天地乱5-解放
竜宝が沢山ですが、気にしないでください。
大きな術ほど、補助竜宝が沢山必要らしいです。
サクラはアオの部屋に曲空した。
そこに有った壺は全て封がされており、姫は壁にもたれて眠っていた。
(どしたの? アオ兄?)
ついさっき普通に話していたアオが難しい顔をしていた。
(サクラ……
ヒスイが返事してくれないんだけど……
本当に俺の力を解放してもいいのかい?)
(うん。今は返事できないよ。
ヒスイは今、神界の深層に行ってるんだ。
これから神に成るために。
でも、術の時には来てくれるからね)
(神に……成る……?)
(うん。神竜は最初から神なんじゃなくて、条件が整って初めて神に成る事が出来るんだよ。
やっとヒスイも条件が整ったんだ)
(条件?)
(ヒスイにとって最後の条件は、俺が成人する事だったんだ)
(サクラ……まさか……)
(うん♪ 宣詞 受けたよ♪
また、これも最年少記録更新かなっ)ニコッ♪
(サクラ……俺の為に……)
(ううん。俺、早く成人したかったんだ♪
だから、もう大丈夫。
アオ兄の封印を解いても、ちゃんと護れるからね)ニコニコ♪
(サクラの封印は?)
(一部 鍵が必要なんだけど、ほとんど解いて貰ったよ)
(いろいろ すまない……ありがとう、サクラ)
(言いっこナシ♪
アオ兄は俺で、俺はアオ兄だからっ♪)
(それは、どういう――)
(サクラ、術を行う場所を探して欲しい)
(は~い♪ キン兄、ちょっと待ってね)
(クロ兄、壺 片付けてよ~)
(あ……忘れてたっ)
クロが慌てて入って来て、壺をひと纏めにし、姫を掛布ごと布団に移し、頭を撫でると、大壺を抱えて出て行った。
(アオ兄、術する場所 探そ♪)アオの両手を取る。
サクラが何かの術を唱えた。
(最適な場所へ……せ~のっ!)
浮遊感……そして着地。
「寒っ!!」
サクラが両腕を擦りながら、ぴょんぴょん跳ねる。
二人は、だだっ広い荒野に居た。
「ここなら、誰にも迷惑かけそうにないね」
アオが、掌に光を集め、上に放った。
夜明け前の冷えきった空気が暖かみを帯びる。
「誰にも見られず、少々破壊しても問題無さそうな、良い場所だな」
キンの声に二人が振り返ると、五色の竜が人姿になった。
「始めよう」
モモとウェイミン、そして翁亀、リ姉弟が加わり、解読した古代の術は、
神竜に依って成された術を解く為に、神竜を召喚し、更に、召喚した神竜の力を増幅する強力なものであった。
それだけの強力な術ともなれば、唱術者にも、それ相応の力が求められ、当然、命懸けの危険も伴う。
しかも、その術を人界で行うならば、人姿で実行しなければならない、という条件付きであった。
竜にとっての人姿は、消耗を抑え、俊敏に動ける反面、力が半減してしまう状態である。
天竜王子達は尋常でなく鍛えており、人界に慣れているとはいえ、竜体の七割の力が出せるかどうか、という状態であった。
その為、天界で行うより遥かに危険が増す――
な~んてこと解ってるけど!
(絶っっっ対! 成功させるからねっ!
大船に乗っちゃってね♪ アオ兄♪
術を受け入れやすくしなきゃだから、気を鎮めててねっ)
サクラはアカから竜宝が入った袋を受け取り、中を見た。
竜宝の紐や總などの装飾品が、真新しい物に付け替えられていた。
ワカナさんが持って来てたの、コレなんだ~
(アカ兄、ありがと♪)(うむ……)
サクラは、竜宝短剣・槐陽を自分の帯に、対となる橡陰をアオの帯に差した。
(これが、アオ兄と俺が『ひとつ』なんだって示してくれるんだよ)
そして、兄達の手首に、招召の鐘鈴と、珪化羅黒と芳輝石で出来た楽器を模した装飾・招召の奏器を通した組紐を結んでいった。
ハク、クロ、フジが、聖輝水を気に乗せて放ち、地面を浄化する。
三人は向かい合い、三方に後退しながら、浄化した領域を拡げていった。
サクラがキンとアカに光を当てた。
二人は離れて向かい合い、キンが神以鏡・月を、アカが神以鏡・陽を両手で掲げた。
鏡が各々の鱗色の光を帯び、その光が強まっていった。
鏡から溢れ出た光は、やがて互いに向けて伸びる線状に収まった。
二人は、鏡面を地に向けた。
浄化され、光を帯びた地面に、鏡から放たれる光で魔法円を描いていく。
大きな二重の同心円。
