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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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大乱後1-竜に乗って

 前回まで:大襲撃は終わりました。


 夜通し母とコギを手伝い、操られていた天人・魔人達を、ハザマの森に在る狐の(やしろ)へと移し、治療していた紫苑と珊瑚は、

船に降り立ち、雲が晴れ、高く昇った陽の眩しさに目を細めながら天を仰いだ。


「あれは……」見合せた顔に喜びが広がる。


七色の竜が、楽しそうに じゃれ合いながら煌めき、降りて来ていた。


「紫苑、珊瑚、如何したのじゃ?」

姫が船室から出て来た。


珊瑚が満面の笑みで、天を指す。


「おぉ……♪」姫からも喜びが溢れた。



 兄弟達が船の直ぐ上で、次々と人になり、降り立つ。

最後に、瑠璃の竜が見慣れたアオになり、降り立った。


「成功したのじゃな♪」


兄弟達が大きく頷いた。


「良かったのぅ♪」


「姫、明け方まで手伝ってくれて、ありがとな」


「なんの。大したことでは無い」にこにこ♪



「では、皆の衆、祝いの宴じゃ♪

――と言いたい所じゃが……

助かった者の中に、人も居ってのぅ。

慎玄殿が、ずっと治療しておったのじゃ。

ハク殿、アオ、早速で申し訳ないが――」


既に兄弟達は船室に走っていた。



 アオの部屋を除き、どの部屋にも、人が隙間が無い程 横たわっていた。

慎玄の回復と浄化の術で意識を取り戻し、座っている者も居る。


ハク、アオ、サクラが治療を始めた。

紫苑と珊瑚も加わる。


「クロ、フジを洞窟へ。その後は薬を運べ。

アカ、治療が終わった人を国に運べ。

爽蛇殿、聖輝水の樽は何処だ?

それを皆に飲ませて欲しい」


世話をしていた くノ一衆とリリスを爽蛇が呼び、姫も加わり、聖輝水を配り始めた。



 帰すことが出来ると判断された人達が、甲板に出ると――


甲板には、深紅の竜が居た。


一様に恐怖を露にし、後退る。


「大丈夫ですよ♪

とっても おとなしくて可愛いんですから♪」

リリスが部屋から顔を出して、にこやかに言った。


「皆さん、仁佳(ニカ)の国の方ですか?」

キンが やわらかい表情で問いかけた。


皆、おずおずと頷く。


姫が人々をかき分けて出て来た。

「キン殿、先に乗って、引き上げて下さるか?

皆の衆、不安がる事など何ひとつ無いぞ♪」

にこにこ♪


「そうだな……俺、全部 見てたんだ。

空で俺達を助けてくれたのは竜なんだよ」


「ああ。俺も見てたぞ。

光に当たって死んだかと思ったら、体が自分のものに戻ってたんだ!」


そうだそうだと、ざわめき頷き合う。

そして、一人二人と竜に近付き、キンが差し出した手を取った。




「さあ、行こうか」

キンが深紅の竜(アカ)の背を優しく叩いた。


ふわり、宙に浮くと、響動めきが起こる。

しかし、皆の表情は明るい。


姫が手を振ると、皆、楽しそうに振り返し、遠ざかって行った。


次々と甲板に出て来た人々が見上げる。

「次の竜を待つがよい♪」姫も嬉しかった。


(クロ、何処じゃ?)


(洞窟だ。フジの薬を運んでるんだ)


(甲板に大勢おるからの。気をつけよ)


(そっか。ありがとな)

クロは後方に曲空した。

ハクに薬を渡し、前の様子を見る。


 確かに多いな……アカだけじゃ大変だな。

 次の薬は時間かかるって言ってたよな……


後ろに戻り、竜体になって前に降りた。


(クロも行ってくれるのか?)


(次の薬が出来るまでな)


(竜使い役は くノ一にさせようぞ♪)

