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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
138/429

涅魁東5-私達は竜です

 前回まで:フジは神と絆を結びました。


 今回、少々長いです。


(アオ、サクラ、どこに居る?)


長老の山の蔵で、竜宝達と話していた二人に、キンが話し掛けた。


(長老の山だよ~)


(私の所に直ぐ来られるか?)


(うん♪)

「竜宝達、また来るからねっ」

(キン兄に、せ~のっ)




 森の中に出た。

クロがアカを連れて曲空して来た。


「今後、リリス殿を護る為には、目の前で竜にならねば、戦えぬ事も有るだろう。

だから、かなり前倒しだが、先日 話し合った通りの事を、これから決行する」

キンの言葉に弟達が頷く。


「アオ、フジに、外に出るよう伝えて欲しい。

サクラ、ハクに、この事を伝えて欲しい。

では、行くぞ」


空龍の家に着いた時、フジが外に出て来た。


アカが小さな包みをフジに渡す。


「フジ、伝えるが大丈夫か?」


フジが頷いた。



♯♯♯



 フジが先に空龍の家に戻り、玄関で二言、三言話すと、リリスと空龍が慌てて出てきた。

父娘に招かれ、兄弟揃って入り、雪希に挨拶した。

アオとサクラは治療の為に残り、他は食卓の方に移動した。

キンは大きな包みを卓の上に置き、解いた。


「これは、お二人から伺った、白い竜と少年の物語の原稿です。

出版に関しては、静香殿が全て手配して下さっております。

どうかお二人のお名前で、この物語を世に出して頂けませんか?」


「私達の名で、など……」


「この物語は、矢太殿の御子孫の皆様が、代々語り継いで下さったものです。

お二人の他に著者はおりません」


「せめて挿絵者だけでも……」


キンが首を横に振る。

「私共は存在自体、無いような者です。

竜が、この空を自由に飛べる未来への最初の一歩を、どうかお願い致します」


「それでは貴殿方の御苦労が報われません」


「竜が人の心に甦る事が出来れば、それが、私共にとりまして最高の報酬です」


「お父さん、私……

たくさんの人に竜を知って貰いたいの!

竜が自由に飛べる未来へ踏み出したい!」


「リリス……」


「自分が著者だなんて、恥ずかしいし、申し訳ないけど……

でも、それが最初の一歩になるなら、それが、ご恩返しになるのなら、私達の名で本にしましょう!」


「ご恩返し……そうですね。

それが皆さんのお望みなら、どうぞ私達の名をお使いください」


「空龍殿、リリス殿、ありがとうございます」




 それから、ひとしきり原稿を見て楽しんだ。


キンは治療している三人を見た。


医師達が頷く。

車椅子を組み立て終えたアカも頷いた。


「もうひとつ、お伝えしなければならない事が有ります。

外に、よろしいですか?」


空龍とリリスが頷く。


フジとリリスを残し、外に出た。


「リリス、これから伝える事を見てから、この手紙を読んでください。

その後で……この包みを開けるか否か、決めてください」


フジはリリスの瞳を真っ直ぐ見て、決意を滲ませ、ゆっくり そう伝えた。



♯♯♯



 外では、

「リリスさんの返答如何に関わらず、治療は継続しますので、ご安心下さい」

ハクが空龍と雪希に、そう伝え、箱を渡した。


兄弟六人が家の前に在る、林に囲まれた空き地へと駆けて行き、中央を空けて、横一列に並んだ。


フジとリリスが出て来た。


フジはリリスを見詰め、優しく微笑み、兄弟達の方に向かった。

キンとハクが、フジに中央を示す。


フジは兄弟の中央に立ち、目を閉じて呼吸を整え、意を決して天を仰ぐと、輝きを纏った。

フジを挟むキンとハクも続いて輝き、端に向かって次々と輝いていく。


フジの光が大きくなり、藤紫の竜が天に昇った。


金華、白銀、瑠璃、黒輝、深紅、綺桜――

兄弟達は次々と光輝く竜になり、藤紫の竜(フジ)を追って昇って行った。


七色の美しい竜達は(やじり)形に並び、天高く昇り、宙返りすると、降下しつつ親娘の頭上を通り過ぎ、再び上昇しながら遠ざかった。


「綺麗……」


リリスは、竜達が飛び去った空を見詰めていたが、ハッとして家に駆け込んだ。


震える手で、卓に置いた手紙を開く。


『最愛なるリリス――


ずっと隠して、騙して、すみません。

私は天界から来た竜です。


人の姿を借り、偽り続けた事は、どんなに言葉を尽くしても償いようなど、ありません。

私と繋がっている腕輪など不要だとお思いでしたら、この手紙と共にお渡しした包みを開けて、中の物を手に取ってください。

この腕輪が消えたなら、私は二度と貴女の前に姿を現しません。


姿形は偽りましたが、貴女への想いには、一点の曇りもありません。

それだけは本当です。


これまでの事、本当に、すみませんでした。


――フジ=メル=シャルディドラグーナ』


リリスは、フジの署名を指でなぞった。


 天界の文字って綺麗……

 まるで竜みたいよね……


 よかった……

 一方的な『さよなら』じゃなくて……


リリスは包みを暖炉に投げ込み、

「ホント、心臓に悪いんだから……」

そう呟いて、手紙も燃やした。


フジの優しさと誠実さを改めて感じ、心に広がる優しい暖かさを抱きしめ、幸せを噛みしめながら炎を見詰めた。


 騙されてなんていないわ。

 腕輪で気づいてたわよ。


ウィスもお揃いの腕輪をしていた事を思い出し、クスッと笑って、

(フジ♪ とっても綺麗だったわ!)

