仁佳東7-婚約指輪
前回まで:天性『大器』が開いたフジは、
嬉しさのあまり天界に向かって
飛んでしまいました。
♯♯ 天界 ♯♯
長老の山に着いたフジは、夜明けを待とうと、中庭の大池に向かった。
「おぉ♪ フジ、やはり来おったか♪」
「翁亀様、やはり、起きていらっしゃいましたか」にこっ
「天性を見つけたな。
どれ、見てやろう。額を合わせよ。
……ふむ。よい具合じゃの。
繰り返し使うておったら、勝手に伸びるわぃ。
じゃが、まぁ、許せる範囲は拡げておこうかの。
そこの水晶をお前さんの額の前に掲げよ」
翁亀が術を唱えると、フジは暖かい光に包まれ、体が軽くなった。
「器が拡がったからの。
もっともっと入るし、消耗が抑えられたと思うぞ」にこにこ
「ありがとうございます、翁亀様♪」
「書物に残っておらん竜宝薬も有るからの。
アオとサクラが戻ったら、共に竜骨の祠に行け」
「はい!」
「と、噂をすれば、じゃ」にこにこにこ
翁亀の視線を追って振り返ると、アオとサクラが立っていた。
「フジ兄♪」ぱふっと抱きつく。
「サクラ♪」受け止めなでなで。
「今、言うた所じゃが、三人共、竜骨の祠に行ってこい。
御先祖の声をよ~く聴くんじゃよ」
「はいっ!」三人。
翁亀が居る中庭の大池を後にし、
「じゃ、フジ兄、また後でね~」
アオとサクラは蔵に向かった。
フジは、空龍と雪希に薬を渡し、リリスと外に出た。
「こちらの暮らしは、いかがですか?」
「穏やかで、居心地が良過ぎです」うふふっ♪
「きちんと説明出来ず、お連れしてしまって、すみませんでした」
「そんな事……」首を横に振る。
「全て、私達の為に、急がなければならなかったのでしょう?
お父さんまで病気だなんて知らなくて……
だから、最初は驚いたけど、今は本当に、連れて来てもらって良かったって思ってるわ」
「リリス……」真剣な眼差しで見詰める。
「もしも……許されるなら……ずっと、こちらで、私と共に生きて頂けませんか?」
美しく装飾された小さな箱を差し出した。
箱の蓋には、髪飾りの箱と同じ紋章が刺繍されている。
フジが蓋を開けた。
指輪が朝陽を受けて煌めく。
「はい」瞳が潤む。
フジはリリスの手を取り、指輪を嵌めた。
「リリス、ずっと一緒に居てください」
「はい……」
涙で言葉が続かないリリスを、フジは優しく抱きしめ、顔を寄せた。
(リリス……愛しています)
(フジ……私も……)
♯♯♯♯♯♯
その頃、蔵では――
「竜宝は揃ったけど……昼まで待った方が良さそうだね」
「そぉだね~♪」アオ兄も開いたのかな?
「竜宝達の話を聞くのもいいね」
「それしよ~♪
話したいヒト♪ 光って~♪」
一斉に光る。
「どうする?」「どぉしよ……」顔を見合わす。
♯♯♯♯♯♯
リリスの家まで、語らいながら歩き、
「それでは、また参ります。
ご挨拶は改めて……連絡します」腕輪を指す。
「はい♪」手を振ると、指輪が煌めいた。
フジが幸せを心の内で抱きしめていると、リリスの背後で、空龍と雪希が玄関から出てきた。
「あ……」
リリスがフジの視線を追って、振り返る。
「お母さんが……歩いてる……」
「行きましょう、リリス」
手を取り、駆け寄った。
「起き上がって大丈夫ですか?」
雪希が頷く。
「とても気分がいいの。
フジさん、お薬、ありがとう」微笑む。
「良かった……」
リリスが口元を押さえ、瞳を潤ませる。
その手を見た空龍と雪希は、微笑み合った。
「あっ」フジが気付いた。
「すみません! なんだか順序がバラバラでっ!
改めて参りますのでっ!」慌てて礼っ!
「いえいえ、二人さえ幸せなら、何も改まらなくて構いませんよ」
空龍が言い、雪希と共に微笑む。
「そのような訳には参りませんからっ!
でも、全ては、お二人がお元気になられてから、順を追って進めますのでっ!」
頭 下げっぱなし! ひたすら必死!
「本当に良い方ね、リリス」にっこり
「でしょ♪」満面の笑み。
♯♯♯
その後、ウェイミンに辞書を選んで貰い、シロとモモを探し、大婆様に挨拶しに行った。
「そうか、人を迎えるか。
やっと、ここまで来れたのじゃな……
フジ、幾久しぅ睦まじゅうのぅ」にこにこ
「はい。ありがとうございます!」
「準備はシロに任せる。
妃修行は三人になるが、モモ、出来るかの?」
「はい、お任せください」
「フジ、王妃修行ではないからの。
身構えずともよいと伝えるんじゃよ」
「はい、ありがとうございます。大婆様」
「話は変わるが、フジの天性は、大器じゃったのじゃな。
それを竜宝薬に使ぅたか。
フジらしい、良い使い方じゃな」にこにこ
「よく分からないまま、そうしてしまいました」赤面。
「フジには最適な使い方じゃよ。
いかなる世であろうが、時も場所も選ばぬ。
ほんに良い使い方じゃ」にこにこにこ
「その……大器とは、どのような天性なのでしょう?」
「身に付けた技術を、より有益に使う為の知識の器じゃよ。
技術に長けておれば、心の内で、それを再現する事も可能じゃ。
フジは既に、そこまで達しておるのぅ」
「それでサクラは、出来ない時は、一度 実践するように言ったのですね……
ああ、ですから、知らない文字は読めないと……
よく解りました!