「如月!」近くにいたので、呼んで耳打ち。


如月は頬を染め、嬉しそうに乗った。


「ミズチ、引き上げてやってくれるか?」




 黒輝の竜(クロ)が飛んで行き、綺桜の竜(サクラ)が降りて来た。

船室の方を見ると、アオが頷いていた。



 くノ一が乗り、蛟が引き上げ、竜が飛ぶ。


 キンも竜になって戻り、最終の薬を運んで来たフジも加わった。

治療に専念しているハクとアオを除いた五色の竜が、くるくると人々を運んだ。




 夕刻になり、やっと手が空いたらしく、リリスが出て来た。


「姫様、お疲れ様です。

皆さん元気になられて良かったですね♪」


「そぅじゃな♪」


 竜というのは、真に凄い力を持ちながら、

 とことん優しいのぅ。


「あ♪ クロさんの竜さん♪

姫様、あのコの名前は?」


「オニキスじゃ」


「竜の名前って素敵よねっ♪」キラキラ♪


「リリスの名前と同じでな♪」ニコニコ♪


「あ……」赤面。


「己が名を気に入っておるのは良い事じゃ♪

羨ましいぞ」ニッコリ


「静香様も良い御名前だと思いますよ」


「名前……それ自体は、のぅ……」ため息。


リリスが首を傾げる。


「ワラワの名には……おかしいじゃろ?」


「そうですね……」


「じゃろ……」また、ため息。


「姫様は可愛らしいから、もっと愛らしい御名前もいいかもしれませんねっ♪」


「えっ!?」いやいや、如何にしてそぅ――


「ねっ♪ クロさん♪」


「あ……いや……」

姫が振り返ると、クロが居た。


「あ♪ フジ♪ お帰りなさい♪」

リリスは二人に微笑み、駆けて行った。



「一晩中、起きておったのに、人の為に申し訳なかったのぅ……」

見上げる。


「どうって事 無いさ」ニコッ

「姫こそ疲れただろ。いろいろ ありがとな。

姫のおかげで、皆 乗ってくれたよ」


「竜が助けた事を、皆 見ておっただけじゃ。

ワラワは何もしておらぬ」


「そういうトコが可愛いんだよ」

ポフッとし、目が合い、照れて そっぽを向いた。


姫が頬を染めて俯く。


頭の上の手が後ろに動いたので、視線が上がり……また合ってしまう。



 波音だけが――


ガタッ!


二人共、素早く向く。


と――


アオに引きずられながら、ハクが手を振った。



 二人は真っ赤になって離れ、並んで垣立(かきたつ)に寄りかかり、夕陽に煌めく波を見詰めた。



「なぁ……」「のぅ……」顔を見合せる。


「先、言えよ」「クロが先じゃ」



「オレのは別に……つか忘れたっ」ははっ


「ワラワもじゃ。

黙っておったら忘れたわ」あははっ



 今度こそ、波音だけが繰り返す。



「今日みたいに……

竜が人と仲良くなれれば楽しぃのぅ」


「そうだな……

空 飛んで、あんなに喜んで貰えるなんて思ってなかったよ。

なんかさ……人の強さを感じたよ。

大きくて恐そうな異界の生き物に乗って笑ってんだから、スゲーな……って」


「よく見れば、優しくて美しい生き物じゃ。

落ちぬよぅ、恐がらせぬよぅ、気を遣ぅてくれておる事は、触れておれば分かる。

じゃから安心して笑えるのじゃ」


「ありがと……そっか……安心して貰えたか……」


「大陸では、もっと人と接しよぅぞ♪」


「そうだなっ♪」




(ほら~、ハク兄が邪魔するから、また進まないでしょ)


(あれはアオが殴ったからじゃねぇかっ)


(そもそも、覗き見なんてするから――)

(そぉだよ~ アオ兄は悪くないよぉ~)


(って! 何でサクラが知ってんだよっ!)


(俺は何でも知ってるんだよ~ん♪

それでねっ♪

アオ兄、完全復活したから、アオ兄にも伝わっちゃうからねっ♪)


(それって……)


(そ♪ だから、もぉ邪魔しないでねっ♪)


(邪魔じゃなくて応援だ!

……ん?

それは何の構えだ!? おいっ お前ら!?)



 クロと姫の頭上を白銀の光が物凄い勢いで飛び去り――


綺桜と瑠璃の光が、その行く手に現れ――


光の塊が海に落ちた。


(逆鱗なでなでの刑っ♪)きゃははっ♪





 人を運んでいるサクラは、アオの様子を

気にかけていた。


桜(アオ兄、だいじょぶ?)


青(うん。まだ、上手く制御できないけど、

  すぐに慣れるからね)


桜(なんか……元気ない?)


青(そんな事……まぁ、いろいろ一度に

  思い出したからね、少し戸惑いは有るよ)


桜(ふぅん……とまどい?)

  それだけならいいんだけど……


青(心配しないで、ね?)


桜(う、ん……)


青(サクラ、ありがとう)


桜(急に、どしたの?)


青(うん……とにかく、ありがとう。それと……

  その口調、可愛いから、そのままね)


桜(あ……うん。これは……まだ、このままで……

  アオ兄、こっちの方がいい?)


青(そうだね。サクラが無理でないならね)


桜(うん♪ じゃあ、このまま~♪)


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