頃、外では、小屋に身を隠す二つの影が有った。
「長老会と城からは、滞在許可を得ました。
アオの事、お願い致します」深く頭を下げる。
「そ、そのようなっ! 私なんぞにっ!
お顔をお上げくださいませっ!」わたわたっ!
「記憶も力も封じられ、竜に戻る事すら出来ないアオと共になど、酷な事とは解っておりますが……」
「いえ、そのような状態ならばこそ、私はお傍に居りたいのでございます。
突然、勝手に参りましたのに、お許し頂き、感謝の他にございません。
この上は持てる力の限り、アオ様の為に尽くさせて頂きます」
深く深く頭を下げる。
「蛟殿が無理をなさらないよう、戦闘の為にクロを付けますので、アオの心を和らげる役目をお願い致します」
「サクラ様も、いらっしゃっておりますのに……クロ様までも、でございますか?」
「サクラは人界に来て以降、ずっとアオに付いているのです。
どうしてもそうしたいからと……」
「アオ様がお育てになられたようなものでございますからね……」
「それもありますが……アオの封印は、自分が原因だと言い張るのです。
理由は口を閉ざしていますが……」
「サクラ様……ご様子が随分と変わられましたが……」
「どうか、何も気付いていない振りをお願い致します」
「畏まりました」
♯♯♯♯♯♯
また、別の小屋にも身を隠す影――
「もぅ、来ずともよいのじゃっ!
ここは隣国なのじゃぞ!」囁き声。
「隣国なればこそ、でございます」
「ここからは魔物も多いのじゃぞ!」
「心得ておりますれば」
「どんどん城から離れるのじゃぞ!」
「各々の走る距離は変わりございませぬ」
「皆、この為に動くと申すのか!?」
「はい。私共は姫様の御為に存在致しております故」
「ワラワの為と申すならば、ワラワの命に従わぬかっ!」
「その命だけは従えませぬ」
「ええいっ! 頑固なっ!」
「お誉め頂き光栄にて」
「誉めてなどおらぬ! 勝手にせよ!」
「有り難き幸せにて」
「これを持て」包みを押し付けた。
「何方にお渡しすればよろしいので?」
「砂は熱い。靴と申す物じゃ」
「私共に……でございますか?」
「そぅじゃ。使うがよいぞ」ぷいっ。スタスタ――
「お心遣い、誠に忝のうございまする」礼!
凜「サクラ、元気?」
桜「元気だよ~」
凜「カラ元気だね」じーっ。
桜「ふえっ!?」
凜「おねーさんに正直に言いなさい」
桜「お……おね……???」キョロキョロッ!
凜「そこで悩むなっ! 探すなっ!」
桜「ふえぇ~っ!」逃げた。




