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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
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涅魁東6-父来る

 穏やかそうに見えて、負けず嫌い。

思い詰め易いフジが、暫くは主役です。


 夜が更け――

フジは、治癒の光を当て続けるハクの背中を見詰めていた。


「フジ、今のうちに寝ておけ。

護る為には、それも大事だからな」

背を向けたまま言った。


「はい……でも……」


「眠れないのか? 俺じゃ不安か?」


「そうではなく……」


「話したい事が有るなら何でも聞くぞ」


「ありがとうございます、ハク兄様。

そう言って頂けて、落ち着きました」


「そうか……なら、休めよ」


「はい」隣室に行った。



♯♯♯



 フジは寝台に腰掛けた。

俯き、顔を両掌で覆い、ため息をつく。


(フジ兄……

笑ってなきゃ、リリスさんが不安になるでしょ)


(サクラ……そうですね……)


(フジ兄には、フジ兄にしか出来ない事が有るんだから、治癒や曲空を欲しがるより、それを見つけて伸ばさなきゃ)


(サクラ、どうして……それを……?)


(そうかな~? って思っただけ~)


(伝わったのですか?)


(まぁね……ごめんね。エラそ~なコト言って)


(いえ、ありがとうございます、サクラ)


(曲空には、ね、弱点も あるんだ。

知らない所には行けないんだよ。

知ってる場所か、知ってる人の気を掴まないと移動できないんだ。

だから、これから進む所には、フジ兄の豪速が必要なんだ)


(よく知っているのですね)


(翁亀様が教えてくれた~)


(サクラも曲空できるのですか?)


(曲空は できないけどぉ、近い事なら、竜宝の力で できるよ。

アオ兄と いっしょだったら確実なんだ)


(竜宝の力で……なら、私にも出来ますか?)


(ん~……

調べとくねっ。

俺にも、どの竜宝の相乗効果なんだか、サッパリわからないんだ~)


(今日のサクラは、アオ兄様みたいですね)

 まるで、以前のサクラに戻ったような……

 もしかして、サクラの封印も――


(ハク兄には『なかよしこよし』って言われた~♪)


(そういえば、ずっと一緒に行動していますね?)


(だってぇ、アオ兄だけなんだもん)


(何が……ですか?)


(兄貴達ってば~、み~んな いちゃいちゃ――)


(あーっ! 言わなくていいですっ!)


サクラが笑って、フジも笑った。


(フジ兄♪ おやすみっ♪)


(おやすみなさい、サクラ♪

ありがとうございます♪)


 元気づけてくれたのですね。

 私にしか出来ない事、ですか……

 まずは豪速をもっと磨きましょう!


 あとは……


 手から聖輝水が出せたらよいのですが、

 それは流石に――


(出せるよ。フジ兄なら)


(えっ!? サクラ!?)


返事は無い。


 また、寝言でしょうか?


フジは微笑み、眠りに就いた。



♯♯♯



 翌日、リリスの買い物に同行した帰り、フジは海辺の公園で、空龍が誰かと話しているのを見た。


 あの背中は……


『誰か』が振り返って、笑った。


「ち、父上様っ!?」


「え? フジのお父様!?」


二人、駆け寄る。


「どうして、こちらに いらっしゃるのですか!?

お仕事は大丈夫なのですか!?」


「キンに連れて来て貰った。

挨拶くらいはしておかねばな」笑う。


「はじめましてっ!」

リリスが前屈並みに頭を下げた。


「そんなに畏まらないでください。

リリス殿、フジを受け入れてくださり、ありがとうございます」


「いえっ、あの……そんな……

人で……かまわないのですか?」恐る恐る……


「竜は人が大好きなのです。

人から忘れ去られ、リリィホワイトは、いつか再び、人と仲良くなれるよう、願いを込めて、自分の子に人界の色の名を付けました。

その願いは、今も受け継がれています」


「だから……『フジ』なのね……

ウィスタリアというのは……?」


「そうですね。

昔のままなら、フジには、そう名付けたと思います」にこにこ


「その願いは……

叶ったと思って頂けるのかしら……?」


「私達が最初の一歩になりましょう」


「フジ……そうね♪

もっと たくさんの竜と、たくさんの人が仲良くならなきゃねっ♪」


「はい♪」


「お父さん、私、子供に『ウィスタリア』って付けたいの!

