仁佳東2-マーさん
前回まで:馬車は仁佳の東岸に戻りました。
♯♯ 天界 ♯♯
キンとハクは天竜王城で、立太子と婚約絡みの儀式について打ち合わせた後、
王、前王達と共に、馬頭鬼に会いに行った。
馬頭鬼は執事見習いとして、王の執事長に、しごかれていた。
「マーさん! 先程 指摘したばかりでしょっ!
何度 申せばよろしいのですかっ!?」
執事長の声が怒りで裏返り、
『マーさん』こと、馬頭鬼は縮こまっていた。
「まぁまぁ、そう怒らず」ギンが笑う。
「彼を借りて行ってもいいかな?」コハクも苦笑。
執事長は恭しく礼をし、
「御意のままに」馬頭鬼を解放した。
ギン王の執務室に入る。
「魔界の事、魔王の事、知っている限りを詳しく話して頂けるかな?」
「はい、ギン王様。
何から、お話しすればよろしいのでしょう?」
「そうだな、魔王とは何者だ?」
「はっきりと見た事もございませんので、正体など存じませんが……見る度に、姿が違っておりました。
おそらく、依代を求めて、様々な身体を試しているのだと存じます。
中の気は、竜のような……しかし、何かが混ざっているのか、少し違うような……そんな感じが致しました」
「この前の『影』と呼んでいた輩は?」
「あれは魔王の影、分身の様な魔物です。
何体も存在していて、全て、あの様な闇黒竜の姿をしております」
「本拠地は何処なのだ?」
「地下魔界です、コハク王様。
地下魔界には、数多くの拠点が在ります。
魔王は、それらの拠点を移動しますので……
今、何処なのかは分かりません。
これまで拠点となった場所でしたら、分かりますが……」
「後で、魔界の地図を描いて欲しい」
「畏まりました」
「リジュン殿をご存知ですか?」
「キン様、リジュンとは……?
ああ、リ博士の事でしょうか?
竜血環を作っていた――」
「そうです!
その方は生きておられますか!?」
「おそらく……殺される事は無いと存じます。
魔王は、博士の知識を必要としておりますから。
私が最後に見た時には、眠っておられました。
博士は、試作品の竜血環によって、操られておりましたが、試作品故か、予期せぬ副作用が起き、その副作用が進まないよう、眠らされたと他の幹部から聞きました」
「今、どうなのかは分からないのだな?」
「はい……申し訳ございません」
「いや、謝る必要は無い。
リ博士のご家族については、ご存知ですか?」
「ご両親、ご兄弟――妹様と弟様でしたか……それと、奥様と、お子様がお二人。
皆様、捕まっておりましたが、お父様は病死、妹様と弟様は、博士が反抗した際に闇化されたと……
記憶に自信はございませんが……」
「残りの方々は?」
「存じ上げません。
人界――西の国の砂漠では、竜血環の試作品を、私が試しておりましたので、接触もございましたが、
以降は影直属となりましたので、その後の事は、知る機会が無く……眠らされていたのも、偶然 見掛けました次第でございます」
「竜血環以外の魔宝は、再現や改良をされていないのか?」
「はい、ハク様。
神禍乱を再現しようとは、しておりました」
「それは、どんな魔宝なんだ?」
「神竜の力を奪い、自分のものにするのだという、漠然とした事しか聞いておりません」
「その為に神竜の魂を集めていたのか……
それで、実現の見込みは?」
「博士が眠っていては、進めようが無いと存じます」
「では、捕らえられた神竜の魂は?」
「そのまま、どこかに閉じ込められている筈でございます。集めるのは大変ですので。
試作品が出来れば、効果を試すでしょうが……」
「何にせよ、早急にリジュン殿を救出したい。
眠らされている場所――最後に見た場所でいい。
後で描く地図に印して欲しい」
「畏まりました、キン様」
「リ博士が眠ってて、何も進まないって事は、携わっているのは、博士ひとりだけなのか?」
「はい、ハク様。
以前は数人いたのですが、役立たずは必要無い、と闇化され、リ博士だけになってしまいました」
「人を大切にしねぇと国は滅びるんだがな。
それにしては、お前、重用されてたな」笑う
「はぁ……
それはもう、必死で取り入りましたので……」
「再生して貰ったとか言ってたよな?」
「はい。妖狐の三の姫様に滅された筈なのですが、何故か元に戻っておりました」
「方法は知っているのか?
