砂漠へ1-姫の回想
やっと砂漠に向かい出立しました。
アオ達は西へと、竜ヶ峰を下って行った。
「あの大滝からの水は、この湖へと流れ込み、南へと下ってゆきます」
「静かな良い所ですね」
「太古の昔には、この畔に仏様がお住まいであったと伝えられております」
「言われてみれば、神聖な感じですね」
「ここからは、川沿いに南へと下ります。
山を下りましたら、再び、西へと参ります」
「はい。行きましょう」
アオ達は下り続けた。
♯♯♯
姫は ひた走りながら考えていた。
父上は、ワラワの話を
しかと聞いておったのかのぅ……?
――――――
時は少し遡り――
アオと陰陽師達が、姫を城に送り届け、城下で情報収集を始めた頃。
その城では――
父と娘が睨み合っていた。
いや、娘が一方的にムスッと睨んでいた。
「父上御自ら、ご病気などと嘘を触れ回るとは……国が乱れでもしたら如何する御つもりだったのじゃ!?」
あの姫に正論を言われて、二の句が継げない父。
もちろん、反省もしているが、姫の成長が嬉しくて仕方ない。
「ワラワは見合いなどせぬからなっ!!
ワラワより強ぅなければ、婿とは認めぬと前々から申しておろぅ?
じゃから、ワラワは旅に出たのじゃ。
そのよぅな、しょうもない事で嘘をついてまで、ワラワを城に戻すなどと――」
父が姫との思い出の世界に入り込んでいる間に、姫の話は進んでいく。
「そもそも、父上が、後添えなど要らぬとゴネおったから、世継ぎが居らぬのではないかっ!
それを棚に上げ、ワラワに――」
今度は、亡き妻へと想いを馳せる。
「それと、もぅひとつ!
ワラワは元服でなければ成人せぬからな!
また騙して城に戻そぅなどと、努々思わぬよぅ、申し上げておくからのっ!」
父は、まだ夢の中――
「まったく、見合いなど言語道断じゃ。
武者修行のついでに婿殿も見つけて参る故、父上は、しかと国を守り――父上、聞いておるのか?」
父、やっと我に返る。
何を言っていたのか聞いてはいなかったが、とにかく、また出て行こうとしているのは感じる。
「し、しかし!
姫に、もしもの事があったら――」
「その時は、あの者を婿にすればよいだけの事じゃ♪」
怪我などしたら、と言う前に姫が被せ、呆気にとられている父を残し、
「見失ってはオオゴトじゃ。
それでは、父上、行って参ります」
スタスタと出て行ってしまった。
そんなこんなで、アオ達と再び合流する事となる。
――――――
見合いなどせずとも、
こぅして候補を見つけておるのに、
また画策しておるのではなかろぅな……?
クロは、ハク殿とキン殿には『兄』と付けて
呼んでおったな。
アカ殿は、ワラワが言ぅたから判らぬが
『兄』で間違い無かろぅよ。
この三人は、婿候補から外した方がよかろぅな。
しからば、婿候補は、アオとクロとフジと……
桜色の竜の名を聞くのを忘れておったな。
まぁ、いずれ判るじゃろ。
婿候補は四人じゃな♪
♯♯♯
竜ヶ峰を駆け下っているアオ達の眼前に、闇黒色の集団が唐突に現れた。
闇の穴が開いていたのか――
身を隠す隙など無く、身構えた時、木々に隠れていた穴が見えた。
アオと姫の剣が煌めき、陰陽師達の御札が舞い、稲妻が走る。
皆、慎玄を護ろうと必死であった。
――が、
「浄浄万象!」
慎玄の錫杖から光が迸り、魔物が数体、掻き消えた。
「え!?」皆、慎玄を見る。
慎玄が、もう一度と錫杖を振りかざした時――
竜の如き魔物が前に出、他の魔物達を制した。
あれが将なのか?
竜の如き魔物は、驚きの眼差しでアオ達を見、
「龍神帝王様だ。
何かの策やも知れぬ。退け!」
小声で早口に指示すると、魔物達は闇の穴へと消えた。
♯♯♯
「慎玄殿は、凄いのじゃな♪」
「いえ……強き邪気を感じました故、浄化の術を試みた迄の事。
皆様の方が遥かに凄う御座います」
「その術は、私にも放てるのでしょうか?」
陰陽師が進み出る。
「陰陽師殿も近いものを、先程の雷に込めて放つ事が叶うかと存じます」
「私にも放てましょうか?」
陰陽姫も陰陽師に並ぶ。
「お二方からは、同じ気を感じます故、同じ事で御座います」
「では、お教えください!」二人。
「皆様~♪ お食事と小屋が整いましたので、こちらにどうぞ♪」
野営地を探すからと、先に進んでいた蛟が、楽しげに言いながら駆けて来た。
「ミズチ、魔物には遭わなかったのか?」
「魔物? いいえ、遭いませんでしたよ。
出たのですか?」
「出たけど、もう大丈夫だよ。行こう」
「はい♪ アオ様♪
皆様、こちらです♪」
♯♯♯
蛟に連れられて行くと、川の側に、煙突から煙が上がっている小屋を挟んで、小屋が建っていた。
「ミズチ……建てたのか?」ぱちくり。
「いえ、竜の国の道具でございますぅ」
蛟の掌には、賽子のような木片が有った。
「これを投じまして、待ちますと――」
「何も起こらぬぞ……おわっ!!」
木片が落ちた地から光が迸り、小屋が現れた。
「こうなります♪」
姫が駆け寄り、扉を開ける。
「真……小屋じゃ!♪」
「夕食を運びますので、あちらで頂きましょう」
蛟が示す方には、卓が有った。
「もぅ、陽が暮れるぞ。
灯りは如何致すのじゃ?」
「これでよろしいかと……」
蛟は袋から光る球を出した。
「火は入っておらぬのじゃな」しげしげ。
「以前、アオ様が込めてくださいました光でございます」にこにこ♪
「俺が……?」
「はい♪ 思い出しさえなされば、アオ様は何でもお出来になるのです♪」
いや、流石に『何でも』は無いと思うよ。
凜「姫様、お見合いの話があったんですか?」
姫「そぅなのじゃ。その為に、父上は嘘で
ワラワを呼び戻したのじゃ」
凜「お相手は?」
姫「どこぞの三男じゃとか……よぅ知らぬ」
凜「その方が姫様より強いか弱いかは
確かめたんですか?」
姫「確かめてはおらぬが、家老が申すには
白くて細長い瓜のような顔の、
覇気の無い男らしいからの。
ワラワは見目も重視するからの」
凜「次代の殿様は竜でもよろしいのですか?」
姫「何か問題が有るのか?
竜は格好良いではないか」
凜「確かに。
それで、キン様、ハク様、アカ様を
外した理由は?」
姫「それは……」目が泳ぐ。
凜「苦手だから?」
姫「そ、そのよぅな事は無いぞっ!
そぅじゃっ!
中の国は、自由な気風じゃからの。
三人は、ちと違うと思ぅたのじゃ!
それだけなのじゃっ!」
凜「そういう事にしときましょ♪」




