異間域1-誰!?
前回まで:やっと仁佳に向かって出発しました。
アオ達は仁佳の国に向けて出発した。
伊牟呂の港から南下し、国境を越えてすぐに、皆、不穏な気を感じた。
馭者をしていたアオが、
「前方に歪みが有る」馬車を停め、
「様子を見てくるね」降りた時――
歪みの壁が唐突に勢いよく迫り、声を上げる隙も無く馬車ごと呑み込まれた。
♯♯♯♯♯♯
アオが意識を取り戻すと、薄暗く、大小の岩が点在する荒野に倒れていた。
やけに紅い空だな。毒々しいくらいに……
馬車は? 皆は? ここは……どこだ?
(サクラ、起きているかい?)
少し間があり――
(アオ兄……ここ……人界じゃないよ……たぶん)
(とりあえず引き合おう)
(そだね。せ~のっ)
「えええーーーっっ!?!?」アオとサクラ。
♯♯♯
姫は起き上がって、くるくると見回していた。
「薄暗ぅて、よぅ見えぬのぅ。
如何な事になっておるのじゃ?」独り言ち、
(クロ!)呼んでみた。
(んあ? あ……姫か……
ちょい待ってろ。すぐ行くから)
暫し待つ。
(曲空できねぇ! 竜にも戻れねぇっ!!)
(落ち着け、クロ。
ここは何やら異様じゃぞ)
姫の方が落ち着いている。
(とにかく! そっちに向かうから動くなよ!)
(あい解った)
♯♯♯
慎玄は近くに馬車を見付け、皆の気を探ると、珊瑚が近くに居ると判り、そちらに向かった。
暫く馬車を進めると、珊瑚も気付いていたようで駆けて来ていた。
「珊瑚殿、紫苑殿は?」
「少し遠いのですが、無事です。
でも……慎玄様……その、お姿は……」
「この空間の影響でしょう。
特に支障はございませんので、ここを出る迄の事と思っております」
「そうですか……」
♯♯♯
姫は近付いて来る人影に目を凝らした。
「珊瑚~♪ 無事じゃったか♪」駆け寄る。
「いえ、私は――」
「姫ーーっ! 無事かーーっ!?」
遠くから叫び声が聞こえ、人影が全力で駆けて来ていた。
「あれは――」二人、目を凝らす。
人影は、見る間に近付き、姫を抱きしめた。
「無事でよかったぁ~♪」
「おヌシ、誰じゃ?」怪訝。
「何 言ってんだよっ、姫!
おいっ、気は確かか!?
珊瑚も何とか言ってくれよ!!」
「クロ殿ですか?」
「他に誰だと――待てよ……この気は……
まさか、お前……紫苑?」
「はい」にっこり
「クロ……と……紫苑???」姫、ぱちくり。
「フジ殿が、こちらに向かっていらしてますね」
「ああ、あれだな。
おーい! フジー!」大きく手を振る。
全力で走って来ていた人影が立ち止まった。
自分の体を手で確かめ、
「まさかっ!!」しゃがみ込んだ。
「フジじゃな……」姫、ため息。
「クロ、自分の声で気づかぬのか?
とりあえず、フジをよく見よ」
「フジ、どうしたんだ?」近寄る。
その気は確かにフジだが――
「え? まさか……女……?」
フジが顔を上げる。
「……クロ兄様?」
「ああ……フジなんだよな?」
「姫様はそのままなんですね……」
「らしいな」二人で、ため息。
紫苑と姫が近付いて来た。
「瞳が紫……それにこの気は、紫苑殿ですね?」
「はい」にっこり
その時、傍に大きな闇の穴が穿たれた!
