西航行24-クロ戻る
逆鱗の位置?
――三界の竜の標準は知りません。
王子達は、背中なんです。
藤紫の竜は、船に降下した。
アオが手を貸し、魔人を降ろす。
神竜の魂が入ったままの檻も渡した。
(リリス、そのまま乗っていてください)
(はい)
(サクラ、リリス、さんに逆鱗の説明をお願いします)
(フジ兄、ウロコなでなでされた?)クスクス♪
(俺も空龍さんになでなでされた~)ケラケラ♪
サクラが、藤紫の竜の背に、跳んで乗る。
「リリスさん♪
このウロコ、これだけ、ちょっと違うでしょ?」
「そうね……一枚だけ、なんか違うわね」
「それ、逆鱗ってゆーの。弱点なんだよ。
アゴの下とかにあるコはいいんだけど~
俺達の竜は背中にあるんだ。
さわりやすいトコにあるから、気をつけてあげてねっ」ニコッ
「そうなの? ごめんなさい、竜さん……
さっき私、触っちゃったかしら?」
「だいじょぶ♪ 落ちてないから~」ケラケラ♪
「触ったら飛べなくなるの!?」
「うん♪ だから、だいじょぶ~」
「よかったぁ……
フジ、さん、言ってくれないから~」
「弱点だからね~
今まで、だれにも言ったコトないんだ。
初めて言ったの。
だって、リリスさんは、これからいっぱい乗るでしょ?」ニコッ
リリスが頬を染める。
「あとね~」飛び降りる。
「フジ兄のこと、呼んでるままでいいからねっ」
(フジ兄もねっ♪)クスクス♪
二人共、真っ赤!
「じゃ、もっかい♪ いってらっしゃ~い♪」
(リリス、もう一度しっかり掴まってください。
暗くなるまでに戻れるよう、急がせますので)
藤紫の竜は一気に涅魁の国、北の港町まで飛んだ。
山地に降下し、木々の間を縫って、町外れの森にリリスを降ろした。
「ちょっと見てきます。竜さん、待っててね」
リリスは駆け出して、すぐに立ち止まった。
(フジ、このコ……名前は?)
え!? 名前ですか!?
え~っと……どうしましょう……
あっ! 天界の色ですと――
(ウィスタリアです。ウィスで構いません)
「ウィス、行ってきます♪」
手を振り、駆けて行くリリスの後ろ姿を見送る。
リリス……私が竜だと言ったら……
受け入れてくださいますか……?
♯♯♯
暫くして、リリスは戻って来た。
駆け寄り、藤紫の竜の腕に抱きつく。
「ウィス! お母さん生きていたわ!
良かった……これで安心して、お父さんを連れて来られる……」
きゅるぅ
良かったですね リリス。
私もホッとしました。
藤紫の竜は夕陽を受けて煌めきながら、往きと同じく、豪速で船へと飛んだ。
(サクラ、上空で待機してくださいますか?)
(は~い♪)
降下すると、アオが手を貸し、リリスを降ろす。
「ウィス、ありがとう」鼻先なでなで♪
大きく手を振るリリスに見送られ、藤紫の竜は、サクラが待つ上空に向かった。
「リリス、ウィスとは?」姫が寄って来た。
「あのコの名前よ♪
ウィスタリアだから、ウィス」
「然様か……」
フジもいろいろ大変じゃな……
いっそ竜じゃと言えばよかろぅに……
綺桜の竜が降りて来た。
フジが、その背から降りる。
「お帰りなさい、フジ♪」駆け寄る。
「只今戻りました、リリス♪」抱き止める。
ぅわわわ~
一気にアツアツじゃのぅ……
姫は背を向けた。
「ねぇ、フジ、このコの名前は?」
(サクラ! 何か良い名前はありませんか!?)
(ええ~っ!? わかんないよっ!)
チェリー……ええと……どうしましょう……
シルキー……いえ、サクラなら――
「ミルキーチェリーです」
「なんか響きが かわいいっ♪
あ♪ そうよねっ! 竜だもの!
『リリィホワイト』みたいな名前よねっ♪
そうでしょ? フジ♪」
「はい」にっこり――が、少々ひきつる。
「チェリー、ありがとうございます」
綺桜の竜は笑いを堪え、楽しげに ひと声鳴いて、飛んで行った。
姫は背で笑っていた。
姫様が私達にお付けになった名より、
遥かに良いと思いますけどっ!
♯♯♯
上空でサクラは、
「俺は、いつ船に戻ればいいの?」首を傾げた。
曲空は……アオ兄の部屋……は、今ムリ。
後ろの甲板か……爽蛇の部屋……かな?
