表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
134/429

涅魁東1-帰郷

 前回まで:大陸は目の前。入港直前です。


 伊牟呂(イムロ)の港が見えてきた。

いろいろ有ったものの、とにかく無事に航海を終える事が出来そうなので、空龍とリリスを送る前に、甲板に集まり宴をした。

食事は終わったが、殆どが、まだ甲板で のんびりくつろいでいた。


「クロ、サクラ、俺の部屋に置いている物は、船と一緒に、天界に運ぶつもりかい?」

部屋からアオが出て来た。


「やべっ」部屋に走る。

「クロ兄、待って~」追いかける。


ハクが二人と入れ違いに出て来た。


「フジ、悪いが、薬を頼む。

回復しきっていない人達に渡す分が、少し足りないんだ」


リリスと話していたフジに、真面目な医者をまだ崩していないハクが紙を渡す。


「あ、そうか。

ウィスしかリリスさんの家を知らないな……

シルバも出掛けているし……

クロ! オニキスを呼んで欲しい!」


船室に向かって声を掛けると、クロがアオの部屋から顔を出す。

「呼んだから好きに使ってくれ!」


「サクラも! チェリーをここに!」


「は~い!」今度はサクラが顔を出す。


「荷物しておくよう言ったのに。まったく……」



 クロはサクラを連れて上空に曲空した。

二人、竜体になって降下する。


フジがオニキスこと黒輝の竜(クロ)に乗り、

「少し遅れますが、必ず伺いますので」

リリスにそう言って、東の空へ飛んだ。


上空でクロは部屋に曲空し、藤紫の竜(フジ)が甲板に降りる。


「空龍さん、リリスさん、航海中は大変お世話になりました。

これからも、弟達が治療に伺いますので、宜しくお願いします」

キンがにこやかに挨拶した。


「港に入ってからだと騒ぎになりますので、こんな沖で慌ただしく出発する事になってしまって、申し訳ありません」

アオが頭を下げる。


「いえいえ、お礼を申さなければならないのは私達ですから。

家まで竜に乗って帰れるなんて、夢のようです。

お言葉に甘えて、お世話になり続けてしまいますが、どうか宜しくお願い致します」

空龍も頭を下げた。


「しっかり治るまで通いますので、安心してください。

それでは参りましょう」

まだまだ真面目な医者のハクが、チェリーこと綺桜の竜(サクラ)に乗る。


「リリス、遊びに行くからのぅ。達者での」


「姫様もねっ」


「クロ! サクラ! 出発するよ!」

アオもチェリーに乗る。


「すぐ行く!」「待ってぇ~!」

クロとサクラ(クロ)が部屋でバタバタ。


アオとハクを乗せたチェリーが飛ぶ。

続いて、空龍とリリスを乗せたウィスも飛んだ。


(クロ兄、も~い~よ~♪)


(サクラ、解った)

(姫、行くぞっ)(あいなっ)


クロとサクラ()が甲板に駆け出て、手を振った。

ウィスの背から、リリスも大きく手を振り返す。



 竜が見えなくなり――姫はカツラを取った。


「バレておらぬかのぅ……」


「大丈夫だって♪

あ……髪、結い直してやるから座れよ」


「いや、そのくらいワラワでも己で――」


「姫よりオレの方が上手いって♪」

肩を押して座らせる。


「そぅではのぅて……皆が見ておるじゃろ……」

真っ赤になって俯く。


「髪を結ってるのが、そんなに珍しいかなぁ?」


「そこではないじゃろ!」


「ん? 結い間違えたか?」


「そぅではのぅてっ!」


「何だ?」上から覗き込む。


「ひゃっ!」両掌で顔を覆った。


「動くなよぉ。サクラでも、おとなしくするぞ」


「サクラの髪は、クロが結ぅておるのか?」


「ああ、よく結ってるぞ」


「手慣れておると思ぅたら……」


「出来たぞ」ぽふっ


「かたじけない……」真っ赤なまま礼。

「のぅ……クロにとって、ワラワは……

サクラと同じなのか?」見上げる。


「弟には なれねぇだろ」笑う。


「では、妹か?」


「妹……か……」う~ん……

「妹いねぇから分からねぇ」あははっ

「でも……妹かぁ……うん! それもいいなっ♪」


「良くは ないわっっ!!」ぷいっ


「何 怒ってんだよぉ??」ポンポン


「サクラにも、このよぅな事を致すのか?」


「するよ」


「ならば、あのよぅな事も致すのか!?」ずいっ


「あのような? 事??」


「先程! そこでっ!!」ずんずんずん!


