大乱後1-竜に乗って
前回まで:大襲撃は終わりました。
夜通し母とコギを手伝い、操られていた天人・魔人達を、ハザマの森に在る狐の社へと移し、治療していた紫苑と珊瑚は、
船に降り立ち、雲が晴れ、高く昇った陽の眩しさに目を細めながら天を仰いだ。
「あれは……」見合せた顔に喜びが広がる。
七色の竜が、楽しそうに じゃれ合いながら煌めき、降りて来ていた。
「紫苑、珊瑚、如何したのじゃ?」
姫が船室から出て来た。
珊瑚が満面の笑みで、天を指す。
「おぉ……♪」姫からも喜びが溢れた。
兄弟達が船の直ぐ上で、次々と人になり、降り立つ。
最後に、瑠璃の竜が見慣れたアオになり、降り立った。
「成功したのじゃな♪」
兄弟達が大きく頷いた。
「良かったのぅ♪」
「姫、明け方まで手伝ってくれて、ありがとな」
「なんの。大したことでは無い」にこにこ♪
「では、皆の衆、祝いの宴じゃ♪
――と言いたい所じゃが……
助かった者の中に、人も居ってのぅ。
慎玄殿が、ずっと治療しておったのじゃ。
ハク殿、アオ、早速で申し訳ないが――」
既に兄弟達は船室に走っていた。
アオの部屋を除き、どの部屋にも、人が隙間が無い程 横たわっていた。
慎玄の回復と浄化の術で意識を取り戻し、座っている者も居る。
ハク、アオ、サクラが治療を始めた。
紫苑と珊瑚も加わる。
「クロ、フジを洞窟へ。その後は薬を運べ。
アカ、治療が終わった人を国に運べ。
爽蛇殿、聖輝水の樽は何処だ?
それを皆に飲ませて欲しい」
世話をしていた くノ一衆とリリスを爽蛇が呼び、姫も加わり、聖輝水を配り始めた。
帰すことが出来ると判断された人達が、甲板に出ると――
甲板には、深紅の竜が居た。
一様に恐怖を露にし、後退る。
「大丈夫ですよ♪
とっても おとなしくて可愛いんですから♪」
リリスが部屋から顔を出して、にこやかに言った。
「皆さん、仁佳の国の方ですか?」
キンが やわらかい表情で問いかけた。
皆、おずおずと頷く。
姫が人々をかき分けて出て来た。
「キン殿、先に乗って、引き上げて下さるか?
皆の衆、不安がる事など何ひとつ無いぞ♪」
にこにこ♪
「そうだな……俺、全部 見てたんだ。
空で俺達を助けてくれたのは竜なんだよ」
「ああ。俺も見てたぞ。
光に当たって死んだかと思ったら、体が自分のものに戻ってたんだ!」
そうだそうだと、ざわめき頷き合う。
そして、一人二人と竜に近付き、キンが差し出した手を取った。
「さあ、行こうか」
キンが深紅の竜の背を優しく叩いた。
ふわり、宙に浮くと、響動めきが起こる。
しかし、皆の表情は明るい。
姫が手を振ると、皆、楽しそうに振り返し、遠ざかって行った。
次々と甲板に出て来た人々が見上げる。
「次の竜を待つがよい♪」姫も嬉しかった。
(クロ、何処じゃ?)
(洞窟だ。フジの薬を運んでるんだ)
(甲板に大勢おるからの。気をつけよ)
(そっか。ありがとな)
クロは後方に曲空した。
ハクに薬を渡し、前の様子を見る。
確かに多いな……アカだけじゃ大変だな。
次の薬は時間かかるって言ってたよな……
後ろに戻り、竜体になって前に降りた。
(クロも行ってくれるのか?)