喜びを露に声を掛けた。


(リリス……)


(見せてくれて、ありがとう)


(よかった……あ、包みは、どうしましたか?)


(暖炉で燃えてるわ♪)


(そうですか♪)


(ね♪ 早く戻って来てよ。外で待つから♪)

「あ…」窓の外に、紫がかった星が見えた。


嬉しさを撒きながら外に飛び出し、竜達が飛び立った場所へ駆けて行った。


紫の星が、どんどん大きくなる。藤紫の竜(フジ)が降り、人姿になった。


その胸に飛び込んだ。


(フジ♪ 格好いいっ! 大好きっ!)


(私も大好きです。リリス♪)にこっ♪


(綺麗だったわ! もう一度 見たい!)


(えっ!? 皆、帰りましたよ)「あ……」


空龍の家の窓に、兄弟達の顔が有った。

フジと目が合って、サッと一斉に引っ込む。


(遅いですよ。覗き見の罰として――)

アオとサクラに話し掛けた。


(……フジ兄?)


(さっきのをもう一度、見たいそうです♪)



♯♯♯



 空龍と雪希は窓際で、小さくなっていく竜達を見ていた。


「あの子の あんな笑顔、初めて見たわ」


「そうだね。雪希も今、いい笑顔だよ。

私達は命も心も、竜の皆さんに救って頂いたね」


「ええ、本当に。

あの時、私……夢を見てたの。

ひとり 歩いていたら、空から声が聞こえて……

天国から、あなたが迎えに来たんだと思ったわ。

でもね、空を見上げたら、竜が飛んで来て、あなたとリリスが、その背に乗っていて……

あなたが『一緒に空の旅をしよう』って、手を差し伸べてくれたの。

その手を取ったら、あなたとリリスが居たのよ」


「聞こえていて、良かった……」


「私も……空の旅、できるかしら?」


「もちろんだよ。もう起き上がっている。

すぐに乗せて貰えるよ」


「竜の国に行ってみたいわ」


「行ってみたいね……ああ、きっと、竜の国でも結婚式を挙げるだろうね。

早く元気にならないとね」

車椅子を押して、窓から離れる。


「ねぇ、この箱は何かしら?」

外でハクから受け取った箱を指す。


空龍が、その蓋を開けると、美しく装飾された箱と、透明な球が二つ入っていた。


空龍が透明な球を取り出す。

球の下面は平らになっており、何かが埋め込まれていた。


「蓋? 何が入っているのかな?

どうやって開けるんだろう」

触っているうちに押してしまった。

金属板が開き、鏡が見えた。


鏡から光が溢れ、覗き込む二人を包んだ。


「心が暖かくなる光だね」「そうね」ふふっ♪


蓋を閉め、球の方を見た。

透明な球の中には、六分儀の浮彫りに よく似た街並みが有り、その空に、少年を乗せた白い竜が飛んでいた。


もうひとつの球は、下面が海で、島と船が有り、七色の竜の背に、共に旅をした仲間達が乗っていた。


「まぁ……素敵ね♪

そういえば私まだ、あなたとリリスに、何があったのか聞いていないわ」


「ゆっくり話すよ」


扉が勢いよく開いた。

「兄さん! 竜よっ、竜!」タツが駆け込んだ。

「本当に見たんだからっ!」外を指す。


「知ってるよ」空龍と雪希が微笑む。

「タツも乗りたいかい?」


「兄さん……もう乗ったの?」きょとん


空龍が窓を指す。

窓の外では、リリスが竜から降りていた。


「竜……リリス……」


「結婚式、出席してくれよ」


竜が人になった。


「あの先生方は竜だったのかい?

不思議な治療をすると思ったら……

へ!? 結婚式!?」


空龍と雪希がにこにこ頷く。


「ただいまっ♪」

リリスとフジが入って来た。

「それは何?」


「アカ兄様は、それを作っていたのですね……」


「素敵!! なんて綺麗なの!!

皆さんと一緒に飛んでいるわ♪」

「こっちのは、あの話だねぇ」


「ね、こっちの綺麗な箱は?」


「開けてごらん」空龍がリリスに渡した。


「この綺麗な刺繍は?」フジを見上げる。


「それは、私の家の……こちらの言葉では……

家紋ですね」フジが考え考え答えた。


「文字も家紋も素敵ね……」蓋を開ける。

「花の髪飾り……」笑顔ゆっくり満開になる。


「それは、リリィホワイトの髪飾り。本物です」

ハクが扉の内で微笑んでいた。


「本物!?」声が揃った。フジも。


「ええ、私達の御先祖様なんです」にこっ♪





 並んで飛んでいると、フジが引き返した。


桜「フジ兄、リリスさんとお話ししてるよ♪」


金「成功なのだな?」


桜「とーぜんでしょ♪」


赤「リリス殿が外に出た」


桜「みんなで行こ~♪」


 兄弟は空龍の家に曲空した。

空龍が雪希の車椅子を押して入ったので、

挨拶をし、窓から様子を見た。


桜「フジ兄、幸せの花が こぼれてる~♪

  リリスさん、キレイとカワイイ大好き

  だから~、絶対 喜ぶと思ったんだ♪」


黒「竜、大好きだしなっ♪」


白「いい作戦だったろ♪」


赤「鍵は燃やしたな」フフッ


金「本当に、成功して良かった……」


青「そうですね……」


全「あっ!」隠れる。


白「こっち見たよな?」


青「あ……」


金「どうしたのだ?」


桜「もっかい見たいって~♪」

青「行きましょう」


 一斉に駆けて行った。


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