島の夜4-ハクとアオ②
次章からは、午後2投稿にしようかな……
宿舎のハクの部屋に、寝台とアオの荷物を運び込み、落ち着くと、アオは分厚い本を読み始めた。
うわ~ 荷物ほとんど本だよ……
何の本だ? 表紙も読めねぇ。
けど、この印は医司省のだっけか?
「なぁ、アオ」
「なんですか?」
医学書から目を話さず返事した。
「手続きは?」
「終わりましたよ」
ですから、学生章を着けているのですが――
「父上の許可も貰ったのか!?」
「無差別枠には不要だそうです」
そもそも、枠の新設許可を王からも
頂いている筈ですけど――
「って、手続き、けっこう時間かかったハズだが――」
「ですから、外に出るのが遅くなったんですよ」
「は?」
「試験なんて、すぐ終わりましたから」
ハクは、ため息しか出なかった。
アオは、再び静かに読み始めた。
「なぁ……」
「はい」
「やっぱ、アオの方が王に相応しいよな……」
「また、そんな事を……」呆れ顔を向けた。
「俺、王になんて成りたくねぇからよ。
王位継承権 第二位、譲るわ」
「ハク兄さん」瞳に冷たい怒りが宿る。
「な、なんだよっ」恐えって!
「俺は、王族会を解体したら、王位継承権 第一位を二人にするつもりなんです」
この頃は、まだ、王族会が大きな権力を持ち、直系王族に圧力を掛けていた。
それに対抗して、アオが長老会を動かし、改革を進めていた。
その王族会が定めた王位継承権規では、王位継承権 第一位は、ただひとりであり、第二位以降は実力に依り入れ代わるとされていた。
「二王制ですので、それが当然でしょう?
今のままでは、要らぬ争いの種になりますからね。
下手をすると、ドラグーナ王家は滅亡しますよ」
「でも、実力主義も悪くねぇと思うがなぁ」
「本当に、それだけなら、ですけどね」
「どういう事だよ?」
「争いの種を蒔き、機に乗じて事を起こすとか、派閥を作って主権を奪い合うとか、王族史をざっと見ても、いくらでも出てくるでしょう?
しかも、騒がしいのは全て王族会ではありませんか。
争う気なんて全く無い御先祖様方は、嘆き悲しみながらも振り回されて……
そんなの早急に無くさないと、俺達は七人兄弟なんですからね。
大変な事になりますよ」
言葉の大波が襲ってくる~
「兄さん、聞いているんですか?」
「あ? ああ……」
「それは、それとして、俺は王には成りません。
兄さん達の補佐をする為に、今、努力しているんです。
これからの為に、補佐が、誇り有る職であり、王にとっても、国にとっても、不可欠な存在であると、生涯を賭して明示したいんです」
「これから……って?」
「勿論、弟達の為でもあり、子孫の為ですよ。
次世代は、もっと増える筈ですから」
「俺達の……子供!?」俺……六十二
「各々が二、三人ずつ持ったとしても二十人程も王族が増えるんですよ」
「アオ……お前、いくつだよぉ」
「王族会の問題は根深いんです。
今、俺が子供だろうが、兄さん達が王太子に成る迄に間に合うかどうか、
俺達が子供を持つ迄に間に合うかどうか分からないんですよ」
「そっか……
改めて思ったよ。
やっぱ、次の王に成るべきは、お前だよ」
「兄さん、何を聞いていたんですか?
俺は、補佐に成るんです!」
「いや、だから――」
「王が完璧であったなら、補佐なんて不要です。
完璧でなければ王に成れないのなら、竜宝で『王』を作ればいいんです。
生身の者が王に成り、竜が竜を治めるのは、心有る政をする為ではありませんか?」
「完璧でなくていいのか……
だから、俺でもいいってか?」
「なんで、そう、ひねくれるんですか?
