仁佳東6-大器
前回まで:アオとサクラは凄絶な覚悟をし、
ハクとフジは護る覚悟をしました。
フジは気を鎮め、目を閉じて考えた。
真夜中の冴えた風が、頬を撫で、心を澄ませていく。
私が成したい事……
幼い頃からの夢は、竜宝薬を再現する事。
アオ兄様のようになりたくて……
薬で病が治せると教えて頂いて……
竜宝には、薬も存在するとも……
全てが、アオ兄様でしたが……
竜宝薬の事を知った時、私の内で、
光が弾けたような感じがしたのです!
私は、病を治したい!
全ての竜宝薬を
自らの手で作れるようになりたいのです!
天性によって動かされている部分が
あるならば、これ以外には無い筈です!
竜宝薬が、治療の為だけでなく、
薬品として、武器としても使えるなら……
適切な竜宝薬を、その場で、
瞬時に作れるなら、戦えますよね……
必要な物を引き寄せられるだけでも……
それなら、知り得る限りの薬を保管した
倉庫を持ち歩くようなものですよね。
その倉庫を充実させる為には、
古文書を読み解ける能力とか、
関連する様々な知識とかも……
材料を再現したり、集めたりする能力も……
……欲しいものだらけですね。
フジは思わず、己の貪欲さに苦笑してしまった。
その時、つい目を開けてしまい、両手が光を帯びている事に気付いた。
いつから? 先程の望みのうち、
どれかが当たっているのでしょうか……?
ともかく――
「私は、竜宝薬と共に在るのですね?」
両掌に向かって語りかけた。
両掌が呼応するように輝く。
「竜宝薬の知識を、全て吸収出来ますか?」
また輝く。
「ならば、自在に竜宝薬を生み出せますね!」
強く輝いた。
そして、フジの周りに無数の書物が浮かび――
これは……まさか……来る!?
――両掌の光に、次々と飛び込んだ。
両手を通じて押し寄せて来る古代文字の大波に耐え――
全て吸収してみせます!
と、両手を広げ、両足を踏ん張った。
開いた天性の大きな器の中に、大量の知識が収まった。
高めていた気で、全て離すまいと包み込む。
深く……深く、清らかな森の息吹きを吸い込み、ゆっくり息を吐いていった。
私の天性は、吸収する能力なのでしょうか?
得た知識の使い方は……?
例えば……空龍さんの病を治すには?
病気の事は、アオから詳しく聞いている。
それを心に留め置き、
この病に最適の薬を!
心の中で、本が開く。
三つの薬名が浮かぶ。
材料は? どう作れば?
心の中に、古代文字と共に材料が浮かび、現れた手が思いのまま作業を進め、早送りのように、次々と作っていく。
心の手に、己が手を重ねてみると、掌に薬の袋と瓶の感触が生まれ――
目を開けると、本当に、掌の上に袋と瓶が有った。
「望んでいた事が全て……
鍛えれば、もっと速くなりそうですね!」
両掌が光る。
喜びが溢れた。
次は、雪希さんの薬を!
二度目はグッと速くなる。
二人分の薬を見詰め――
後は、使い方次第ですよね!
嬉しさが溢れ、衝動的に長老の山に向かった。
(フジ兄、おめでと♪)
(サクラ!?)
(凄いね!
こんな早く、もう使えたんだねっ)
(ありがとう……
サクラが教えてくれたからですよ)
(俺は なんにも~
フジ兄が自分で見つけたんだよ♪
仙竜丸の強いのが あるはずだから、あとで ちょーだいねっ♪)
(はい♪)
(フジ兄が まだ知らない動作もあるからね。
そゆ時は、本に従って実際に一度やってみてね。
あとは心の中で できるからね。
それと、フジ兄が知らない古代文字は、読めないから作れないんだ。
辞書も、ウェイミンさんに選んでもらって吸収してね)
(いろいろ知ってるんですね)
(俺、竜宝の王様だからっ♪)きゃははっ♪
(そうでしたね)ふふふっ♪
(また教えてくださいね、王様♪)
(うんっ♪)
♯♯ 竜ヶ峰洞窟 キンの部屋 ♯♯
「ハク、フジが天界に向かっているのだが……」
「はあっ!? 何やってんだ? アイツ」
「もう一度、涅魁に戻ってくれるか?」
「俺、連続曲空は無理なんだが……」
「なら、留守番を頼む」消えた。
フジは、天性 見つけたのかな……
俺のは何だろうな……
ちょうどいい、真摯に考えるか!
