異間域3-救いの手
前回まで:アオ達は、異間平原に
飛ばされてしまいました。
異間平原を進む馬車の中――
「昼間は襲撃しに来ねぇのかなぁ」
「それは当然、弱っている夜を狙うでしょう」
「夜……襲撃あったのかな……」
「ええ、何度か ありましたよ」
「護ってくれたんだな……アイツら」
眠っているアオとサクラを見る。
サクラが寝返りをうって、アオに寄り添った。
「……可愛いですね」「そうだな……」
「二人も同じ姿じゃぞ」くくくっ♪
クロとフジが顔を見合わせ、笑いだした。
!!
急に馬車が速度を増した。
「上だ!」
クロとフジが三眼、四眼を各々の手に、馬車の上に立った。
大翼の魔獣が、馬車を掴もうと迫っていた。
馬車を蹴って、魔獣の左右に跳ぶ。
同時に剣を振り下ろす!
細く鋭い竜巻と紫炎に貫かれ、魔獣は塵と化した。
「単独とは……偵察でしょうか?」
「余計に気味悪ぃよな……」
馬車に戻ると、アオとサクラが起きていた。
「まだ寝てていいぞ」
「いや、十分だよ」
「そっか。なぁアオ、境界って何なんだ?」
「え?」絶句……
「今更ですよね……」
「ちゃんと勉強しないから~」
「勉強嫌いだからね」
「それにしても酷くは無いですか?」
「そぉだよね~」
「確かに……」
三人、クロを見る。
「ちげーよっ! 竜しか知らねぇだろっ!」
だからなぁ、皆の為にだ、その……ぶつぶつ……
「まぁ、そうだね。
元々境界は、天界、地上界、地下界各々の間のただの区切り領域だったんだ。
境界は、その区切り領域に、太古の神々が争う中、互いの行き来を阻止しようと、強固な結界を張り合った事が起源だと言われているんだ。
だから、神竜や、その神は魔界に入れないし、闇を持つ者は神界には入れない。
人や竜は、条件さえ整えば、どこにでも行けるんだけどね。
魔王は、何代か存在していると思うんだ。
初代は神竜か神なんだろうけど、この結界合戦をしていた時の魔王は、竜か、竜を依代としていた神なんじゃないかと思う。
だから、竜は通過出来るようにした。
俺は、そう思うんだ。
そういう結界起因の境界とは別に、天然の境界――ハザマの森や、ここのような界と界との間の不安定な領域も存在するんだ」
「人は何故、天界との境界を通れぬのじゃ?」
「各境界を通るには条件が有るんだ。
竜も、竜体でなければ人界と天界の境界を通過出来ないんだよ。
人は、竜宝を組み合わせた、あの船の力が有れば通過出来るんだ。
他の境界も、無条件では通過出来ないよ」
「あと、力の強い竜族が、他の種族と手を結ぶのを嫌がって、竜を孤立させる為に作った、とも言われてるよね」
「そうだね、サクラ。
だから竜宝が進化し、発達したらしい。
それまでは、生活を便利で、豊かにする為の道具が主流だったんだけど、境界を通過する為の竜宝が生まれ、兵器が生まれ……
この剣達も、そうやって作られたんだ」
「人は、魔界への境界を越えられるのか?」
「その為の竜宝を用意するよ」にこっ
「二人とも、竜の要素あるから だいじょぶ~」
「何じゃ? それは?」
「慎玄殿は、竜の血族だし、姫はクロから竜の力を貰ってるから、条件が竜に近くなっているんだ」
クロと姫が頬を染める。
「クロ兄、かわいい~♪」「るせーっ!」
その後も、単発の襲撃が有ったが、難なく進んで行った。
「ぽつりぽつりと何なんだ?」
「俺達の位置を確認してるんじゃないかな?」
「相手にとっても、私達の気を掴み辛い場所だという事ですね?」
「たぶん そぉだね~」
午後になり、景色が変わらなくなってきた。
「あの岩、ずっと同じ所にあるよな……」
「進むのは限界みたいだね」
「やっぱり、境界 越えるのムリみたいだね~」
馬車が停まる。
皆、サッと外に出た。
馬車の前に、闇の穴が穿たれた。
――が、
手だけが出てきた。
その手が白旗を振る。
この気……
「馬頭鬼! 出ておいでなさいっ!」
二人の珊瑚――いや、紫苑と珊瑚が、声を合わせ、凛と言い放った。
「出たら殺す気でしょ……」弱々しい声がした。
皆、近くの者と顔を見合わせる。
「話を聞こう。紫苑殿、珊瑚殿、いいかい?」
紫苑と珊瑚が頷き、少し下がった。
「私……先日、天竜王様の御力を間近で拝見致しまして、いずれ、天魔どちらかに殺されると確信致しました。