姫が剣を、紫苑が御札を構える。
「もしかして……
紫苑殿も妖狐になれないのですか?」
瓶を取り出す。
「そうなのです」跳んだ。
「この気は傀儡や獣化じゃないよっ!」
双剣を翼のようにして翔んで来たのは――
「サクラか!?」「うんっ!」
刃の軌跡が煌めき駆け抜ける。
「あれ、アオ兄だよ♪」斬りながら言う。
馬車が疾走して来た。
珊瑚が跳び、鉄扇が舞い斬る。
合流した紫苑と珊瑚が舞い、雷が走る。
「区別がつかぬのぅ」「だね~♪」
慎玄がクロとフジに予備の剣を投じ、全員に向かって回復の術を唱える。
続けて、闇の穴に向かって錫杖を翳した。
「浄浄万象!!」
閃光が迸り、闇の穴が塞がる。
そして魔物は全滅した。
「こゆ戦い久しぶりだね~♪」
「そうだね。
姫と手合わせしておいて良かったね」
「それはいいとして、ここは どこだ?」
「たぶんね~、魔界と魔神界の間にある異間平原だと思う~」
「異間平原……ハザマの森のような不安定な領域ですよね?」
「たぶん、だよ」
「サクラが そう言うんなら、そうなんだろ」
「そこな竜共!
平然と話しておるが、着物を直せっ!」
「なぁに? 姫――あ……ぃやんっ♪」前を合わす。
アオとクロは笑いながら、フジは恥じらいながら着物を直した。
「で、だ。どうやって ここを――」ぽかっ!
姫がクロの頭を殴った。
「何すんだよっ!」立ち上がる。
「胡座など かくでないっ!
見ておる こっちが恥ずかしいわ!
だいたいじゃっ」両手で むんず!
「ってーなっ! 何すんだよっ! バカ姫っ!」
胸を押さえて逃げる。
「何でワラワより大きいのじゃっ!?」
拳を挙げ、振り回しながら追う。
「知るかよっ!!」
「しっかりクビれておるしぃっ!
美人ではないかっ!!」ぐぬぬぬっ!
「だから知らねぇよっ!!」
「待たれよっ!!」きーーーっ!!
「待てるかよっ!」脱兎!!
全員 眺めていたが、
「放っておこう。
サクラ、どうやったら異間平原を出られるんだい?」
「竜宝を使っての方法なら知ってるけど……」
「持っていませんよね? 流石に」
「うん……」
紫苑と珊瑚の元に式神達が戻って来た。
報告を待つ。
紫苑が扇で一方向を差した。
「こちらにハザマの森が在るそうです」
「そこが人界に一番近そうだね。
クロ、姫、じゃれてないで馬車に乗ってくれ」
ハザマの森の方角を知る式神を馭者にし、馬車は走り始めた。
(フジ、アメシス様と話せるかい?)
(あ……試してみます)
待つ。
(お声は聞こえるのですが……会話は難しいです)
(そうか……)
(スミレ様とヒスイ様は?)
(神に成る試練の途中だから話せないんだ)
(そうですか……護竜甲殿に聞いてみますね)
(いや、竜宝とも会話が難しいんだよ。
途切れ途切れにしか声が聞こえない。
使うのは大丈夫だから、俺達が聞く事が出来ないだけらしいね)
(八方塞がりな気分です……)
「停めて♪」
外を見ていたサクラが馬車を停めた。
「塞がってないみたいだよ♪」にこっ♪
黒「また、脱線かよぉ」
藤「私達、まさか このままなどとは……」
桜「だいじょぶ~♪」
黒「何でだよ」
桜「ただのカン~♪」
黒「お前なぁ」
藤「リリス……」
黒「あ~っ! フジ、しっかりしろ!」
目を閉じて静かにしていたアオが見回した。
青「うん。大丈夫そうだね」にこっ
藤「アオ兄様が、そう仰るなら大丈夫ですね♪」
桜「俺も、だいじょぶって言った~」
藤「はい♪ そうですよね、サクラ♪」
桜「うんっ♪」
黒「フジ……オレは?」慰めたぞ?
藤「ご飯が美味しいですよ♪」
桜「うん♪ お腹すいた~」
黒「そっか♪ ちょい待ってろよ♪」




