砂漠へ3-森の村
もうすぐ砂漠です。
魚を獲る式神熊を眺めていると、下流の方から、少女が軽やかに駆け寄って来た。
少女は、ふわりと着地すると、今、来た方角の大木を指差す。
「ありがとう」
陰陽姫が頭を撫でると、少女は白い煙と共に蝶になり、ひらりらと飛んでいった。
そうか、洗濯していた式神なのか。
便利だよな……。
見送っていると背後から、
「アオ様の お世話は私が~っ!!」
ドドドッと、蛟が迫って来る。
何故、皆に考えている事が筒抜けなんだ!?
「お気になさらず」くすくすくす♪
「私は、アオ様が お生まれになられて直ぐより、ずっとお世話致して参りましたのでっ、アオ様の事でしたら何でも分かるのでございます!」
「そ……うなんだ……」
「『思い出せなくて、すまない』でしょう?」
真似られてしまった。
陰陽姫が愉しげに笑う。
「俺って……単純なのかな……」
「そのような事は、決してございません!」
「でも、陰陽姫殿も――」
「私は陰陽師ですので、それなりに」にこっ。
「あ、随分と魚が獲れましたねぇ♪」
式神熊が獲った魚は、岩の上で、てんこ盛りになって跳ねている。
「沢山ございますので、干物に致します♪」
蛟は、背の袋から小さな壺と棒を取り出し、魚に棒の先を向けて光を当てると、その壺に入れ始めた。
そんな小さな壺に入りきるのかな……?
どんどん入れる。
入ってしまった……どうなっているんだろう?
蛟と目が合った。
「これも、竜の国の道具でございます」にこっ♪
「俺……今度は、そういう顔をしていたんだね?」
「はい♪」
蛟は壺を小脇に抱え、嬉しそうに厨に向かった。
その後ろ姿を見送り、視線を戻す。
あれ? 陰陽姫殿は何処に?
見回すと、陰陽師二人で修行するのか、森に向かっていた。
陰陽師殿、来ていたんだ……。
もちろん、式神熊も消えていた。
何とはなしに、そのまま川を眺める。
「アオ♪ ぼけ~っと、何をしておるのじゃ?」
遊び相手でも探しに来たのかな……?
「姫様は何をなさっているんですか?」
「手合わせ願おうっ!!」耳元で大声。
「うっ……るさいっ!!」振り向く。
「ボケッとしておるからじゃ。
ワラワの相手をせよ♪」剣を抜き、構える。
「解ったよ」渋々腰を上げ、剣を構える。
「真剣勝負じゃっ!」「望む所だ」
アオの眼差しが変わる。
そして――
「アオと手合わせ致すは楽しぃのじゃが……ワラワの剣が全て折れてしもぅたぞ」
「代わりに俺の予備を使ってよ」
「うむ♪
それにしても、アオは剣を握ると別人じゃな」
「そうかな……」
「自覚は無いのか?」
「己という者が分からないからね」
「さよぅか……しかし、ワラワは好きじゃぞ♪」
「いいよ、無理して慰めなくても」
「そのよぅな意味ではないぞ」
「婿なら他を当たってくれよ」
「そぅではなくっ!」
「記憶云々じゃなく、そもそも結婚する気なんて無いんだよ」
立ち上がる。
「寂しぃヤツじゃのぅ」見上げる。
「うん……そうだね……」歩き去った。
「何があったのじゃろぅのぅ……。
ミズチに聞いてみよぅぞ♪」厨に向かった。
「あれ? 姫様、何処に行ったんだろ……」
アオは予備の剣を取りに行っただけだった。
厨から蛟が出て来た。
「アオ様、今日は如何なさいますか?
村にも宿は有るそうでございますが――」
「村は すぐ近くだし、国境も遠くないから、村で話を聞いたら、また ここに戻るよ。
今夜も ここで泊まろう」
昨夜、桜竜の背で見た地形を思い浮かべながら話した。
「はい♪」
「蛟、干物の方は?」
「あとは干して置くだけでございますぅ♪」
「そう。なら、修行している三人は、このまま続けてもらって、二人で行こう」
「はいっ♪ あ……姫様は如何致しましょう?」
「昼寝でも していてくれればいいんだけど……あ……」
「如何なさいましたか?」
「厨に居るよ。大丈夫かい?」
「えっ!?」振り返る。「朝食がっ!」
蛟は慌てて駆けて行った。
♯♯♯
多少減ってはいたが無事だった朝食を食べ、慎玄と陰陽師達は修行へ、アオと蛟は村へと出掛けた。
また、姫様は何処に行ったんだろう……?
(アオ兄♪ 姫、後ろにいるよ♪)
(付けて来ているのかい?)
(うん♪ コソコソついてってる♪)
(サクラも来ているの?)
(うんっ♪ おもしろいから~♪)
蛟と並んで話しながら歩き、横目で後ろを窺っていると、確かに、姫が付けて来ていた。
流石、すばしっこいよな。
でも、どうして隠れて付けて来ているんだろう?
着いた村は小さかったが、殆どが宿屋で、茶屋も多かった。
しかし、訪れている者は少なく、活気は今ひとつだった。
茶屋に腰を落ち着ける。注文は蛟に任せた。
運んで来た茶屋の主に話を聞いたところ、西の国の砂漠では、突如たくさんの岩山が現れ、そこに魔物が棲み着いてしまった、との事だった。
その為、砂漠を行来していた商人達が来なくなり、宿屋も、運送や道案内を生業とする者達も困り果てている、との事だった。
何より、西の国の都との中間地点の宿場街が、どうなっているのかが心配だ、とも言っていた。
主の話を聞いている間に、後ろから伸びた手が、サッと団子と饅頭を持っていったが――
まぁ、いいか……。
放っておいた。
凜「姫様、何をなさってるんですか?」
姫「ん?」むぐむぐむぐ♪
凜「両手の団子と饅頭は……?」
姫「なかなかに美味じゃ♪」
凜「そのために、こっそりと?」
姫「同行すれば、あまり頼んで貰えそぅには
ないからの。策を講じたのじゃ♪
おっ♪」
凜「あっ! 姫様、どちらへ!?」
姫「二人が次の茶屋に座ったからの♪
さらばじゃっ♪」




