天地乱2-召集
前回まで:天界と船、同時に襲撃されました。
「サクラ! 何が有った!?」
突然、鉱山から姿を消したサクラを追って、ハクが甲板に曲空して来た。
抱きついている二組を見て、
「とにかく無事ってか?」
と苦笑したが、不穏な気を感じ、上を向いた。
「無事じゃねぇな……アオ、サクラ、乗れっ!」
白銀の竜が舞い上がり、上空に、光の波紋が繰り返し拡がった。
「オレ達も行くぞ!」
姫と爽蛇と大樽を乗せて、黒輝の竜も昇った。
♯♯ 天界 ♯♯
天竜王国は、複数地点同時に攻め込まれていた。
治癒は希少な天性である為に、持つ者が足らず、その上、溜めて放つ事が出来る者ともなると、皆無に等しく、各所苦戦していた。
「国中より治癒を持つ者を召集せよ!
王子もだ! ハクとアオを、至急、天界に戻せ!」
真夜中に発せられたギンの王命が、長老の山に居たキンに伝えられた。
その伝令を共に聞いたムラサキが、シロを連れて城に曲空した。
「ギン王よ!
人界の任に就いておる王子達を呼び戻すとは、前例無き事ぞ!」
吼えるシロをギンが睨む。
「前例無き程の襲撃を受けておるのだ。
王族ならば、馳せ参じるのが当然!
この一大事、如何な理由が有れど、半日も有れば十分であろう。
明日の正午までに来ぬ者は、死罪とする!」
「二人共、冷静にならぬか。
王子達も同時に襲撃を受けておるやも知れぬ。
先ずは、それを確かめぬか?」
ムラサキが仲に入ったが、
「私が逆上しているとでも?
前王とて愚弄は赦さんぞ。
冷静だからこそ猶予を与えておるではないか。
我が命は絶対である!
ハクとアオ、二人だけというのが気に入らないのなら、王子達を全て召集せよ!」
「グッ……」
一歩踏み出し、再び吼えようとしたシロの腕をムラサキが掴んだ。
「シロ、ここは引き下がらねば、余計に拗れそうじゃ。
一旦、戻るぞ」
♯♯♯
長老の山では、書庫の中庭の大池に、キンが飛んで来た。
「キン様! 解読、完了しました!
あとは、芳輝石が到着次第、竜宝を再現するだけです!」
ウェイミンが嬉しそうに叫んだ。
「それが着いたら、どのくらいで再現出来るのだ?」
「一日か二日か……
竜宝は初めてですので、やってみないと分かりませんが……」
ネイカが考え考え答えた。
「キン、何か有ったの?
騒がしいようですが……」
モモが辺りを窺う。
「魔物の襲撃を受け、治癒を持つ者、全てに召集が掛かりました」
「もしや、アオも……?」
「はい……」唇を噛む。
ムラサキがシロを連れて現れた。
「まずい事になった。
明日の正午までに登城せねば――」
ムラサキが言い澱む。
「死罪と命を下しおったんじゃ!!
あの大馬鹿者がっ!!」
シロが吐き捨てるように叫んだ。
「まさか……そんな……」モモが泣き崩れる。
(サクラ! 芳輝石は、どうなっている!?)
(見つけたけど、船が襲撃されてて――)
(何処に行けばいい!?)
(フジ兄のトコ!)
(解った!)
「芳輝石を持って来ます!」キンが消えた。
キンが船の上空に出た時、
「オレが行く! 姫、爽蛇、キン兄に移れ!」
クロが消え、すぐにフジと大きな袋と共に現れた。
「このまま届けるからっ!」再び消えた。
♯♯ 天界 長老の山 ♯♯
「……これで足りる……か?」
シロの傍に出たクロは、ただならぬ空気に、たじろぎながら袋を置いた。
フジがモモに駆け寄り、
「何が有ったのですか!?」見回す。
ムラサキが説明した。
クロとフジは愕然とし、悔しさで固く目を閉じ、項垂れたが、
フジは直ぐに顔を上げた。
「モモお婆様、聖輝水を作りましょう!
シロお爺様、増幅系の鏡は沢山ありますか?
襲撃さえ終われば、アオ兄様が来る必要はありませんよね?」
皆、強く頷いた。
フジとモモは薬品庫に向かい、シロは蔵に向かった。
「そっちも進めるのじゃぞ」
「これ、どこに運べばいいですか?」
クロが芳輝石の袋を担ぎ直す。
「工作室はどうかの?」
ムラサキが蛟達に目で指示する。
「そこに全てお願いします!」
ネイカとホウが、クロを追って駆け出した。
翁亀とウェイミンは、解読した古文書の文章から、紙に魔法円を描き始めた。
天界で調達出来る材料は、シロとモモの蛟達が、工作室に運び込んだ。
「ホウ、夜明け迄に作るわよ!」
「はい! 姉さん!」
「ムラサキ様、先にハク兄とサクラ、それとアカを連れて来ます!」
「船は大丈夫なのか?」
「なんとかします!」
言い終わらないうちにクロは消えた。
♯♯ 人界 ♯♯
船の上空の魔物は、ハク、アオ、サクラの治癒の光と、慎玄の浄化の光をキンが一手に集め、聖輝水と共に爆発的に拡散させて一掃した。
しかし、またもや闇の穴が開き、魔物が溢れ出る。
皆が再び身構えた時、クロが現れ、
「アオ! キン兄に移れ!