だから あの本、早く出しましょ」


「あの、リリス、同じ色の子供が生まれる訳では――」


「そうなの?

なら、オニキスでもチェリーでも、とにかく、そういう名前にしたいの♪」


「リリス……」感動と恥ずかしさ目一杯。


ギンがフジの肩に掌を置く。

「フジ、期待しているぞ。頑張れよ」


「はいっ!」


「では、空龍殿、リリス殿、今日は突然お邪魔致し、申し訳ございませんでした。

正式なご挨拶は、後日また改めまして参ります。

今日の所は、これにて、失礼致します」


ギンは林の方に向かった。

木々の向こうに白銀の鱗が見えた。


濃淡の銀色の鱗が陽を浴びて煌めき、そして消えた。


 ハク兄様も曲空を……

 もしかして、連れていらしたキン兄様も?


「消えちゃった……飛ばないのね……」


「昼間は目立ちますから」


「やっぱり、堂々と飛べるようにしなきゃ!

お父さん、表題 考えましょっ」


 名前だけを貸す事に引け目を感じるのなら、と、仮題『矢太とリリスの旅』を副題とし、表題を考える事をキンから提案され、空龍とリリスは、それを喜んで受けたのだった。


リリスは空龍とフジの手を引いて、急いで家に帰った。



♯♯♯♯♯♯



「姫、その馬車、どうしたんだ?」


「大陸を旅する為に用意したのじゃ♪」


「そっか、いろいろ ありがとな。

そういや、くノ一達はどこにいるんだ?」


「とっくに、大陸中に散っておるわ」


「各国の忍に会う為なんだな?」


「そぅじゃ。皆、張り切って行ったぞ」


「アオは、これから、どこに行くつもりなんだろなぁ」


仁佳(ニカ)と 東の国との戦を終わらせたい、と言ぅておったぞ」


「じゃ、診療所が落ち着いたら進めとくか」


「そぅじゃな♪

今日も、気の高め方を教えてくれるのか?」


「んじゃ、やるか♪」


「おぅよ♪」



♯♯♯



 ギンを空龍に会わせ、アオとサクラから治癒の調整方法を習い、クロの気を掴んで曲空したキンは――


額をくっつけている二人を見て、そっと幌を閉じ、洞窟に曲空した。



♯♯♯♯♯♯



(サクラ、空龍殿の御宅には、いつ行く?)


(もぉすぐ交替だよ~♪)


(連れて行って欲しい)


(ん♪ すぐ行ける?)


(頼む)


「アカ兄、どしたのぉ?」


「車椅子を改良する」


「それって……竜宝艇? ちっちゃいね~♪」


「地上でも楽になる。

天界でも押せるようになる。

空龍殿の負担を減さねばならぬのだろ?」


「うん……アカ兄にも見えちゃった?」


「神眼持ちだからな」


「そぉだったね~」


「治せるのか?」


「天界でなら、かなり……

あとは、フジ兄の天性が頼りかな……」


「そうか」


「サクラ、そろそろ行こう」曲空して来た。


「じゃ、アオ兄♪ せ~のっ♪」





凜「サクラ、あれは寝言じゃないでしょ?」


桜「あれ?」


凜「『出せるよ。フジ兄なら』ってヤツ」


桜「うん。ホントだよ。

  まだフジ兄にはわかんないと思うけどね」


凜「ホントに出せるの?」


桜「出せるってばぁ」


凜「寝言の達人の言葉だからね~」


桜「俺? 寝言なんて言ってる?」


凜「知らないの?

  サクラの寝言は楽しいよ♪」


桜「ホントに!?」


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