それで、以降、次の準備中と偽り、『魔王』と、あなた方が呼んでいる御方からの命を保留し、これまで、身を隠しておりました。
ですが、この空間も、もはや限界。
収縮を始めました時に、あなた方の気を感じ取りまして……
その……
あなた方を、この地から お出しする代わりに、私の一族の安住の地を頂きたいのです」
「これまでの事を棚に上げて交渉かよ!」
「クロ、そう怒らないで。
この前、三眼の玉も返してくれたし、改心してるみたいじゃないか」
「お怒り、ごもっともです。
私は、どうなっても構いません。
族長として、一族の命さえ、お助け頂ければ、他に何も望みません」
「もしかして……
今までのも、一族のみなさんを護るためなの?」
「ええ、まぁ……
そうしなければ、皆を闇兵――傀儡にすると……
たいした力を持たぬ我々には、抗う術などございません」
「それにしては、ノリノリだったよなぁ」
「私なんか、背を撫でられ――」
「うえ~」
「サクラは、いないか寝てるかだっただろ!」
「だって知ってるも~ん」
「静かにしてくれ!」
「解った。だが、王と相談したい。
先に誰か、天界に送ってくれないか?」
「それは、もう無理なのです。
私にはもう、魔王の加護がありませんので、今、ここに穿った穴が最後なのです」
「皆、どうする?」アオが振り返った。
「父上様は私が説得します!」
フジが身を乗り出した。
「中の国で良ければ住んでよいぞ」
「一族の方々には、罪は御座いませんので」
「魔王や魔界の事を教えろ」
「そうだな。
出して貰えるなら、安住の地を確保しよう。
魔王や魔界の事を教えて貰えるのなら、お前も、そこに住めばいい」
「ありがとうございます!
この御恩には、必ず報いますので!
では、お入り下さい」
「穴、拡げてよ~」
「闇の力が足りず、これが限界なのです」
「仕方ないなぁ」
サクラが闇の気を纏い、闇の穴を大きく拡げた。
「早く入って!」
皆が馬車に乗り、馬車が駆け込むと、サクラは闇の穴を閉じた。
「闇使いの天竜……」馬頭鬼が驚き、口にした。
サクラがサッと口の前に指を立てる。
馬車の中は、姿が戻ったと騒いでいて、聞こえていないようだった。
「あ! 完全に閉じたら――」
「だいじょぶ~♪ 俺が穿つから♪」
そして、再び穴を穿つと――
そこは、青く煌めく花が咲き誇る草原だった。
そよ風に揺れる小さな花が、青い波のようで、微かな鈴の音のような可愛らしい音色が、絶えず聞こえていた。
「これは……馬鈴草……」
「ここなら満足でしょ?
クロ兄、フジ兄連れて長老の山 行ってよ。
馬頭鬼さん、みなさん出してあげて♪」
サクラは、おもいっきり穴を拡げた。
ぞろぞろと馬頭鬼の一族が出てきた。
「思ってたより多いね」「だね~」あはは……
クロが戻って来た。
「馬頭鬼、父上がお呼びだ」掴んで消えた。
「いやぁぁぁぁぁ~~~」
馬頭鬼の叫び声が木霊した。
サクラが馬頭鬼族を連れて行った場所は、
ハクが天亀の湖に向かう時に通過した
「猫に木天蓼の如し」な馬鈴草が
群生する草原でした。
桜「コレ食べちゃうの?」
馬「花の季節は香りだけで十分ですが……」
桜「食べちゃうんだ~」
馬「少しは……草食ですので……」
桜「そっか~ じゃ、ちゃんと畑 作ってねっ」
馬「はい♪ もちろんですとも!」
サクラは馬頭鬼族の皆さんとも、
すっかり仲良くなっています。
この世界、三界を縦割りすると――
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神界(天神界)
─────────── 天界
天界
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地上│
魔界│ 人界 地上界
│
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│異│
地下 │間│
魔界 │平│魔神界 地下界
│原│
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こんな感じ。
ハザマの森は、全界に通じる領域です。




