仁佳東1-芳小竜ルリ
変な空間から、意外とアッサリ出ちゃいました。
クロは馬頭鬼を城に届け、長老の山から、投じるだけで小屋になる竜宝・家賽をありったけ持って、馬鈴草が咲く草原に戻った。
そして、馬頭鬼の一族に家賽の使い方を伝え、馬車と仲間を、船の発着場になっている鍛練場に運んだ。
「あ? アオとサクラは?」
幌を開け、二人が居ない事に、やっと気付いた。
(アオ、サクラ、どこだ?)
(少し用が出来たんだ。
馬車を頼んでもいいか?)
(サクラも、か?)
(うん。いっしょ~)
(そっか。
じゃ、仁佳に向かうからな)
(ああ、頼んだよ)
♯♯♯
アオとサクラは、深蒼の祠に居た。
深蒼の祠は、浄化の祠とも呼ばれ、水属性のアオにとっては、諸々の儀式などでも、よく行く場所である。
(サクラ、始めよう)
(うん。アオ兄、ごめんね)
(謝る事なんて何も無いからね)
アオはサクラを支え、並んで祈りを捧げた。
正面上方の青みがかった玉から、光が降り注ぐ。
サクラを覆う闇の気が、洗い流されているかのように消えていく。
同調したアオからも闇の気が消える。
二人は安堵の息をつき、光の気を纏った。
浄化は終わったが、そのまま暫く祈り続けた。
(体力が、まだまだだね)
アオは回復の光でサクラを包んだ。
(少し眠るといいよ)
アオは光を重ねると、サクラを抱え、屋敷に曲空した。
♯♯♯
サクラが目を覚ますと、アオが傍で光を当てていた。
(アオ兄……ありがと……)
(うん。今日は、ゆっくりしよう。
闇は消耗が激しいからね)
(アオ兄は だいじょぶ?
闇に侵されてない?)
(大丈夫だよ。サクラが護ってくれただろ?)
(できたかどうか……わかんないから……)
(ちゃんと出来ていたよ。
ありがとう、サクラ。
何か俺に出来る事は有るかい?)
(んとね~、添い寝っ♪)二人で笑った。
(でも、俺も眠っとくか)並んで寝た。
♯♯♯
(アオ兄様、どちらにいらっしゃいますか?)
(フジか……今、屋敷だよ)もう、夜か……
(お休みでしたか?
でしたら、また改めて――)
(いいよ。もう十分、休んだからね。
どうしたんだい?)
(いえ、たいした用では……
ただ、どちらにいらっしゃるのか、伺いたかっただけなんです)
(フジ、また悩んでいるね?
だから、すぐリリスさんの所に行かずに、馬車に来たんだろ?
今度は、どうやって王子だと言おうか、かな?)
(そ……それは……)
(手紙には書かなかったんだね?)
(…………はい)
(まだ、日程は調整中なんだけど、キン兄さんとハク兄さんの立太子と婚約の儀が、もうすぐなんだ。
そうなると、国を挙げての祭になるから、山奥に居ても知る事になるだろうね。
焦らせて申し訳ないけど、早くフジから言うべきだよ)
(……はい……そうですよね)
(きっかけが欲しいのなら、婚約申し込みをしてしまったらどうだい?
その時に、王子だって事も、竜と人の違いも、話してしまったらどうかな?)
(そうですね……その機会しかありませんよね……)
(きちんとした儀式は、兄さん達の後にして、内々で、空龍さんの御宅で申し込めばいいよ)
(それなら、手続きなどは、後ですればいいのですね!)
(フジは儀式を簡素化したいかい?)
(そうですね……派手な事は……好きではありません)
(リリスさんは、どうなんだろう?)
(普通に……人界と天界で挙式……くらいに思っているのではないでしょうか……?)
(母上が絡まないものは、署名だけに出来れば嬉しいかい?)
(それは嬉しいです! ……けど……)
(うん。じゃあ、その方向で。任せてね)
アオが、これまで様々な修行や試練などの年齢制限を引き下げたり、期間修得を課題合格式に変更したり、とにかく早く突破できるよう、改革の先駆けとなってきた事をフジは思い出した。
最終的に、全ての年齢制限を撤廃したのは、サクラだったが、アオの行動が無ければ、サクラはまだ、人界の任には就けていなかっただろう。
アオ兄様、また、やるんですね?
(兄弟全員、真面目に儀式していたら、都度 集められてしまうし、大変だからね。
俺は、儀式よりも、早く平和な世界に出来るよう、動きたいんだ)
(ありがとうございます、アオ兄様。
迷いは無くなりました。私も動きます!)
(そうか。二人の為だ、頑張れよ、フジ)
(はい!)
結婚……か……
否が応にも時は流れる。
しかし、俺には……
……ルリ……
扉を叩く小さな音がした。
「どうぞ」
しかし、扉は開かず、コツコツと音だけが続く。
不思議に思いながら扉を開けると、芳輝石の竜宝・青いチビ竜が、ふよふよと宙に浮いていた。
解放の後、屋敷に預けてたんだった……
芳小竜がアオの胸に飛び込む。
「寂しかったのかい?」
きゅ~
「ついて来る?」
きゅるっ♪
「ちゃんと言葉が解るんだな……」
きゅるる♪ きゅるる♪
ご機嫌な芳小竜を肩に乗せ、アオはサクラに光を当て始めた。
♯♯♯
翌朝、馬車に戻ると、キンが来ていた。
「キン兄さん、どうしたんですか?」
「これからハクと天界に行く。
その前に、馬頭鬼の件を聞きに来たのだが……
アオ、サクラ、大丈夫なのか?」
「少し消耗し過ぎてしまって……
屋敷で寝ていただけですよ」あはは……
「アオ兄に添い寝してもらった~♪」
「それだけなのか?」
(どうしようもなくて、闇 使っちゃったから、疲れただけ。
だいじょぶだよ。
キン兄、ありがと♪)
(そうか。大丈夫なら、それでいい)
きゅる~♪
芳小竜が飛んで行き、姫の頭に乗った。
「元気じゃったか? ルリ♪」なでなで♪
「ルリ!?」キンとアオ。
「このコの名じゃ♪
綺麗な瑠璃色じゃからのぅ♪」
(いいのか? アオ……)
(もう大丈夫ですよ、キン兄さん)
(そうか……)
「おいで、ルリ」
芳小竜がアオの方を向き、ふよふよ飛んで掌に乗った。
随分と可愛くなってしまったね。ルリ……
サクラは、優しく芳小竜を撫でているアオを見詰めていた。
アオ兄……とっても悲しそうな色……
心配や不安が、とてつもなく大きな波となって押し寄せて来たが、何も言葉には出来なかった。
芳小竜のルリと、アオの恋人らしきルリ……
黒「また何か、話をややこしくしようと
企んでるんだろ?」
凜「クロ、またそんな人聞きの悪い~
そろそろ、アオとサクラの話も~
と思っただけよ♪
まさか、この二人をくっつけるワケには
いかないでしょ♪」
黒「それはそうだが……
その前に、フジを落ち着かせろよなっ」
凜「あ……」




