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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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島の夜1-キンとサクラ①

 『おまけ』です。


 初めて兄弟揃って語り合った島の小屋で、じゃれて疲れて絡まるように眠っている弟達に、優しい眼差しを向け、キンは幸せに浸っていた。


 弟達の山が、もそっと動いた。

フジとアカの上で眠っていたサクラが、クロを押し退けて這い出し、アオを越えて、ハクとアオの間に収まった。

キンが微笑む。


 孵化してすぐに、各々の屋敷で、蛟達に依って育てられた王子達は、兄弟とはいえ、会うのは儀式くらいのもので、公務などで一緒に行動する事すら滅多に無かった。

()してや、儀式以外で兄弟揃うなど有り得なかったのだ。


 兄弟だけで人界に来て、本当に良かった……


再び巡らせた視線は、アオに寄り添うサクラで留まる。


 まるで、離すまいとしているようだな。

 それも当然か……サクラにとって、

 アオは『育ての親』なのだからな。


キンは、内なる気までも瓜二つな弟二人の寝顔を見て、微笑んだ。

そして、人界に来てからの事に思いを馳せた。



――――――



「アオ様は、また、ご不在なのですか?」


 軍の幹部が、アオの所在を確かめるべく洞窟を訪れていた。

王子達が人界の任に就いて、二年。

何度訪れても、アオにだけは会えない事に、業を煮やしているようだった。


「そうです。滅多に戻る事は有りません」


 この時も、洞窟には、キンしか居なかった。

他の王子達には、人界上空で会ったと言っていた。


「では、どちらにいらっしゃるのですか?」


「それは――」


扉を叩く音。

「キン兄さん、どうかしたんですか?」


「アオか……入れ」


扉から、青い髪が覗いた。「失礼します」


「アオ様、ご無事だったのですね。

これまで、どちらにいらっしゃったのですか?」


「詳しくは申せませんが、ハザマの森、地下魔界の近くです」


「そうですか……失礼を致しました」


「いえ、何度も足をお運び頂き、申し訳ございません。

それで、私に何かお話が有るのですか?」


「いえ、ご無事ならば、それでよいのです」


「そうですか。では、戻らせて頂きます。

兄さん、倉庫に入っても構いませんか?」


「ああ。また、すぐ行くのか?」


「はい。あまり離れたくはない状況なのです」


「そうか……」


「では、失礼致します」敬礼。出て行った。



「それでは、私も、失礼致します。

何度も申し訳ございませんでした」

軍幹部は、キンに最敬礼し、退室した。



 キンは気の動きを追い、軍幹部が飛び立った事を確かめた。


「誤魔化せたかなぁ?」現れた。


「先程のアオは、サクラであったのか……

あの気がサクラだと判るのは、父上だけであろうな」


「ん♪」


「サクラの気は、元々アオに似ていたが、あそこまで区別がつかぬ程に似せられるとは……」


「アオ兄は俺で、俺はアオ兄だから~♪」


「そうか……」フッ……


「じゃ、アオ兄トコ、戻るね~♪」


「サクラ、髪――」


「忘れてた~」きゃはっ♪ 桜色に戻す。

「いってきま~す♪」消えた。



――――――



 何度か、そうして凌いだな……

 最初(あの時)は、本当に驚いた。

 アオが戻って来たと確信する程に、

 全てが似ていたのだから。


 驚いたと言えば――



――――――



 初降下から数日後、眠ったままであったサクラが目覚めた。

目覚めはしたが、サクラは自室に閉じ籠り、誰とも会わず、話さず、更に数日が過ぎた。

そんなサクラが、皆が出払った時を見計らい――


(キン兄さん、お話ししたい事が有ります)


(サクラ……改まって、どうした?)


(アオ兄さんの事です)


(返事が有ったのか!?)


