涅魁東2-入港
船は伊牟呂の港に入りましたが、
皆が涅魁の空龍の家に行っているので、
サブタイトルは涅魁の方にしました。
抱き合う親娘三人と、へたり込んでいる医者三人を見て、
見た事もない治療に驚き立ち尽くしていた、リリスの叔母・タツが慌てて椅子を勧め、茶を淹れた。
陽が傾き冷えてきたので、タツは暖炉の火を起こそうとしたが、普段 使っていなかったらしく、種火が消えていた。
「困ったねぇ……
台所の炎鉱石を使うしかないかねぇ……」
暖炉の前でタツが呟いた。
「私にお任せください」にっこり
フジは体で紫炎を隠して着けた。
「あらまぁ、どこから火を?」ぽかん
「手品は得意なんです」にこっ
そして、少し落ち着いた親娘に歩み寄り、
「フジと申します」雪希に頭を下げた。
空龍と雪希に緊張の面持ちで、
「リリスさんの事は、真剣に考えております。
ですが、ご挨拶は、また改めまして……
お話ししたい事も有りますので、お体に障りが無くなれば、きちんと、その為に参ります」
深く礼をした。
空龍は微笑みながら、
「固く考えないで下さい。
フジさんのお人柄は、もう よく存じています。
娘をどうぞよろしくお願いします」
フジに負けないくらい深く頭を下げた。
(こりゃあ、予定より早く、正体 見せなきゃなんねぇな……)
(そうですね……)
(ま、それは兄貴に任せるとして、だ。
今晩、どっちか残ってくれるか?
まだ安心出来ねぇからな)
(俺が残りますよ)(俺も~)
(ホント、お前ら、仲良しこよしだなっ。
んじゃ、船の患者の方に戻るわ)
(飛べる?)
(クロに頼むか~)
「船に戻りましょう」フジが来ていた。
「フジは、ここに居ればいい」
「船にも患者さんがいらっしゃいますから」にこっ
「いいの?」サクラがリリスに尋ねた。
リリスが返事の代わりに微笑んだ。
「今夜は、まだ様子を見なければなりませんので、二人を置いて行きます。
また明日、参りますので」ハクが立ち上がった。
タツが見送ろうとして、
「あら、よく見りゃ そっくりだねぇ」
また驚いていた。
「兄弟ですから」四人揃って、にっこり♪
♯♯♯
ハクとフジが船に戻った後、雪希を安静に眠らせる為に、空龍とリリスは、隣のタツの家に泊まりに行った。
サクラが術で雪希を深く眠らせ、アオは治癒の光を当て続けていた。
(アオ兄、人のままじゃ、ソレ続けるの疲れるでしょ)
サクラは術を唱えながら、掌の光の球を輪に変え、両手を広げて大きくした。
(コレくぐりながら竜になってみて♪)
言われるがまま輪をくぐってってみると、人姿に竜の角と尾が生えた姿になった。
(あ、手足にも鱗が……半竜?
サクラ、これは何なんだい?)
(紫苑さんと珊瑚さんが半妖狐になるでしょ?
竜もできないかな~って、調べた~♪)きゃはっ♪
(俺も やる~♪)
(あれ? サクラ、翼……)
(あれれっ? かくれな~い?
どぉしてだろ???
アオ兄、光輪 出てるよ~)ふぁっさ ふぁっさ
窓に映った姿で確かめる。
(確かに……困ったね。隠せないよ)う~ん……
それに、なんだか……この姿は……
(きぐるみ~♪)きゃははっ♪
半竜な二人は、光を当て続けた。
(これだと、強さは竜で、消耗は人だから、いっぱい頑張って、早く元気になってもらお~ねっ♪)
(ただ、誰にも見せられないけどね)くすっ♪
(どぉして翼と光輪、ひっこまないのかなぁ?)
(交替したら調べよう)
(そぉだね~
ね♪ リリスさんに竜になるトコ見せるの、なんか楽しみ~♪)にこにこ♪
(そうだね。
リリスさんなら、きっと喜ぶと思うんだ。
竜の姿を見せる時には、空龍さんと雪希さんも一緒の方がいいよね)にこにこ♪
(タツさんは空龍さんの妹さんだから、リリス女王様のお話、知ってるんだよね?)
(そうだね。知ってる筈だね。
なら、タツさんも竜に乗りたいのかなぁ?)
