西航行23-二人旅
前回まで:大陸が近くなり、
フジとリリスは恋人になりました。
工房でアカと話した後、フジが洞窟の自室で薬を調合していると――
(フジさん、どちらにいらっしゃいますか?)
(今、洞窟で薬を調合しています。
リリスさん、何かありましたか?)
(いえ、なんにも……あの……
フジさんの竜さんに乗せて頂けますか?
一緒にも乗りたいのですが……
私ひとりでも大丈夫でしょうか?)
一緒に……それは……どうすれば……
その問題も有りますね……
(まだ少し、こちらでしなければならない事が有るのです。
ですので、一緒に乗るのは、また今度お願いします。
これから、竜だけ向かわせますので、乗ってください。
アオ兄様にお願いしておきますので)
(はい♪ ワガママ言って、すみません)
(いえ、嬉しいです)ぽっ
(えっと……でしたら、もうひとつ……)
(何でしょう?)にこにこ♪
(あの……『さん』無しで呼んでください……)
言っちゃったぁ!
(え……?)真っ赤。
(あっ、無理ならいいんです!!)あわっ!
(あ! いえ、嫌とか無理とかではなくっ!
その……)赤面しまくりで深呼吸~(リリス……)
(はいっ♪ 嬉しいっ♪
ありがとう! フジさん♪)
(私には付けたままなのですか?)
(えっ!? それは……)
(無しにするなら一緒がいいです)むぅ
なんか……かわいいっ♪
フジさんも拗ねちゃうのねっ♪
(じゃあ……フジ……)
きゃあっ! 恥ずかしいっ!
(はい♪
恥ずかしいですけど嬉しいですね♪ リリス♪)
(はい♪ 恥ずかし嬉しいですね♪ フジ♪)
フジは、幸せに浸って微笑みながらも、手際よく薬を梱包し、道具を片付け、古文書を閉じた。
(では、竜だけ向かわせますので、待っていてくださいね)
洞窟から駆け出て、飛び立った。
(フジは、どうやってこっちに?)
(誰かの竜を借ります。夜には戻りますので)
(フジ……その……丁寧な言葉遣いは……)
(あっ! あの……
他の話し方を知らないので……
これから努力します……)
(あっ、でも、そのままがフジらしいから、やっぱり変えないでっ!)
笑っている。
(はい♪ ありがとうご……ぃぇ、
リリスは、話し易い言葉遣い、で、、ね?)
それでも、崩して話そうとしてみた。
(無理しなくていいわ♪)笑い続けている。
(……私の普通で許してください)早くも降参。
(はい♪)
(アオ兄様に、誘導をお願いしますので、少し待ってくださいね)(はい♪)
(アオ兄様、薬が出来ました)
(早いね。もう、こっちに向かっているの?)
(もうすぐ着きます。
それで……リリスさんが、おひとりで乗りたいそうなんです。
『竜呼び』お願い出来ますか?)
(うん、解った。甲板で待っているね)
♯♯♯
アオが甲板に出ると、紫の光は、既に、かなり近くに有った。
物凄く速いな……会いたさ強過ぎだよ。
甲板に居たリリスに気付かれないようクスリと笑うと、アオはフジとの距離を測り、指笛を鳴らし、片手を挙げた。
藤紫の竜が甲板に降りた。
竜の首に下げてある袋を貰い、リリスを乗せ、鼻先を撫でて、
「行ってらっしゃい」見送った。
そして、アオは薬を持って、空龍の部屋に向かった。
♯♯♯
「竜さん、行きたい所があるの。
涅魁の国、わかる?」
竜が小さく鳴いて、頷く。
「よかった♪
北方の、海辺の小さな港町が、私の故郷なの。
もう何年も帰ってないし……
家が有るのか確かめておきたいの」
きゅるる、と鳴いて、北に飛び始めた。
「もぉっ♪ かわいいんだからぁっ♪」ぎゅっ♪
リ、リリス!? あのっ、それはっ!
リリスは藤紫の竜の背に、ぴったり伏せたまま、鱗をそっと撫で、
「竜さん……あの、ね……
私……幸せ過ぎて、夢の中にいるみたいよ♪
でも……やっぱりね……
本当に、私でいいのかな? って、恐くなるの……」
リリス……
「あのご兄弟は、高貴な方々ではないのかしら?