(いえ、無事なのですが――)現れた。


キンは、サクラの悲しみを帯びた真剣な眼差しと対峙した。


「無事である事は確かなのだな?」


「はい。ですが、ここに来る事は出来ません。

魔物から身を護る事すら……出来ないと思います」


「まさか、アオが……そのような……

もしや、あの時の事が――」


「初降下の時の事ですか?」


「いや、サクラが孵化する以前の事だ」


「それが、どのような事なのかは存じませんが、それは無関係です。

ただ、今は……アオ兄さんは、何も出来ないのです」


「そうか……あの事で無いのならば、無闇に心配はすまい。

アオは、何処に居るのだ?」


「それも……何も申せません。

アオ兄さんを護る為に……何も話せないのです。

ですが、お願いが有るのです」


「ふむ……何だ?」


「私を、人界の任から外して頂きたいのです」


「それは……そんな事をすれば、サクラは――」


「元より、私は第七王子ですので、王位継承権など、有って無いようなものです。

王族を除籍されても構いません。

アオ兄さんを護りたいのです」


「何故、そうまでするのだ?

皆で協力すればいいだろう?」


「全ては、私が原因だからです。

それに……アオ兄さんと私の結び付きは特別ですので、私にしか護れないのです。

これ以上は何も話せず、申し訳ございません」


「そうか……サクラは、アオだけでなく、皆を護ろうとしているのだな?

ならば、もう何も聞くまい。

皆にも隠すと約束する」


 出立前のアオと同じ瞳……

 揺るがせぬ決意なのだな……


「ありがとうございます、キン兄さん」


「サクラの力、それは……封印しているのだな?」


「……はい」


「それも、アオの為なのか?」


「はい」


「そうか。ならば、こうしよう。

これ迄、サクラと接していたのはアオとフジだけなのであろう?」


「はい」


「フジの事は案ずるな。私が何とかする。

皆、サクラの性格や力を知らぬ。

年齢が離れている末子だという事も利用すればいい。

サクラ、幼子の振りを徹せるか?」


「え? それは……どういう――」


「サクラは戦力外であると思わせるのだ」


「そうすれば、自由に行動できる……

そういう事ですか?」


「そうだ。

サクラだけが持つ、心で話す特技を使い、皆の千里眼となれば、何処に居ても役立つ事が出来る。

アオに付いていながら、それだけをすればいい。

それならば、人界の任からも外れずに済む」


「そうか……それなら……

いっそ、龍神帝王をも騙せるくらいに……」


「龍神帝王?」


「アオ兄さんを狙っている奴です。

キン兄さん、俺、全てを欺きます。

アオ兄さんを必ず護り抜きます!」


「しかし、その状態で、本当に護れるのか?」


「俺には、竜宝の力が有りますから、俺自身の力を封じていても、アオ兄さんと一緒に逃げるくらいは、十分できます」


「曲空も出来るならば大丈夫だな」


「はい!」


 サクラは、満面の笑みを見せた後、深呼吸し、目を閉じた。

そして、気を鎮め――


(別人になってみせます!)


 開いた瞳には、悪戯っぽく愛らしい光が宿っていた。

纏う気も、無邪気で陽気な可愛らしいものに変わっていた。


サクラは唖然とするキンを見て、嬉しそうに跳び跳ね、

「アオ兄トコ、いってきま~す♪」曲空。


(サクラ……)あまりに違い過ぎるぞ……


(なぁに? キン兄♪)


(大丈夫なのか?)何も、そこ迄……


(俺、だいじょぶ~♪)きゃはっ♪


(そうか……)サクラが、それでいいのなら……


サクラが現れた。大人びた瞳に戻っている。

「ご心配には及びませんよ」くすっ♪

「では」曲空。


(俺、部屋に籠ってる事にするから~

誰か入りそぉになったら、知らせてねっ)


(あ……ああ、そうする)本当に別人だな……





凜「サクラがアオのフリをね~」


金「最初は本当にアオだと思ったのだ」


凜「青い髪なのに?」


金「軍幹部が帰った後、アオは知らぬ筈だと

  気付いたが、あの場では、そこ迄もは

  思いが至らなかったのだ。

  だが、軍幹部にも、私達が髪を鱗色に

  合わせている事は知られていたのだから、

  サクラの判断は正しかったのだ」


凜「そっか~

  それで、人界の任の出立前に

  アオと何かあったんですか?」


金「話してもいいが、長くなるぞ」


凜「お願いします。

  またの機会に出しますので」


金「ふむ。では――」


 そのお話は、またいずれ……


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