これからも技術を高め、知識を深めるよう努めます!」
「人と仲良ぅなり、竜宝薬が甦り……
今日は、ほんに良い日じゃ。
こんな日が来るとはのぅ。
長ぅ生きておれて、ほんに幸せじゃ……
これから、竜骨の祠に向かうのじゃな?
ならば、お婆様――リリス女王にも、報告、頼んだぞ」
「はい。大婆様」
♯♯♯
「フジの天性が大器とはのぅ……
で、どうやって薬を作るんじゃ?」
フジが目を閉じる。
少しして、掌に薬袋が現れた。
シロとモモが袋の中を覗く。
「仙竜丸かの?」
「色が違いますよ」
「仙竜丸を強化したもので、颯竜丸です。
神界でしか育たない、颯薫という薬草が主原料なのです」
「神界の材料……のぅ……」
(フジ兄、助けてっ!
シロお爺様の蛟さん達を蔵に、お願いっ!)
「シロお爺様、サクラが蛟をお借りしたいそうです。
蔵に居るようですが――」
「向かわせるから好きに使え、と伝えてくれ」
「あ……それと、大婆様にお会いしたいと――」
「早ぅ来い、と伝えてくれ」
♯♯♯♯♯♯
蔵では――
「蛟さん達、ここ、ピッカピカに掃除お願いねっ♪
竜宝達! 大婆様にお願いしとくからねっ」
「また来ますから、今日は、ここ迄で、すみませんっ」
アオとサクラは蔵から逃げ出た。
「フジ兄トコへ! せ~のっ!」
――廊下。
「シロお爺様、モモお婆様、こんにちは!」
「賑やかじゃの」笑う。「付いて来い」
「フジ、少し待っていてね」
二人はモモに会釈し、フジに手を振って、シロに付いて行った。
「モモお婆様、妃修行とは、どのような事をするのですか?
人にも出来るのですか?」
「天界や、竜の国の事を勉強するだけですよ。
文字も、習慣も違いますからね。
あとは、お茶や舞踏なども少しは、ね」
「舞踏なら得意だと思います」にっこり
「そう、よかったわ♪
なら、そこから入りましょう」にっこり
♯♯♯♯♯♯
アオとサクラが、大婆様の部屋に入るなり――
「竜宝の王達よ、如何した?」にこにこ
「やはりもう、ご存知でしたか」二人、照れる。
「蔵が大騒ぎじゃからのぅ。
竜宝達が、何か申しておるのか?」
「はい。適切に使用して欲しいと、たくさんの竜宝から訴えられました」
「確かにのぅ……アオとサクラなら、使い方も分かろぅ?
好きに使ぅてよいぞ」
「ありがとうございます、大婆様」
「よいよい。頼りにしておるからのぅ。
サクラ、兄達の天性の具合は如何じゃ?」
「はい。順調でございます。
フジ兄様も、知の大器を使っているうちに、技の大器も発現する事と存じます」
「なんと……二つもの大器を持っておるのか……」
「はい。兄様方は皆、複数の天性を持っております。
それら全てを魔界に達する迄に、せめて開く迄、成す事が出来れば、と考えております」
「ふむ。そちらも宜しく頼むぞ」
「はい」恭しく一礼。
「アオ、まだ、解放から日が浅い。
無理はせず、焦らず、己が力を育てよ。
サクラと共にのぅ。
力が確かと成った曉には、頼みが有る。
その時には、よろしゅうのぅ」
「はい。ありがとうございます、大婆様。
確かなものに出来るよう、力を尽くします」
♯♯♯
「それにしても、サクラは……
まるで、中に別人が もうひとり入っておるようなもんじゃの」
シロが苦笑する。
「俺はアオ兄だからっ♪」
「アオとサクラが入っておると思えばよいのか?」
「そ♪
シロお爺様、突然だったのに、ありがとね♪」
「今のサクラは振りなのか?」
「う~ん……自分でも よく分かんな~い♪
板につきすぎかなっ」きゃははっ♪
「直ぐ切り替え出来るのか?」
「勿論です」纏う気が瞬時に変わる。
「見方によれば面白いのぅ」しげしげ
「遊ばないで頂けますか?」睨む。
「……凄みが……恐ろしい程じゃの……」後退る。
「そぉ?♪」にこっ
シロの大きな ため息が廊下に響いた。
凜「そろそろ、天性について教えてよぉ」
青「そろそろって……俺達が悪いのかい?」
桜「凜が聞かないからでしょ」
凜「だって、ここんとこ隙が無かったでしょ?
で、どんなのがあるの?」
青「治癒、神眼、常強、供与、大器、闇障は
もういいよね?」
凜「うん。説明書いた覚えがあるよ」
桜「光明は闇障の逆~」
青「闇を光に変える、または、光強化だね」
凜「他の属性用の強化もあるの?」
青「基属性だけだよ。素属性には無いんだ」
桜「昇華なら、なんでも強化~」
凜「あれ? 常強は?」
青「常強は底上げ、昇華は一時的な爆発力」
凜「そっか。あ、掌握って?」
桜「フツー掴めないモノ、掴むの~」
青「実体の無い、魂とか光とか。
遠くのモノとか、鏡の向こうのモノとか」
凜「アカが鏡に手つっこむアレ?」
桜「そだよ~」
青「あとは、堅固だね。
瞬時に強い盾や結界が作れるんだ。
術を併せれば、更に強くなるんだよ」
桜「竜の天性は、これだけ~」




