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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
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島の夜6-フジとアオ①

『おまけ』を挟みます。

『おまけ』とは?

 ――脱線です。

 これで私も、胸を張って薬師と名乗れます!

 病を治せる者になれます!


 フジは喜びを溢れさせ、天界へと舞い昇りながら、決意を新たにした、あの島の夜の事を思い出していた。



――――――



 フジは翁亀の話を自分なりに纏めようとしていて、アオに関わる部分で、幼い頃、アオが言った事を思い出していた。


 アオ兄様……


隣で眠るアオを見詰める。


 記憶が戻ったなら……

 いえ、その封印、必ず解きます。

 もう少し、お待ちくださいね、アオ兄様……



――――――



「シロお爺さま、僕も、お医者さんになりたいです」


もうすぐ三人歳になるフジは、長老の山で初等の勉強を終え、祖父に職能の相談をした。


「そうか。ならば、治癒を持っておるか、調べてもらわねばならんのぅ」


「ちゆ?」首を傾げる。


「生まれ持った能力じゃよ。

その『治癒』が無ければ、医師にはなれんのじゃ」


「では、アオ兄さまは、持ってるの?」


「持っておるよ。フジにも有ればよいのぅ」


「はい♪」



 フジは、二人歳上の兄・アオに憧れていた。

アオは既に医大生で、武術にも長けており、なにより、とても優しかった。



――――――



扉を優しく叩く音がし、

『フジ、入るよ』

城から屋敷に帰ったフジが籠っていた部屋に、アオが入って来た。


 フジは二人歳になるとすぐに、貴族達が子を連れて登城した際に、その子らの相手をする役目を与えられており、この日も城に呼ばれていたのだった。


「今日も苛められてしまったの?

今度、お城に呼ばれたら、俺が代わりに行くからね」


部屋の隅で、壁に向かって踞り、泣いていたフジの小さな背をアオは包んで、頭を撫でた。


「アオにぃちゃまぁぁ」


フジは、くるっと回ってアオの胸に顔を埋め、泣きじゃくった。

アオはフジの頭を撫で続けていたが、背をとんとんとして、


「フジ、一緒に長老の山に行かない?

