島の夜3-ハクとアオ①
キンとサクラに続いて、ハクとアオです。
ハクは、キンに背を向け、アオの寝顔を見詰めていた。
アオ、ぜってー 元に戻してやっからなっ。
俺も覚悟キメたし、
アオの夢、叶えさせてやっからなっ!
――――――
「本日の鍛練は、これまで!
以後、宿舎にて待機!」
「はいっ!」一斉に敬礼!
中級修練に上がったばかりのハクは、同じ班の修練生達と共に、宿舎に向かっていた。
あれ? アオじゃねぇか?
なんで、こんな所にいるんだ?
遠くに弟らしき姿が見えた。
何か考え込んでいるようで、周りを見てはいないようだった。
「お~い! アオ~!」
聞こえたらしく、アオは辺りを見回した。
「こっちだ。こっち!」
ハクは、飛びながら叫んだ。
「ハク兄さん……」
「どうしたんだ? こんな所で。
とりあえず、目立ちたくねぇからな。
建物に入るぞ」
二人は、近くの建物に入り、廊下の隅に陣取った。
「で、何してたんだ?」
「修練を始めたいと願い出たんですが……」
「まだムリだろ」
「そう言われました」肩を落とし、ため息。
「だろ?」
「規定だから、あと十八年待て、と……」
「だろうな。お堅いからなっ。
あ……もしかして、お前、また……」
「はい。
どうすれば変えられるだろうかと考えていたんです」
「お前なぁ」今度は、ハクが ため息。
その時、すぐ近くの扉が開き、老竜が手招きした。
「校長……」ハクが固まる。
物怖じしないアオは、その扉に向かった。
「待てっ、アオ!」慌てて引き留める。
「廊下では騒がんようにな。お入りなさい」
「はい。失礼致します」アオは堂々と入る。
「ハク様も」
「……はい」渋々入る。
「お座りなさい」
「ありがとうございます。失礼致します」
ハクも頭を下げ、座った。
「アオ様、受付から聞き及びました。
何故、お急ぎなさるのですかな?」
「一日も早く、三界を平和にしたいからです」
「流石、高き御志でございますな。
しかし、人界に赴くには、修練の他にも様々な試練や試験がございますが、如何なさるのですかな?」
「はい。省略など最初から考えてはおりません。
全てに於いて認めて頂いた上で、人界に赴き、更に、魔界へと進むつもりでおります。
ただ、最大の障害が年齢制限なんです。
ですので、まずは、それを引き下げ、私自身が前例となり、いずれは撤廃しようと考えております」
「然様ですか……ふむ……」目を閉じる。
長い沈黙――
「では、こう致しましょう。
現状の年齢枠には囚われない特別枠を設けます。
そうですな……
『無差別枠』とでも致しましょうか。
ただし、その試験は、とても厳しいものとさせて頂いてもよろしいですかな?」
「はい! ありがとうございます!」
「王と軍本部からの許可を得なければなりませんからな。
暫し、お待ち頂けますかな?」
「はい!」
「ああ、お待ち頂く間、その外ででもお二人で手合わせなどしては如何かな?」
「ありがとうございます!」
アオは大喜びで窓から飛んだ。
「しっかりしておいでですが、まだまだ可愛いらしゅうございますな。
さ、ハク様も」
「あ、はい」アオを追った。
♯♯♯
「ハク兄さん、剣ですか?
それとも属性技で?」
「ど~せ、両方やるんだろ?」剣を抜く。
アオは、背負っていた剣・蒼牙を抜き構えた。
ただでさえ、アオの小さな体には大き過ぎる蒼牙が、更に ひと回り大きくなり、蒼い光を帯びる。
「行きます!」「来いっ!」
二人が嬉々として剣を合わせる音が響き、教官も修練生達も、何事かと外に出る。
人集りができている事に気付かぬ程、二人は集中しており――
「んじゃ、そろそろ、技いくか?」「はい!」
気をサッと剣に溜め――同時に放つ!
銀雷と水流が、二人の真ん中で衝突した。
互角に押し合っていたが――
水流が弾け、銀雷が突き抜け――
――た、かと思いきや、青水の煌めきが、銀雷を包み、凍て、弾け散った!
「ゲッ!」
青い煌めきの向こうから、光の波動が迫った!