「な、何だよっ」後退り、くるっと逃げた。


「覚悟いたせっ!」朱鳳を抜き追いかける。


「ぅわっ! やめろ! 竜殺しっ!!」

赤い弓型の光が飛んで来る。

「マジかよっ!?」

竜体になって飛ぼうとした――


が、尻尾を掴まれ――


姫が、引いた勢いで、ひらりと背に乗った。


 これじゃな♪ なでなで♪


 !!! 「やめっ――」海に落ちた。



「クロ……何故、曲空しなかったのだ?」キン覗く。


「じゃれたかったんだろ。放っておこう」アカも。


「入港までには戻るように」


 キン兄! アカ! 助けてっ!!

 溺れる~っ!!


「わはははははっ♪ まいったか、クロ!」



♯♯♯♯♯♯



 アオ達は――

空の旅を楽しみ、涅魁(ネカイ)の国に入っていた。

東岸北部の小さな港町を目指し、リリスが先日ひとりで来た時と同じ山地から、森を抜け町外れに降りた。


「ウィス、チェリー、ありがとう。またねっ」


空龍とリリスは、何度も振り返りながら、下って行った。




 家に着き、リリスが窓から様子を伺い、振り返って頷いた。


「おタツ叔母さん♪ ただいまっ♪」


「まぁ! リリス!! それに……兄さん!?」


「タツ、留守の間、世話になったね。

ありがとう」三人、抱き合う。



「母さんの具合は? 眠ってるみたいだけど……」


「それが……昨日からあのままで……

満足にお医者様にも診せられず……

すまなかったねぇ」前掛けで涙を拭う。


「ハク先生! アオ先生! お願いします!」

リリスが外に向かって叫び、空龍が扉を開けた。


白衣を着た二人が一礼し、眠ったままの母親の元に向かう。


掌を翳す。


(兄さん、これは……)


(ああ、マズいな。命が尽きかけている。

すぐ治療に掛かるぞ!)


(フジ、サクラ! 急いで来てくれ!)


治癒の光で母親を包み、次第に強くしていく。



 サクラとフジが来た。

すぐにサクラも治療に加わる。


(フジ、聖輝水で薬を溶かして欲しい。

薬は――)




 フジが溶かした薬を差し出すと、サクラが両掌の上に光の球を作った。

(ここに注いで……うん、そのくらい)


光の球を胸に押し込む。


(フジ兄、もうひとつ)



 五つ入った時、瞼が微かに動いた。


アオが顔を上げる。

「空龍さん、リリスさん、呼び掛けてください」


三人は少し離れて光を当て続けた。


空龍とリリスが両側から手を握る。

「お母さん、ただいま。

長く留守にして、ごめんなさい。

もう行かないから戻って来て」


雪希(ユキ)、私だよ。やっと帰って来れたんだ。

一緒に生きてくれないか?」


フジが薬を補充する為に背を向ける。


「もうすぐ、リリスの花嫁姿が見れるんだよ」


フジとリリスがピクリとする。

「お父さん……知ってたの?」


空龍が微笑む。


「雪希、一緒に見たいだろ?

目を開けておくれ……」


指が動いた。


「孫も一緒に抱こう」


瞼がはっきり動いた。


(あと少しだ! アオ、サクラ、頑張れ!)

(はい!)(うんっ!)


「私は、とうとう竜に乗ったんだよ。リリスもね。

雪希も、竜の話が好きだったよね?

一緒に空の旅をしよう」


瞼が、ゆっくりと少しだけ開き、弱々しくはあるが、手を握り返した。

「お母さん!」「雪希!」


(ハク兄さん、サクラに集めましょう)

(サクラ、掲げてくれ)

(フジ兄、薬お願い)


サクラが術を唱える。


光の球は虹色になり、輝きを増していく。


(いくよっ! めー・いっ・ぱいっ!!)

病魔の抵抗に耐えながら、サクラは輝く球を押し込んだ。


見詰めながら待つ――


(もぉひとつ準備した方がいい?)

(待って、動いた!)


雪希の瞼が動き、ゆっくり開いた。


二度、三度と瞬きをし、唇が動いた。


「ありがとう……ございました……」

掠れた吐息のような声が聞こえた。


「お母さん!」「雪希、ただいま」


「おかえり……リリス、あなた……」涙が流れる。



 その場に へたり込んだ三人に、フジが仙竜丸を渡し、深々と礼をした。





桜「雪希さん、間に合って良かったね~♪」


白「だなっ♪」


桜「出発前、楽しかったね~♪」


白「だなっ♪」


桜「ハク兄の竜は、なんて名前にしたの?」


白「シルバスノーだ。いいだろ♪」


桜「ふぅん」


白「なんだよ~」


桜「おいしそ~じゃない……」


白「食いモン扱いすんなっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