でも……
王族史を読んで気付いたんですが、そういう、ひねくれ者の方が、良い統治をしているんですよ。
それに、とても強くて、術技にも長けているんです。
これは、俺の勝手な想像なんですけど、
この気質を持つ方々は、始祖・シルバコバルト様の血を強く受け継いでいるんだと思うんです。
そういう御方だったようですから」
「始祖様が……ひねくれ者……」
「父上も、ハク兄さんも、です。
だから、兄さんも素晴らしい王に成る筈です」
「いやいやいやいやっ! ちょい待て!」
「はい?」まだ何か?
「なんもかも、アオの方が上だろーがよっ!
俺なんて……」
「だから、俺が補佐になるんです」にこっ
「でもなぁ……俺なんかに……」
「王は、ひとりではありませんから。
それに、補佐も俺ひとりではありません。
七人で国を治めるんです」
「でもなぁ、俺、軍人の方が向いてるって、軍人学校に入って、つくづく思ったんだよなぁ」
「王に成って、軍を率いて出ればいいでしょう?
ハク兄さんが軍に残ったら、軍の方々が扱いに困りますよ」
「う~ん……」
「まだ、何か不満なんですか?」
「いや、何ってワケじゃねぇけどな……」
「暴れたいのなら、地下魔界で御存分にどうぞ。
いずれ、攻め込むつもりですから」
「まさか、本気で――」
「本気ですよ。
だから、人界の任に、早く行きたいんです」
――――――
あれが、初めて兄弟で寝た日なんだよな~
あんな饒舌なヤツだなんて知らなかったよ。
城で会っても寡黙だったもんな~
あれで三十二ってんだから、
非常識もいいトコだよなっ。
あの小っこい体に、
誰か御先祖様が入ってんじゃねぇかと
真剣に思ったよ。
次の日は、第一班長を勝ち取る
『班長決め』をやったんだよな。
んで、すっごい接戦で、四戦中二勝ずつ。
五戦目が弩で、アオの最後の矢が、
的の中央の円周にピタッと沿って外で、
アオが負けて……
あれって、どう考えても、わざとだよな。
その後、上級卒業まで、ずっと一緒で、
ずっと、俺が第一班長で、アオが副長で……
コイツ、何度『班長決め』やっても、
接戦で負けやがって……
生意気なクセに、気ィ遣うんだよな。
だから……愛おしくて仕方ねぇんだよなっ♪
アオ、もうちょいだけ、待っててくれよ。
ハクは、アオの頭を指でそっと突っついた。
すると、アオにくっついていたサクラが、その指を掴み、ぱくり。
慌てて指を引っ込めた。
「クロ兄~ おかわり~」むにゃ……
ハクは笑いを堪えて、サクラの頭を撫でた。
サクラも愛おしいからなっ。
「俺も~ ハク兄、好き~」すぅ……
やっぱ、絶妙だよなっ♪
押し殺した笑い声が、漏れ聞こえた。背後から――
凜「アオは、本当に王ではなく、補佐に
なりたいと思っていたんでしょうか?」
金「それは、私も疑問であったので、
アオに尋ねた事が有る」
凜「アオは何と?」
金「目指す政を成す為には、窮屈で不自由な
王ではなく、補佐がいいのだ、と」
凜「理想、高そう……」ため息……
金「何事も遥かな高みを目指すのがアオだ」
凜「神様だわ……」
金「そうだな。サクラも、だ」
桜「呼んだ~?」
凜「噂してただけよ」
桜「なになになぁに~?」
凜「アオとサクラは神様みたいだって
誉めてただけよ」
桜「アオ兄は、そぉだよ♪
でも、俺は、ぜんぜんムリムリ~」
金「こういう所が良い所だ。
しかし、玉に瑕でもある」
桜「いいの? 悪いの?」
凜「その、首の傾げ方! あざと可愛い!」
桜「や~ん、わしゃわしゃやめてぇ」