(きっと乗りたいよ♪)
仲良しこよしな二人は、明け方までは半竜体で、その後は人姿で光を当て続け、にこにこと話し続けた。
♯♯♯♯♯♯
船は伊牟呂の港に停泊していた。
ハクを降ろした後、洞窟で薬を作り、再び船に戻ったフジは、キンに呼ばれた。
「フジが助けた神竜様が神と成られ、フジと真祐の絆を結びたいと仰って下さった。
天界が襲撃を受けた事で、少し猶予を頂いたが、明日にでも、その術を行いたいそうだ。
フジの意向を聞くのが遅くなったが、どうだろうか?」
「真祐の絆とは、どのような……?」
「そこから説明せねばならなかったな。すまない。
私達は護竜宝を使って、虹紲の術で、神竜と絆を結ぼうとしている」
フジが頷く。
「この術では、結心の矢に依って、導かれた神竜、または、神と絆を結ぶのだが、真祐の場合は、神竜側から竜を指定し、絆を結ぶのだ。
竜が申し出る場合、消耗品である結心の矢が必要不可欠だが、神竜が望んだ場合は、その必要が無い。
それだけの違いだ」
「では、私は選んで頂けた、と……?」
「そういう事だ。受けるか?」
「はい!
神と絆を結ぶ事が出来れば、リリスを護り易くなりますよねっ!」
「そうだな」フッ
「ハクから聞いたが、リリス殿に、竜だと告げるのを、早めた方が良さそうだな」
「そうですね……」
「治療の面からも、天界に移って頂いた方が良いようだから、船の改造が終わり次第、原稿を渡し、その場で、と考えている」
「船の改造とは?」
「この船を、今、天界に居る人達を運ぶ為の船に改造して貰うのだ。
だから、リリス殿も天界に住む事が出来る」
「そんな計画が……」
「一時に、色々と平行しているな」笑う。
「七人兄弟で、本当に良かったと思う。
楽しみも増えるし、協力すれば、何事も乗り越えられる」
「そうですね」にこっ
治療を終えたハクが、部屋に戻って来た。
「ハク兄様、おかえりなさい。
皆様の薬は――」
言葉を止めたフジが「あっ」と言って頬を染め、慌てて出て行った。
「リリスさんに話しかけられたな♪」
ハクが目で追いながら愉しげに言った。
キンも微笑みながら目で追い、ハクに話を切り出した。
「明日の朝、回復待ちの方々は、移動出来そうか?」
「大丈夫だ。
クロと姫様が、大使館を通じて、診療所に収容して貰えるように手配してくれていた」
「では、移動が済み次第、天界に行く。
アオとサクラも連れて行きたい。
ハク、こちらが手薄になるが、頼んだぞ」
「ああ、任せろ。
少々何かあった方が、クロの天性が伸びて、いいかもなっ」笑う。
「何か開いたのは感じたが……
どのような天性なのだ?」
「今のところ姫様専用だが、ちゃんと発現すれば、クロの領域内、全てに恩恵があるだろうな」
「強い天性だな」
「そう、サクラが言ってた♪
俺には、そこまで分からねぇ」あははっ♪
「静香殿専用、か……」フフッ♪
「だから、暫くは姫様にベッタリじゃねぇか?
魔界まで一緒に行く為になっ♪
サクラはサクラで、アオにベッタリだろうが、俺達も安心して別行動とれるから、まぁ、好きにさせとこうぜ」
「そうだな。
サクラに任せる以上の事は、誰にも出来ないからな」
「あ、サクラと言えば、だ……
兄貴、手を出してくれ」
「何だ?」言いつつ、手を出す。
ハクはキンの掌に、治癒の光を帯びた手を翳した。
キンの掌が、呼応して光を帯びる。
「アイツの言う通りだな……」
「どういう事だ?」
「いや、サクラが、兄貴も治癒を持ってるって言ったんだ。
兄貴なら、自覚するだけで使えるようになるってな」
「そうか……
希少な天性の筈なのに、なんだか大安売りだな……」
「だなっ」大笑い。
その夜、キンが、ひとり隠れて治療を発動させる練習をしまくったのは――
――言うまでもない。
凜「その格好――」ぷ♪ あはははっ♪
青「そんなに笑わなくても……」
桜「ねぇ。治療には最適なのにぃ」むぅ
凜「だって~ カワイイよぉ~♪」あはは♪
桜「アレ、試していい?」
青「いいよ」
桜「じゃあね~♪」光の球が膨らむ。
凜「え!?」
桜「ぽいっ♪」すぽっ
凜「ちょっと! これ何よぉ~」
桜「相殺♪ でね~」もうひとつ……
桜「はいっ♪」ぽいっ
凜「へ? ぁ……」くぅ……すぅ……
桜「アオ兄、できた~♪」
青「うん。やっぱり、その効果があったね」
桜「うんっ♪
雪希さんには、ちゃんと使う~♪」
青「そうだね」にこっ♪