♯♯ 竜宝の国 ♯♯
アオが祠から出てきた。
「確かに面白いね」にこっ♪
「でしょ♪」にこにこっ♪
【もう間もなく、滞在の限りが参ります。
出口に向かいますので、お急ぎください】
護竜槍が飛び始めた。
(フジ兄も、大器 開いたんだよ♪)
(天界に向かっているね)
(会いに行こっ♪)(もちろんだよ)
アオとサクラが、各々、フジに対して心で詫びながら飛んでいると、
挨拶した広場に、竜宝達が集まっているのが見えた。
(どぉしたんだろ?)(けっこう集まってるね)
(俺達、呼ばれてる?)(みたいだね)
「護竜槍、ちょっと降りていい?」
【はい。少しでしたら】
降下すると、竜宝達に囲まれた。
壺美善が進み出る。
【我等が王、供を願い出ました物達が、帰ろうとしないのですが……
如何致しましょう?】
「再現は少しずつしかできないよ?
どぉしたらいいの?」護竜槍に尋ねる。
【この物達は、王の中でしたら、再現の必要は御座いません。
お取り込み頂けましたら、能力を発揮致せます】
護竜槍が、集まっている魂達を確かめながら答えた。
「それなら、皆さんのお力、お借りしますね」
「よろしくね~♪」
ずどどどどっ!!
実際、音はしないのだが、そう表現するより他にない程に勢いよく、竜宝達が二人に入っていった。
(みんな、ありがと♪)中から大歓声!
(宜しくお願いします)こっちも大歓声!
「壺美善、長時間、すまなかったね」
「大変だったでしょ? ごめんね~」
同時に言った。
大きな壺が、頬(?)を染め、少し縮む。
【勿体ない御言葉で御座います】
(やっぱり、お辞儀かな?)(みたいだね)
(けっこうカワイイねっ♪)(そうだね♪)
「ありがと♪ またね~♪」
壺美善に見送られ、竜宝の国を後にした。
♯♯ 竜ヶ峰洞窟 ハクの部屋 ♯♯
ハクは自室に入り、千里眼を卓に置いた。
真摯に、か……
俺は、何がしたいんだ?
護りたい。
共に戦う兄弟や仲間を……
愛しいミカンを……
欲を言うなら、国をもだ。
いや……出来る事なら、全てを、だ!
今は、それだ。
ガキの頃は……?
本能的に望んでた事って……
ガキの頃は、ただ好き勝手に
遊んでいられれば、それだけで良かった。
それが『自由』だと勘違いしていた。
だから、王族なんて、第二王子なんて、
クソ喰らえだと思っていた。
勉強も大っ嫌いで……
だから、鬱積したモノを無闇に
修練で ぶつけて、放出できるのが
とにかく嬉しくて……
そうだ! アオが来てからだ!
何かが、俺の中で変わったんだ。
俺は無意味に反発していた。
訳も分からず暴れていただけだった。
俺の心を縛っていた得体の知れねぇ何か……
鎖のような何かを、
アオが消していってくれたんだ。
アイツ……
翁亀様は、まだまだ力を秘めているって
言ってたよな……
出来る事なら、アイツになりてぇよ……
俺……
兄貴なら、立派な王に成るんだろうな……
俺は……
兄貴には、到底 追い付けねぇよな……
父上には似てるって言われるが、
到底 及ばねぇよ。
弟達の誰にも及ばねぇ……
俺って……
後悔と情けなさで涙が滲んだ。
ため息と共に自嘲し、拭う。
「誰かになんて……なれねぇよな……」呟いた。
だが……
「真似るくらいなら出来るんじゃねぇか?」
内から溢れた光が、ハクを包んだ。
「え……? これって……」
(それだよ。ハク兄♪
もうひと押しだよっ♪)
(サクラ……)
(がんばって♪)
(おう! ちゃんと開いてやっからなっ!)
(うんっ♪)
「よぉしっ!!」バシッ!!
――っぶね~っ!
……己の雷で感電するトコだった……
アオとサクラは、竜宝の国から長老の山の蔵に戻り、フジとハクの様子を見ていた。
青「皆の天性も、サクラが誘導しているの?
キン兄さんには頼まなかったのかい?」
桜「なんとなく そぉなっちゃった~
キン兄とアカ兄は協力してくれてるよ♪」
青「俺は、何もかもサクラに
担わせてしまったんだね――」
桜「それ以上、言わないの~」めっ
青「うん。ありがとう、サクラ。
これからは、俺も行動するからね」
桜「ん♪ いっしょ~♪
でね、問題は、クロ兄なんだよね~
見つけたのに、進まないんだ」
青「クロは晩成型だからね。
ゆっくり、じっくり、焦らずだよ」
桜「そぉなんだ~
性格は猪突猛進なのにね~」
青「うん。だから、今度は姫に夢中に
なり過ぎないかが心配だよ」
桜「たぶん、もぉ手遅れ♪」
青「困った奴だな」