嫌なこと言われないように、勉強して偉くなればいいんだよ。

『王子』ってだけじゃダメなんだ。

ちゃんと本物の力をつければ言われないからね」


「アオにぃちゃま……イヤなこと……いわれない?」


「うん。言われないよ。

大学に入ってからは全然だよ」


「……ぼくも……はいれる?」


「入れるよ。長老の山は勉強する所なんだ。

とっても頑張らないといけないけど、フジなら大丈夫だよ」


「うん。がんばる!」


「遊ぶのは出来なくなるけど、お城には呼ばれなくなるからね」


「べんきょうする! すぐいくのっ!」


「魁蛇さん、大婆様には、俺が伝えます。

城の方、手続きお願いします」


「畏まりました、アオ様。

フジ様を宜しくお願い致します」


フジは気付いていなかったが、執事長の魁蛇が部屋に来ていた。

魁蛇は恭しく一礼し、退室した。




 ひと月後、アオに付き添われ、フジは長老の山に行った。


「魁蛇さん、初等が終わるまでは通いですので、送り迎え、警護の方も、お願いしますね」


「はい。抜かり無く致したく存じますので、細かい事まで全てお教え願えますか?」


「ええ。あ、執事も勉強できますので、ご一緒に如何ですか?」


「それは嬉しい限りですね」


兄弟の後ろで、二人の執事長、爽蛇と魁蛇が話していた。


「フジ、ここに居る方々は、俺達の親族だから、緊張しなくてもいいんだよ。

とっても優しいからね」


「はい♪ アオにぃちゃま♪」


 フジは嬉しくて仕方なかった。

大好きなアオと一緒に居られる事と、城に行かなくてもよくなった事は勿論、

勉強する事は、ちょっと大人になれた気がして、うきうきしていた。


 しかし、アオは大学生で、修練もしており、様々な改革も行っていたので、ずっと一緒というわけにはいかなかった。

それでも、少しの時間でも有れば、アオはフジの様子を見に行っていた。


「フジ、勉強はどう?」


「たのしいです♪」


「そう、良かった♪」


「はい♪」


「あら、アオも来ていたのね♪

一緒に団子はいかがかしら?」


「はい♪ いただきます♪」二人、揃う。


アオが付いていられない代わりに、祖父母がフジの寂しさを埋めていた。



――――――



 フジは賢く、十年(一人歳分)を経ずして初等を終えた。

中等に入れば、長老の山に住む事になる。

これが『長老の山(ヤマ)入り』である。


長老の山(ヤマ)を卒業するまでは、山の外に出られるのは、修学、修練、公務、それと職能の為の修行だけとなる。


長老の山(ヤマ)の卒業条件は、

職能で一人前と認められるか、王族として功績が認められるか、

何らかの博士となるか、特級修練を優秀な成績で卒業するかなど、

いずれも易々とは成す事が出来ないものばかりである。


アオがフジの屋敷に行けていたという事は、その時既に、アオは長老の山(ヤマ)を卒業していた、という事である。



♯♯♯



『フジ、ここを開けて? 話が有るんだ。

大丈夫だから、話そう。ね?』


「アオ兄さま……だって、僕は……僕には……」


フジには、天性・治癒が無かった。

治癒を持っていなければ医師にはなれない。

それは、誰にも、どうにも出来ない事だった。


『ちゃんと道は有るんだよ。

まだまだこれからだけど、フジとなら、一緒に切り拓けるんだ』


「……道? 僕もお医者さんになれるの?」


『将来、治癒を持っていなくても医師になれる道を作ろうと考えているんだ。

フジと一緒になら、それが出来るんだよ』


「どういう……こと?」


『だから、開けて?

ちゃんと話したいんだ』


「うん……」


フジが解錠し、扉を開けると、アオがフジをギュッと抱きしめた。


「辛かったね……」


フジはアオの胸でコクンと頷き、泣いていたが、すぐに顔を上げた。


「アオ兄さま……」


希望の光を求める瞳に、アオは微笑み、頷いた。


「フジ、今は、医師になるには、どうしても治癒が必要だけどね――」

アオは話ながらフジを導き、寝台に並んで腰掛けた。

「――フジは、薬って知っているかい?」


「うん。モモお婆さまが、お腹いたい時にくださいました」


「お腹痛いの治ったよね?」


「はい♪」


「医師でなくても、治癒を持って生まれなくても、病気を治す事が出来るんだよ。

モモお婆様は、薬師なんだ。

薬で病気を治すんだよ」


「くすし……だれでも……なれますか?」


「いっぱい勉強しないといけないけど、誰でもなれるんだよ。

モモお婆様も治癒を持ってはいないから、でも、人を助けたいから、勉強して薬師になったんだよ」


「モモお婆さまも……」


「俺は、いずれ、薬師も医師としての資格を得られるよう、変えていこうと思っているんだ。

薬草の知識だけでも大変だけど、その上で、病気の知識も得なければならないけど……

それでも、熱意が有るのに、天性の有無だけで医師になれないなんて、間違っていると思うからね」


フジが少し考えて頷いた。


「ごめん。ちょっと難しかったかな?」


「ううん。ちゃんとわかりました。

いっぱい勉強したら、お医者さんと同じくらい病気を治せるようになれるんでしょ?」


「そうだよ。

治癒を持っていても、病気の知識が無ければ治療は出来ないんだ。

見て分かる怪我なら治せるだろうけどね。

今は、医師は天性頼みで、薬の知識はあまり深くないんだ。

だから、薬は治療の補助としてしか使われていないんだよ。

だからね、薬師が病気の知識を得れば、的確な薬を使う事が出来て、治療が出来るんだ。

俺は、大学院を出たら、薬の勉強をする。

フジも一緒に勉強しないかい?」


「僕も……くすしになります!」



――――――



 全ては、アオ兄様からでした。

 でも、確かに、この道が私の道です!





白「アオが、よく修練宿舎から消えてたのは、

  フジんトコに行ってたのかぁ」


金「上級卒業まで、ずっと同じ部屋だった

  筈だが、今頃そんな事を言っているのか」


白「兄貴は知ってたのか?」


金「当然、確かめた。

  長老の山は卒業した筈なのに、

  何処に通っているのか疑問だったからな」


白「ちょっ! 待ってくれ!

  アイツ、いつヤマ卒業してたんだ!?」


金「卒業したから、修練を始めたのだ」


白「何したら三人歳でヤマ出られるんだよぉ」


金「アオが二人歳で、いくつ改革したと

  思っているのだ?

  それに、三人歳で医大に入れば十分だ」


白「バケモンだ……やっぱ、バケモンだ……」


金「王族会の事が無ければ、全て、

  もっと早く終えていただろうな」


白「ん? アイツ、試練の山だけは

  遅かったよな?」


金「それは、ハクが山を破壊したから

  ではないか」


白「あ……そうだっけかぁ~?」


金「ハク……」お前という奴は……


白「その目! 怖ぇって!!」


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