砂漠へ4-陰陽師達
目指す砂漠は、もうすぐです。
アオと蛟、それと、二人を付けている姫は、森の中の小さな村を出、野営地に向かった。
「森の木を残しているのは、砂を防ぐ為だそうですよ」
「そうだったんだ」
「姫様は、夕食は要らないのでしょうか……」
チラと後ろを見る。
「茶屋で頼んだ甘味を、殆ど食べていたからね。
もう、要らないのかもね」くすくす♪
(アオ兄! 左!)
闇の穴が開いた。
(サクラ、ありがとう。逃げて!)(うんっ)
「姫様! これを!」剣を投げた。
「かたじけないっ!」受け、構える。
今度は竜みたいな奴は、いないのか……?
闇黒色の竜の如き魔物が率いている時は、アオ達の誰を見てなのか退却するのだが、そうでなければ、容赦無く向かって来るので激しい戦闘となる。
姫様……動きが鈍いような……あっ!!
「姫っ!!」
姫の背後に迫っていた魔物を斬り捨て、返す刀で前方の魔物を斬り上げる。
そのまま背で庇い、斬り続けたが、囲まれてしまった。
「すまぬ……ワラワのせいで……」
「いいからっ」「アオ殿!」「姫様!」
陰陽師達が加勢した。蛟も加わる。
「蛟、呼んで来てくれて、ありがとう」
「いえ……」「何故、照れておるのじゃ?」
「姫様、余裕なの?」「あ、いや……」けぷ。
戦闘中、陰陽師達は美しく舞いながら術を繰り出す。
魔物の弱点を見極め、炎や氷や雷などで攻撃したり、聖獣を召喚し、戦わせたりする。
二人、合わせて舞い、大技を放つ時など、戦いの最中だというのに美しさに圧倒される。
残り少なくなった魔物達が退却し、辺りが静かになった。
陰陽師二人は 、氷の大技を放った疲れなど微塵も見せず、視線だけで互いを労っていた。
その陰陽師達の間に、姫がピョコッと割って入った。
二人の顔を交互に見ながら「恋仲か?」
ズルッと小さくよろけるのもピッタリの二人。
体勢を整え、顔を見合わすまでズレない。
「どぅなのじゃ?」迫る姫。
「あの……」「いえ……」
「旅が終わったならば、我が城にて、祝言の宴を致そぅぞ♪」
ぴょんぴょん♪
姫は、面白いものを見つけたとばかりに止まらない。
「陰陽師とやらは、夫婦となってはならぬのか?」ずいっ。
「……夫婦には、なれません」二人、揃う。
「やはり、陰陽師じゃからか?
そのよぅな、くだらぬシキタリなど、ワラワが変えてくれるわ!!」
「いえ……その……兄妹ですから……」
え……?
「えーーーっ!!」一斉。
「姉弟かも知れませぬが……」
「それは、どちらでもよいっ!!」
「どうして今迄――」「黙っておったのじゃ!?」
「隠すつもりも」「御座いませんでしたが」
「話す機も」「御座いませんでしたので……」
「さよぅか……して、兄妹なのか姉弟なのか判らぬと申すは如何な事なのじゃ?」
「私共は、幼少の記憶が無く」
「両親とも離れて暮らしておりました」
「育ててくださいました祖父母も」
「お産の場には、立ち会っておらず」
「どちらが先に生まれたのか」
「判らぬままなので御座います」
「二人は双子なのじゃな?」
「はい」揃った。
「して、ご両親は?」「姫様、それは――」
「構いませんよ」揃って、にっこり。
「健在なのじゃろ?」
「はい。少なくとも父は」
「母御は?」
「確かめておりませぬ故」
「父御は確かめたのか?」
「祖父母を、父の元に送った際、遠くから父を見たのです」
「父は、都で新たな家族と共に暮らしておりました」
「酷い話じゃのぅ」うるうる。
「いえ、御家を守る為、そうせざるを得なかったそうですので」
「恨みなどは全く御座いません」
「むしろ、こうして、私共が御家に縛られる事無く、好きに生きてゆける幸せを」
「自らを犠牲にしてまで、くださったのだと感謝致しております」
「さよぅか……」うるうるうる――
野営地に向かって歩き始める。
「姫様、具合でも悪いのかい?」
「いや……食べ過ぎただけじゃ……」ぷいっ。
「なら、よかった。
姫様の動きが鈍いから心配したよ」
「のぅ……アオ……」
「何だい?」
「……『様』など要らぬ」ボソッ。
「ん? 外方向いたまま、ボソボソと何を言ったんだい?」
くるっ!「じゃから!
先程のよぅに『姫』だけでよいのじゃっ!」
ふんっ!
「え……?」立ち止まる。
姫はズンズン先に行ってしまう。
「待って! どういう――」追い掛ける。
「理由など無いのじゃっ!」駆け出す。
「いや、気持ち悪いしっ!」更に追う。
「煩いっ! 言ぅ通りにせよ!」全力!
「どうして逃げるんだよっ!」同じく!
「何故、追って来るのじゃ!? さては――」
「え? ……何?」止まる。そして後退る。
くるっ。「ワラワに惚れたのじゃな♪」にやっ♪
「来るなっ!!」踵を返し、全力で逃げる。
「婿にしてしんぜよぅぞーっ!♪」追う。
そのまま、蛟と陰陽師達の間を抜け、村の方へ――
「仲が御よろしいですねぇ」
「そうですね」くすくす♪
♯♯♯♯♯♯
その頃、野営地近くの森の中では――
「おや、竜ヶ峰の竜神様」
「あ……見つかっちゃった~♪」きゃは♪
慎玄とサクラが会遇していた。
「お坊さま♪
みんなにはナイショでお願いしますねっ♪」
「畏まりました。
竜神様は、ずっと私共をお護りくださっていらっしゃるのですね。
有り難き事に御座います」合掌。
「ん~とぉ……。
じゃ、そゆコトにしとく~♪」きゃははっ♪
サクラが西の方角を向いた。
「みんな、もぉすぐ戻って来るよ♪」
「然様で御座いますか。
では、これにて……」
「うん♪ またね~♪」
姫「凜、おヌシも『姫』でよいぞ」
凜「え?」
姫「嫌なのか?」
凜「いえいえ、とんでもございません!
でも、どうして……?」
姫「友ならば、当然であろぅ?」
凜「ありがとうございますぅ」
姫「面を上げよ。
友じゃと言ぅておるのに」
凜「じゃ、楽にさせていただきま~す♪」
姫「そこまでとは……まぁ、よいか。
許すぞ。
ワラワは寛大じゃからの♪」
凜「じゃ、アオにも、友として?」
姫「とっ、とーぜんじゃろっ!」真っ赤。
凜「か~わ~い~い~♪」
姫「煩いのじゃっ!!」