使用する魔宝や魔術は?」
「全く分かりません。
ただ……目覚めた部屋には大きな鏡があり、
この身体は……別の誰かの身体に、私の……何と申しますか、因子の様なものが融合している……そんな気が致します」
「魔王が依代を求めている可能性が有るとすれば、実験だったのかもしれんな。
自分好みの依代を作る為のな」
ギンが顎に手を当て呟いた。
扉が叩かれた。
「国王様、お時間でございます」
執事長を見て、マーさんが跳び上がる。
王達が解散を告げ、マーさんは執事長に連行された。
前王達とキン、ハクは、長老の山に曲空し、シロが大婆様に報告を始めた。
それを聞きながら――
(アオ、サクラ、馬頭鬼の話は信用出来るのか?)
(キン兄、だいじょぶだよ。
嘘は感じなかったから)
(馬頭鬼を再生した方法は分かるのか?)
(う~ん……鏡と、誰かの身体でしょ?
竜宝 使った術でも、そゆ『禁じ手』があるにはあるけど……)
(珍しく歯切れが悪いな)
(その術、ものすご~く力を要するから……
だから神竜の魂を集めてたと思うんだ。
でも、まだ、その力を得るための神化乱は、完成してないんでしょ?
なのに再生してるでしょ?
おかしいんだよね……)
(力を得る方法も、色々と試しているのかもしれんな)
(そぉかも……ね……)
(魔界へは、ハザマの森を通るしかないのか?)
(そんな事ないよ。
人界から魔竜王国に通じる道があるんだ)
(知っているのか?)
(人界からの入口は知ってる。
でも、解空鏡を見つけないと通れないんだ)
(サクラ、竜宝の国に行ってみようか?)
(そぉだね♪ アオ兄、行ってみよ~♪)
(待て、竜宝の国とは?)
(竜宝の魂達が居る所なんです)
(行けるのか?)
(俺達二人なら、行けます)
(そうか……なら、頼む)
(はい)(うん♪)
♯♯♯♯♯♯
「皆、合流したばかりなのに悪いんだけど――」
「また、どっか行くのか?」
「うん。ちょっと探し物~」
「私も、こちらに居りますので、行ってください」
フジが入って来た。
「フジ、お前、また来たのか?
上には行かねぇのか?」
「それも、ちゃんとしていますので、ご心配無く」にっこり
「ちゃんと……かよ……」
「クロ兄様より先に結婚してしまいますよ。
クロ兄様こそ、ちゃんとなさったらどうです?」
「いや……それは……」姫をチラッと見る。
「これじゃからのぅ~
他の者に乗り換えよぅかの♪」見回す。
アオとサクラがビクッとし、
「じゃ、行くねっ」
「ルリ、おいでっ」きゅる♪
(蔵にっ! せ~のっ!)消えた。
「姫……マジか……?」
「どぅじゃろのぅ~♪」
笑い声と共に、馬車は進んで行った。
黒「なぁ……姫は、本気で言ってるのか?」
凜「知らないわよ。
私は実況中継してるだけなんだから」
黒「姫、オレは本気なんだ。姫の事を――」
凜「それを岩じゃなくて、姫に言いなさいよ」
黒「うっ……」カックン
姫「クロ~、昼餉は何じゃ?♪」ぴょこっ♪
黒「もちろん旨いもんだっ!
アオとサクラにオレが勝てる事は
コレしか無ぇっ!」ダッ!!
姫「甘味も作ってくれるかのぅ♪」
凜「今なら、何でも作ってくれるわよ♪」
姫「さよぅか♪ しからばっ!」したたたっ!
凜「お幸せに~♪」
 