ハク兄、サクラ! オレに掴まれ!」
嵐のように去って行った。
「アオ、まだ大丈夫か?」
「もちろんです!」
「慎玄殿、まだ途絶えていません。
宜しくお願いします!」
「キン様こそ、長期戦で御座いますので御無理なさいませぬよう」合掌。
「ありがとうございます。
無限の仙竜丸がございますので、ご心配には及びませんよ」
話しながらも、三人は光の拡散を続けていた。
闇の穴は何度消そうが、次々と現れ、魔物も途絶えず、出続けるのだった。
アオは、キンの背の壺を覗いた。
それは、集縮の小壺で、中には海底神殿で拾った鏡と仙竜丸をひとつだけ入れたのだった。
うん。満杯になったね。
これなら戦い続けられる。
♯♯ 天界 ♯♯
クロが長老の山に戻り、ハクとサクラを降ろし、アカを迎えに消えた時、
伝令兵が、ムラサキに報告し始めた。
「魔獣が王都に迫っている為、王子様方をお待ちする間を凌ぐ手段として、竜宝兵器を配置せよ、との王命で御座います!」
王都で、んなモン使ったら、
こっちも尋常じゃねぇ被害が出るだろうが!
父上、いったい何考えてやがるんだ!?
……もしや……操られてるのか!?
「サクラ、俺は王都に行く。
前線のコハク王軍を助けて貰えるか?」
「ねぇ、ハク兄、竜宝兵器の代わりに、集縮の壺に治癒の光と増幅鏡を入れたら、使えると思わない?」
「それいいなっ!」
ムラサキに駆け寄り、耳打ちする。
ムラサキは大きく頷き、
「それを竜宝兵器として提供しよう」
『集縮の壺』は、生き物でなければ何でも入り、見た目の百~千倍の容量が有る便利な壺である。
しかも、この壺は、一般家庭でも収納用に使っている量産型の竜宝なので、どこにでもゴロゴロ有る。
増幅系の鏡は種類が多く、量産こそ出来ていないが、汎用品である。
爽蛇がよく使っている水鏡も、海底神殿から、渦や海藻を溢れさせた鏡も、竜宝、魔宝の違いこそあれ、増幅系の鏡である。
何でも大量収納する集縮の壺に、治癒の光を込め、増幅系の鏡を入れれば、治癒の光が一気に増え、爆弾と化する。
そう、サクラは考えた。
(アオ兄、ありがと♪)
(サクラが思い付いたんじゃないか)くすっ♪
(そっち、だいじょぶ?)
(大丈夫だよ。
天界も襲撃されているんだよね?)
(うん。でも、だいじょぶだよ♪)
大丈夫にしなきゃね!
♯♯♯
フジもサクラと同様の事を考え、長老達と共に、聖輝水の壺爆弾を作っていた。
アカは、製薬室に大量の小鏡が入った袋を置き、工作室に向かった。
壺は、蛟達が工場から運んで来ている。
「モモお婆様、ここは長老様方にお任せして、助かった方々の為の薬を作りましょう。
魔人だけでなく、人や天人も操られている筈ですから」
フジとモモは、隣の製薬室に移動した。
♯♯♯
「この壺爆弾なら、前線でなくても作れるでしょ?
お医者さん達、下げてあげてよぉ」
サクラがムラサキに言った。
そして、声を潜める。
「でも……
父上への進言は、おそらく無駄ですので、コハク王様の所に行きたいのです。
ムラサキ様、曲空して頂けますか?」
おや? サクラの口調が……
ムラサキが、そう思った時、鏡の袋を抱えたシロが通りがかった。
ムラサキは、目でシロを呼び、コハクの傍に曲空した。
ちょうど立ち会い三人だから……
やるしかないよねっ!
ハザマの森でも、
そこかしこで妖狐と魔物が戦っていた。
紫「母様!」
三「あなた達……こんな所に……」
珊「こちらでも魔物と戦っていると――きゃっ!」
紫「珊瑚っ!」
珊「ありがとう、紫苑」
三「治癒、回復、浄化……そんな所かしら……」
紫「母様?」
三「二人共、目を閉じて」額に掌を当てる。
二「あっ……これは……?」
三「治癒系の力だけを開いたわ。
ここで、存分に練習しなさい」
二「はい! ありがとうございます、母様!」