その内円に接する正五角形。
その頂点を対角線で結び、星形を成す。
各頂点と外円の間に、そこに立つ者の個紋。
星形の内側に出来た五角形の中に、向かい合わせで、アオとサクラの個紋を描く。
そして、解放の鍵となる古代文字を配していく。
最後に、魔法円の中央に神竜を表す古代文字を描いた。
サクラが、中央の古代文字に至冀の璧を重ね、瑠璃色の芳小竜を乗せた。
「アオ兄を助けてね」なでなで
芳小竜が、きゅる♪ と鳴いて片手を挙げた。
キンは弟達に頷いた。
天竜王子達は各々の個紋の上に立ち、守護珠を掲げた。
サクラが解放の術を唱え始める。
澄んだ声で澱み無く。
まるで、幼い頃から知っている歌を歌っているかのように――
鐘鈴の音が、サクラの声に寄り添う。
奏器から美しく厳かな音色が流れる。
七人の守護珠が光を帯びる。
守護珠の内にも個紋が浮かび上がり、その輝きが増していく。
♯♯♯
長い長い解放の術を唱え終わると、サクラは白い光に包まれた。
どこまでも続く、真っ白で、あたたかな光の世界をサクラは浮遊していた。
【サクラ……】
淡くて優しい緑の神竜がサクラに近付く。
(あ……ヒスイ♪ 来てくれて ありがと♪)
【サクラ……鍵は合っていたよ】
(うん。ちゃんと当たりだったね♪)
【スミレが神になるまで……
やはり、猶予は無かったね……】
(そうだね……もう少し待ってて欲しかったね。
でも、こうなったら頑張るしかないよね)
【そうだね。私も頑張るよ】
(一緒に、ねっ♪)
【ありがとう、サクラ。
では……アオを解放しよう】
(ありがと♪ ヒスイ大好きっ♪)
【私もサクラが大好きだよ】
(うん♪)
ヒスイが右手を天に伸ばし、術を唱える。
【呼神の力に依り、アオの力を解放する!】
サクラの周りの白い光が飛び散った。
【サクラ……また会おうね……】
(うん♪ ヒスイ、ありがと♪ またねっ)
♯♯♯
同じ時、アオも、あたたかい白い光の中を漂っていた。
その光が弾け飛び――
【アオ……】
朦朧とした意識の中に声が響いた。
この声……知っている……
そうだ……間違いない。この声は――
(ヒスイ……)
声の主がヒスイだと判った瞬間、霞がかった意識が鮮明になり、
記憶が、竜の力が、アオの内に溢れ出し、身体の隅々まで満ち渡っていった。
そして、ヒスイの想いがアオに伝わった。
人界の任に赴く途中で、囮となって兄弟から離れ、地に降りた時、何があったのかも――
(ヒスイ……)
【許して……アオ……すまない……】
(俺を護るためだったんですから、謝らないでください)
【……ありがとう】
(俺の方こそ……ありがとうございました)
ヒスイは、神竜にしか見えない、アオの溝尾に未だ鮮明に残る傷に、両手を重ねて添え、
【禍々しき者よ……
もしも、この者に禍成すならば、神を敵にする事と心せよ!
光輝神雷!!】
強い光を注いだ。
【さあ、アオ……飛ぶがいい!】
♯♯♯
アオとサクラの心が白い光の中を浮遊していた時、
それは、実際には、ほんの一瞬だったが――
周りを囲む兄弟には、アオの頭上に光輪が、サクラの背に翼が、そして、中央には翡翠色の神竜が見えていた。
星形の内側が光で満ち、アオとサクラを包み込み、鍵となる古代文字が宙に浮き上がり、その光を囲んだ後、弾け飛んだ時――
光の中から、瑠璃色に輝く竜が天に昇った。
兄弟達は、次々と竜体になり、アオを追った。
サクラは疲れきって、人姿すらも保てなくなったのか、竜体に戻り、竜宝を抱いて眠っていた。
ハクはサクラを抱き上げ、
「頑張ったな……ゆっくり休めよ」
起こさないよう、そっと回復の光を当てた。
そして、サクラを抱えたまま、白銀の竜も、瑠璃の竜を追って、明けの空に昇った。
凜「あ! ヒスイ、待って!」
翡【え? あ……】
凜「大丈夫? 疲れ? ぼんやりして~」
翡【アオの解放……終わったの?
サクラに声掛けて……記憶が……】
凜「あれ? 神憑ってると思ったら~」
翡【うん……
あの術は、神竜でも一時的に神化するんだ。
だから……私であって私ではないよ】
凜「じゃあ『アオ、飛ぶがいい!』は?」
翡【えっ…………】真っ赤。
凜「ヒスイらしくないと思ったわ~
おどおどしてなくて神々しかったもん」
翡【あの……それ……酷くない?】