(次の薬が出来るまでな)
(竜使い役は くノ一にさせようぞ♪)
「如月!」近くにいたので、呼んで耳打ち。
如月は頬を染め、嬉しそうに乗った。
「ミズチ、引き上げてやってくれるか?」
黒輝の竜が飛んで行き、綺桜の竜が降りて来た。
船室の方を見ると、アオが頷いていた。
くノ一が乗り、蛟が引き上げ、竜が飛ぶ。
キンも竜になって戻り、最終の薬を運んで来たフジも加わった。
治療に専念しているハクとアオを除いた五色の竜が、くるくると人々を運んだ。
夕刻になり、やっと手が空いたらしく、リリスが出て来た。
「姫様、お疲れ様です。
皆さん元気になられて良かったですね♪」
「そぅじゃな♪」
竜というのは、真に凄い力を持ちながら、
とことん優しいのぅ。
「あ♪ クロさんの竜さん♪
姫様、あのコの名前は?」
「オニキスじゃ」
「竜の名前って素敵よねっ♪」キラキラ♪
「リリスの名前と同じでな♪」ニコニコ♪
「あ……」赤面。
「己が名を気に入っておるのは良い事じゃ♪
羨ましいぞ」ニッコリ
「静香様も良い御名前だと思いますよ」
「名前……それ自体は、のぅ……」ため息。
リリスが首を傾げる。
「ワラワの名には……おかしいじゃろ?」
「そうですね……」
「じゃろ……」また、ため息。
「姫様は可愛らしいから、もっと愛らしい御名前もいいかもしれませんねっ♪」
「えっ!?」いやいや、如何にしてそぅ――
「ねっ♪ クロさん♪」
「あ……いや……」
姫が振り返ると、クロが居た。
「あ♪ フジ♪ お帰りなさい♪」
リリスは二人に微笑み、駆けて行った。
「一晩中、起きておったのに、人の為に申し訳なかったのぅ……」
見上げる。
「どうって事 無いさ」ニコッ
「姫こそ疲れただろ。いろいろ ありがとな。
姫のおかげで、皆 乗ってくれたよ」
「竜が助けた事を、皆 見ておっただけじゃ。
ワラワは何もしておらぬ」
「そういうトコが可愛いんだよ」
ポフッとし、目が合い、照れて そっぽを向いた。
姫が頬を染めて俯く。
頭の上の手が後ろに動いたので、視線が上がり……また合ってしまう。
波音だけが――
ガタッ!
二人共、素早く向く。
と――
アオに引きずられながら、ハクが手を振った。
二人は真っ赤になって離れ、並んで垣立に寄りかかり、夕陽に煌めく波を見詰めた。
「なぁ……」「のぅ……」顔を見合せる。
「先、言えよ」「クロが先じゃ」
「オレのは別に……つか忘れたっ」ははっ
「ワラワもじゃ。
黙っておったら忘れたわ」あははっ
今度こそ、波音だけが繰り返す。
「今日みたいに……
竜が人と仲良くなれれば楽しぃのぅ」
「そうだな……
空 飛んで、あんなに喜んで貰えるなんて思ってなかったよ。
なんかさ……人の強さを感じたよ。
大きくて恐そうな異界の生き物に乗って笑ってんだから、スゲーな……って」
「よく見れば、優しくて美しい生き物じゃ。
落ちぬよぅ、恐がらせぬよぅ、気を遣ぅてくれておる事は、触れておれば分かる。
じゃから安心して笑えるのじゃ」
「ありがと……そっか……安心して貰えたか……」
「大陸では、もっと人と接しよぅぞ♪」
「そうだなっ♪」
(ほら~、ハク兄が邪魔するから、また進まないでしょ)
(あれはアオが殴ったからじゃねぇかっ)
(そもそも、覗き見なんてするから――)
(そぉだよ~ アオ兄は悪くないよぉ~)
(って! 何でサクラが知ってんだよっ!)
(俺は何でも知ってるんだよ~ん♪
それでねっ♪
アオ兄、完全復活したから、アオ兄にも伝わっちゃうからねっ♪)
(それって……)
(そ♪ だから、もぉ邪魔しないでねっ♪)
(邪魔じゃなくて応援だ!
……ん?
それは何の構えだ!? おいっ お前ら!?)
クロと姫の頭上を白銀の光が物凄い勢いで飛び去り――
綺桜と瑠璃の光が、その行く手に現れ――
光の塊が海に落ちた。
(逆鱗なでなでの刑っ♪)きゃははっ♪
人を運んでいるサクラは、アオの様子を
気にかけていた。
桜(アオ兄、だいじょぶ?)
青(うん。まだ、上手く制御できないけど、
すぐに慣れるからね)
桜(なんか……元気ない?)
青(そんな事……まぁ、いろいろ一度に
思い出したからね、少し戸惑いは有るよ)
桜(ふぅん……とまどい?)
それだけならいいんだけど……
青(心配しないで、ね?)
桜(う、ん……)
青(サクラ、ありがとう)
桜(急に、どしたの?)
青(うん……とにかく、ありがとう。それと……
その口調、可愛いから、そのままね)
桜(あ……うん。これは……まだ、このままで……
アオ兄、こっちの方がいい?)
青(そうだね。サクラが無理でないならね)
桜(うん♪ じゃあ、このまま~♪)