間一髪でハクが避けると、アオは波動を打ち消した。
「お見事!」校長が拍手しながら出て来た。
「さて、教官諸君、先程の手合わせは、新設の無差別枠への、あの青い少年の入学実技試験でしてな。
合否を問いたい。
入学を認めるならば、挙手頂きたい。
如何かな?」
教官達が一斉に手を挙げる。
「ふむ。合格ですな。
では、筆記試験に移りましょう」
校長は、建物に入って行った。
「おい、アオ、行かねぇのか?」
「あ……ありがとうございました!」ぺこりっ
アオは慌てて校長を追った。
「ハク=メルドブルング!」
「は、はいっ!」敬礼!
「先程の少年は誰だ?」
「おとっ……私の弟です!」
「何歳だ?」
「三十二です!」
教官達が唖然とする。
そして、ざわざわざわ――
「筆記試験って……」「さっき見たアレか?」
「まだ初等学校にも行ってないだろ!?」
「いや、それよりも、さっきの技……」
「なんで、あんなチビが……」
なんだか大騒ぎである。
あのバカ、ショッパナから目立ちやがって~
ハクが天を仰ぐと――
あ……兄貴……
キンが、上級、特級修練生に混じって、上空から見ていた。
軍人学校は国王軍に属しているが、軍人達は、教官も修練生も皆、王族には無関心で、まさか軍人学校なんかに王族が居るとは思ってはいない。
それを利用し、王族達は代々、その身分を伏せて入学してきた。
王族にとっては、上級修練までは必須なので、キンとハクも、例に漏れず、身分を伏せて入学した。
そんな訳で、軍人学校では、キンは父の友人の姓を借り、ハクは母方の姓で名乗っている。
王族でも、兄弟でもない事にしているとはいえ、キンとハクが一緒に居れば、流石にバレるので、二人は接触しないようにし、目立たないようにしているのだった。
それでも、キンは上級の、ハクは中級の第一班長になってしまったのだが――
校長に連れられ、アオが建物から出て来た。
アオの左肩には、真新しい学生章が有った。
ま、トーゼンだな。
あのアオが筆記試験で落ちるなんて
有り得ねぇよな。
つい、ため息が出てしまうハクだった。
ああ見えて、大学生なんだよなぁ
しかも超難関の医学部って、どうなんだよ……
やっぱ、アイツの方が、
王に成るべきだよな……
教官達が、アオと校長を囲む。
「筆記試験も合格しました。満点です」
校長の声で、ハクも駆け寄った。
教官達が響動めいている。
「これで、アオ=メルドブルング君も初級修練生となりました。
初級教官長、受け入れ、お願いしますよ」
「校長、お言葉ですが――」
文句あんのかよっ!
ハクが一歩 踏み出した時、
「無差別枠ですよ。当然、年齢もです。
他に何か問題が有りますか?」
「いえ、問題ではありません。
先程の実技を見る限り、初級では、手合わせ出来る修練生がおりません。
中級にて、受け入れ願います」
「ふむ。中級教官長、如何ですかな?」
「そうですね。受け入れましょう。
実力十分と判断します」
「ハク君、それでよろしいですかな?」
「え? 俺?」ぱちくり「ぃや、私ですか!?」
「弟と一緒で構いませんか?」
「あ、はい! 越されないよう励みます!」
「あ……そうでした」ぽんっと手を打つ。
ハクとアオが、揃って見上げる。
「宿舎が足りませんね。
暫く、兄弟一緒で我慢してもらえますかな?」
「はい!♪」二人、揃った。
凜「あれ? ハクは?」
金「意外であろうが、ハクは恥ずかしがりだ」
凜「へえぇ~」
金「代わりに、知っている範疇で答えよう」
凜「ありがとうございます♪
今度は子供の頃のアオについて
なんですね?」
金「そうなのであろうな。展開までは知らぬ」
凜「ハクとアオは兄弟として軍人学校に
入ってしまったけど、大丈夫だった
んですか?」
金「貴族には、アオも知られていたが、
一般には、あまり知られていなかったのだ
勿論、誕生祝列は、したのだがな」
凜「軍人さんは、その辺 無関心だから
バレなかったんですね?」
金「そうだな」
凜「お名前そのままで、バレないなんて
無関心にも程がありますよね?」
金「王族と同じ名を付ける事は流行るので
そこは気にしなくていい」
凜「でも、キン様は珍しいですよね?」
金「サクラ程では無い。フジも珍しい」
凜「一般的には、どんな鱗色が多いんですか?」
金「緑や褐色系が多い」
凜「意外と地味なんですね~」