その時、目の前に黒輝の竜が現れた。
「クロ兄!♪」
「何やってんだ? サクラ」
「リリスさんが部屋に入るの待ってた~」
「ああ、そっか」
「クロ兄、修行 終わったの?」
「あとは実戦で鍛えろってさ」
「じゃ、つれてって♪」人姿になり、背に乗る。
「しゃーねぇなぁ」
後方甲板に曲空し、即、クロも人姿になった。
「クロ……」
「あ……姫、ただぃ――まっ!!!」突飛ばされた。
結果、姫を抱く形になった。
「サクラ! お前っ!!」振り返って叫ぶ。
――が、既にサクラの姿は無い。
「あ……悪ぃ、こんな――」
姫が見上げる。
「ただいま、姫」ニコッ
姫は頬を染め、慌ててクロの胸で顔を隠し、何やらモゴモゴ言った。
「聞こえねぇよ」ぽんぽん
少しだけ顔を離す。
「クロ……お帰り……なさぃ……」
「おう」
サッと姫が離れ、海を向き、垣立を掴んだ。
フジとリリスが近付いて来ていた。
「あ……居たのか……」
「お帰りなさい、クロ兄様」
フジが二つの腕輪を差し出す。
その手にも、そっくりな腕輪が有った。
そして、リリスにも――
「アカ兄様からです。サクラと話す要領で」
それだけ言って、二人は微笑み、立ち去った。
フジとリリスさん、着けてたな。
皆、持ってるのか?
ひとつ、姫に渡して、着けてみる。
姫も着けた。
サクラと話す要領で、か……
(姫?)姫がビクッとしてクロを見上げる。
(声に出さずに、心の中で、オレに話しかけてみてくれるか?)
(クロ……こぅか?)
(ああ、聞こえた)そうか……そういう事か……
(コレが あれば、どんなに離れていても話が出来るんだ)
(竜とは……まったく……
摩訶不思議な物を作るのじゃな♪)にこっ
(摩訶不思議か……確かになっ)あははっ
(と、いうことは、じゃ)
(どうした?)
(ワラワの婿は、クロで決まり!
と認められたのじゃな♪)
え・・・何だって!?
コレ、どーやって外すんだっ!?
ピッタリになってて抜けねぇぞっ!!
(何故、黙るのじゃっ!!
外そぅとしておるのかっ!? クロ!!)
クロが走り出す。
(フジ! 外し方を教えてくれっ!)
返事は――当然、無い。
くそっ! コレは姫専用かよっ!!
そうか! 竜になれば――
竜になっても、当然、ピッタリである。
曲空!
「アカ! 外し方を教えてくれっ!」
ニヤリ。作業を続ける。
「頼むよ~、なぁ、アカ」
「護るしかないだろ」フッ
「……解ってるよ。
だよな……オレが護らねぇと、あんなお転婆姫、誰も護れねぇよな……」
ため息……
(クロ、どこにいるんだ?)クロ、跳び上がる。
(アオか……工房だ)ホッ
(ちょうどよかった。
キン兄さん、連れて来てくれないか?)
(解った)
「アカ、ありがとなっ」
「兄弟の分は、お前らの話を聞いて作る」
「そっか。なら、また来る」
(クロ~、何処じゃ?)
(洞窟だ! キン兄、連れて戻るからっ)
(いつの間に、そんな所まで飛んだのじゃ?)
「キン兄、アオが呼んでるんだ。掴まってよ」
「うむ」
(こうやって移動してんだよ)
姫の目の前に出て、即、人姿になる。
姫がキンにペコリとお辞儀した。
その手を見、クロの手を見て、
「そうか……クロは、ここに居ればいい」
片手を軽く挙げて制し、アオの部屋に向かった。
???・・・!!!
(アオ! キン兄に、誤解だって言ってくれっ!)
アオの返事は、笑い声だった。
凜「さて……ウィスタリアは長いから……
ウィス? タリア? どっちにしよう……」
黒「なんか細かい事、悩んでるんだな」
凜「あ、クロ、おかえり~」
黒「帰った途端、オレ弄りかよぉ」
凜「トーゼン、二組とも書くよ♪」
黒「兄貴達のは?」
凜「もう落ち着いちゃってるからなぁ
回想で使うくらいしか……
だいたい面白味が――」
藤「やはり、面白がっているのですね!?」
凜「うわわっ! クロ、あとヨロシク!」
黒「……曲空したのか?」ウソだろ……
藤「逃げたのですね?」
黒「なぁ、フジ、暫く半々でどうだ?」
藤「嫌です!」