そう思ってしまうの……
そう! 王子様みたいな!」
えっ!? 隠せていないのですか……?
「私は……
学校にも、ちゃんと通えなかったし……
だから、仕事も選べなくて……
生きていくために仕方なく……
あ、でもね、踊る事、それ自体は大好きよ♪
……踊るだけならね……
酔客が嫌いで、触られて、ブッちゃって、クビになった事 何度もあるわ」あははっ
「踊る以外の事を要求される度に、お店を転々として……
だんだん故郷から離れてしまって……
お金かかるから帰れなくなってしまって……
何年帰っていないかなぁ……
お母さん……生きてるかしら……」手が止まる。
きゅる……
「慰めてくれてるの? ありがとう」なでなで♪
くるる~
くすぐったいです……困りました……
「ん~♪
竜って、こんなに可愛いのに、どうして、みんな知らないんでしょ!
他の人に言ってもいいのかしら?」
きゅるきゅる~♪
「いいの!?
ひっそり生きてるから、隠れてないとダメなのかと思ってたわ!」
また撫でる。
!! リリス! やめ、てっ……
逆鱗、近いのでっ! そこはっ!
リリスが起き上がり、手を打つ。
「あ♪ フジも舞踏できるのかしら?
クロさんもサクラさんも、本物の舞踏してたのよね~
あ! だから、王子様だ! って思ったのねっ♪
フジと一緒に踊りたいなぁ~」
はい♪ それでしたら、いつでも♪
!? あれは……まさか!!
前方に黒い影が見えた。
(護竜甲殿! リリスに展開出来ますか?)
【この位置であれば大丈夫です】
(落ちないようにも?)
【勿論でございます。フジ様】
(では、リリスに展開お願いします!)
【畏まりました。フジ様、御存分に】
光がリリスを包む。
(リリス、魔物を察知しました。
しっかり、竜に掴まって、伏せてください!)
(あっ、はい!)
(安心してください。絶対、私が護りますから)
(はい)
藤紫の竜は気を消し、豪速で魔物の背後に接近した。
掌に出した紫炎に、瓶の口を当て、聖輝水を炎に乗せて放った!
背後から聖輝水を浴びた魔物は消滅した。
これでも……戻せないのですか……あっ!
サッと降下し、落下している檻を掴む。
「竜さん! 後ろ!」
振り返ると、闇の穴から魔物が出てくるところだった。
もう一度!
出きっていない魔物に、正面から紫炎に乗せた聖輝水を浴びせた。
闇の穴が塞がり、魔物が色を取り戻す。
落ち始めた魔人の背に膜翼が現れ、宙に留まった。
この違いは?
……考えるのは後ですね。
ウェイミンさんと同じように、
この方とも、お話し出来るでしょうか?
フジは魔人に近付いた。
「ご無事ですか?」
「……はい。これは一体……」
「後程、説明致します。
ここは危険ですので、一先ず移動しましょう」
「分かりました……
あっ、ありがとうございます!」
「いえ、そんな事……
とにかく、お乗りください」
檻を見る。
淡い紫の光を纏った天使が入っているが、気絶しているようだ。
聖輝水を紫炎で霧にし、吹きかけると、天使が起き上がった。
「安全な場所に移動してから開けますので、少し我慢してください」
軽く頭を下げる。
(リリス、すみません。船に戻らせます)
(はい。フジ、ありがとう)
「竜さんも、ありがとう」ぎゅっ
(急いで戻らせますから、もう少し、そのまま我慢してくださいね)
(はい)
「魔人殿、しっかり掴まってください!」
(護竜甲殿、船まで、リリスを宜しくお願いします。
あ、魔人さんもお願い出来ますか?)
【畏まりました。フジ様】
フジはアオと話しながら、豪速で船へと飛んだ。
凜「クロはグズグズしてるけど、
フジはトットコ仲良くなっちゃったな~
すっかりバ――」カップル……
殺気を感じ、振り返ると――
藤「…………」メラメラメラメラ……
凜「フジ!?」
藤「そこまで書いていいとは言っていません!!」
凜「アオ! 助けてっ! 水!
笑ってないでっ!!」




