砂漠編1-岩山と兎
陰陽師と陰陽姫は双子でした。
翌日、アオ達は森を抜け国境を越え、砂漠に踏み込んだ。
「砂と岩山しか見えぬのぅ」くるくるくる。
砂漠には、森の中の村で聞いた通り、無数の岩山が聳え立っていた。
「一番近い岩山に行ってみよう」
先ずは、村からも見えていた岩山に向かう。
「もしや……全て行こぅとしておるのか?」
「当然だろ?
魔物が巣食っているんだからね」
「多いぞ」
「そうだね」
「竜は来ぬのかのぅ」
額に手を当て、天を仰ぐ。
アオも空を見上げた。
サクラ……
やっぱり、この気はサクラなんだね。
(アオ兄♪ なぁに~?)
(やっぱり、空に居たんだね)
(だって~、隠れるトコ、ないんだも~ん)
(気をつけるんだよ)
(は~い♪)
(毎日、洞窟から通っているのかい?)
(うん♪)
(そんなに留守にしていて大丈夫なのかい?)
(兄貴達み~んな、どっか行ってるから~、俺がいなくても、だ~れも気づかないんだ♪)
(洞窟は、いつも留守なのかい?)
(ううん。キン兄は、ずっといるよ。
だから、キン兄だけ言って来てるんだ)
(キン兄さんが長男なんだよね?)
(うん♪ 次がハク兄で、その次がアオ兄♪
で、クロ兄、アカ兄、フジ兄。俺 末っ子~♪)
(サクラは、随分 年下みたいだけど……)
(うん♪ 卵の中に、長~~く いたから♪)
(ああ、そういう事か……竜って、産卵は同時期でも、孵化がまちまちなんだね?)
(そのとぉり~♪)
(皆、出掛けているって、何処に行っているんだい?)
(知らな~い)
(何の目的で人界に来たんだい?)
(魔物退治……かなっ♪
俺、兄貴達と離れたくなくて、ついて来ちゃっただけだから……よく わかんな~い♪)
(そう……なんだ……)
(ねっ♪ アオ兄♪)
(ん?)
(今度、モモお婆様の団子、もらって来るね♪)
(モモお婆様……)
(うん♪ 父上の御母上♪
と~っても おいしい団子、作ってくれるの♪)
(ありがとう、楽しみにしているね)
(うんっ♪)
皆、口に砂が入るので、黙って進んでいたが、蛟が面を被り、口を開いた。
「皆様、お配り致しました面は、陽除けでもございますが、砂嵐の際にでも呼吸が出来ますよう細工致しておりますので、息苦しい時には、お着けくださいませね」
皆が面を確かめ、顔に当てるなどしていると、姫が蛟の前に出て、後ろ向きに弾み始めた。
「ミズチは不思議道具屋なのじゃな?」
「まぁ……そうですねぇ。
道具や細工は、好きでございますねぇ」
「団子や饅頭が出てくる道具は、持っておらぬのか?」
「は?」ぱちくり。
「何処でも甘味が出てくれば嬉しぃからの♪
持っておらねば作るのじゃ♪」
「はぁ……」
「蛟を困らせないでくれよ。
姫は昨日、あれだけ食べたのに、まだ足りないのかい?」
「昨日は昨日、今日は今日なのじゃっ」
「動きが鈍る程には食べないでくれよ」
「煩いのじゃっ! アオのバカッ!」真っ赤!
「馬鹿は無いだろ……あ、ぶつかるよ」
「ぃたたたたた……」後ろ頭を押さえて蹲る。
「大丈夫かい?」「遅いのじゃっ!」
岩山に着いた。
岩山には堅丈そうな扉が付いていた。
蛟が鍵穴に板状の物を当てると、鍵は難なく開き、アオ達は重い扉の向こうに進んだ。
岩壁には、所々 小さな明かり取りの穴が有り、通路は上へ上へと螺旋状に続いていた。
岩山の内側に向かって扉が有ったが、どれを開けても取り立てて何も無かった。
最奥、つまり、最上階が開けていた。
その広間には――
二匹の大兎が居た。
闇の穴から出て来る魔物とは別物らしいな……
闇のような色もしていないし、雰囲気も違う。
なんだか、人っぽいよな……。
二匹は揃いの黒装束に眼帯をしている。
大兎達は、アオ達に気付くと、それぞれが毬のような物を投げてきた。
不意を突かれ、剣で防ごうとした刹那、蛟が立ち塞がり、毬は蛟の頭に当たって弾けた。
キラキラした破片は、闇黒色の靄に変わっていく。
そして、吸い込まれるように大兎の眉間に入り――
大兎から靄が噴き出し、自身を包むと、靄の中の影は人の形に変わった。
もうひとつの毬は!?
姫から、破片が靄に変わりつつ、大兎に吸い込まれている。
そして、もう一匹も靄の中で人の形になった。
「大丈夫かっ!?」
「何ともございま――」蛟が固まる。「キン様?」
「痛くも痒くも無いぞ。じゃが……」姫も固まる。
「そうだろう、そうだろう♪」
大兎がクックッと笑いながら喋り始めた。
声までも――
「お前らのイッチバ~ン恐れている者になってやったぞ♪」
でも、話し方は……
何ともご陽気な……。
「技や術も同じように使えるんだっ♪」
「オイ、バラすなよ~」
「敵わないんだからいいじゃ~ん♪」
「お前なぁ……」
大兎達は喋り続けているが――
「どんな技があるんだい?」蛟に問う。
「それが……キン様には、一度も お手合わせして頂けなくて……皆様から、一番お強い、と伺うばかりで……」
「なら、技や術などは――」
「存じませんよ」キッパリ。
それは、ひと安心。
姫の方を向く。「あの方は?」
「アヤツは乳姉妹じゃ。
何をやっても敵わぬのじゃっ!」
「何を、って何?」
「琴も茶も花も書も……とにかく何もかもじゃ!」
あ~、そっち方向なんだね。
ということは――
「恐るるに足らずって事だね」
「では、私が浄化致しましょう」
「慎玄殿、お願い致します」
「浄浄万象!」光が迸る。
アッサリ勝利。
小さくなった兎達は、ぴょこぴょこ逃げて行った。
「元に戻ったのじゃな……」
「そうみたいだね」
「キン様が、この場にいらっしゃいましたなら、即、滅された事でございましょうねぇ」
「話し方かい?」声が同じなだけに……?
「まさしく『逆鱗に触れる』といぅ事じゃな」
皆、その光景を思い浮かべ苦笑した。
凜「キン様、もし、あの場にいらっしゃったら
滅してしまいます?」
金「冷静でいられるかと言われると……」
凜「冷静そうですけどね~」
金「そういう場合は、アオが冷静に諌めて
くれていたのだ」
凜「アオって……」
金「三界史上最高の王の補佐を目指している男だ。
だから、必ず封印は解く。
だが、今暫くは、このままでもよいのでは
ないかとも思っている」
凜「それは、どういう?」
金「記憶が無い為に、影を背負ってはいるが、
友に見せる、あのような明るい笑顔は、
あの時以来、見てはいなかったからな」
凜「あの時とは?」
金「いずれ、書く時が来るであろう」




