西航行20-決意
天竜王族の『修学』は、
一定期間、一般の高等学校で学ぶもので、社会見学のようなものです。
高等学校の一般の入学は、百五十歳(十五人歳)からで、在学期間は三十年以上。
卒業する為には試験に合格しなければなりません。
キンやハクの頃は、王族は百歳(十人歳)から入学可能で、在学期間は十年間でした。
以降、どうなっているのかは、またいずれ――
アオとサクラが部屋で話していると、笛の音が聞こえてきた。
その音は清々しく、また、強い決意が感じられた。
「フジの音だね」
「行ってみる?」
「二人で居たら、戻ろうね」
サクラがニコニコしながら頷く。
♯♯♯
フジは、ひとり垣立に腰掛け、笛を吹いていた。
アオが音を重ねる。
フジの目が微笑んだ。
数曲 奏で、笛を下ろし、
「フジ、護ると決めたんだね?」
「はい」にっこり
「そう」にっこり
「クロより先になっちまったな♪」
ハクが巡視から戻っていた。
(ハク兄は、どぉするの?)
(何をだ!?)
(キン兄は進めてるよ)ニコニコ♪
(何 知ってんだよ!? おいっ、サクラ!!)
(いろいろ~♪)
(お前……)冷や汗 (誰にも言うなよ!)
(言わないよ。安心して♪)
キンが来た。
(俺は言わないけど~)
(キン兄、ハク兄、あれ――)
キンとハクが、サクラの視線を追う。
そして慌てて飛んで行った。
「兄さん達、急に……どうしたんだろう?
サクラ、聞いてくれるかい? 敵なら――」
「だいじょぶ~♪ 団子 食べよ~♪」
キンが置いた包みに抱き付いた。
「様子を見て参りましょうか?」
「ほっといてあげて~♪」にこにこ♪
「……そうですか?」
「まぁ、問題無いなら……」
♯♯♯♯♯♯
「来るなら来ると言ってくれっ!」
焦りまくりのハク。
「シロ様とモモ様からは、きちんと許可を頂いておりますよ」にっこり♪
「ちょうど、キン様が飛び立たれた所で、伝えようがありませんでしたの」
ふふふっ♪
「それで、急ぎの用なのか?」
「人界は危険なんだからなっ」
「私達も、試練の山は合格しましたから、志願すれば戦えるのですよ」
「あの山を!?」キンとハク、揃った。
「ええ、一緒に♪」揃って、にっこり♪
「それで、妃修行も一緒にさせて頂きたいと存じまして、許可を頂きたく参りました」
「そうか……ハク、どうだ?」
「ってか、どんな話になってて!
こちらは何方なんだよ! 兄貴!」
「ああ、そうか。初対面だったか……」
三人、頷く。
女性二人はクスクス笑いながら。
「私の――もうすぐ婚約者になるボタンだ」
鮮やかな緋牡丹色の竜が優雅に会釈する。
「兄貴……いつの間に……?」
「修学の時だ」
「そんな前から……」全然 知らなかった……
「ハクは?」
「俺も修学だけど……」
「長い付き合いならば、彼女で決まりなのだろ?
許可すべきだと思うが?」
「いや……俺は、まだ……
そこまで決めてなくて……」
「二人で話せばいい」
そう言って、キンはボタンと共に離れた。
ハクは、楽しそうな二人を見詰め――
「ちゃんと相手が居たんだな……
兄貴らしいと言えば兄貴らしいか……
いつも何でもキッチリ決めるもんな……」
ボタンに負けない鮮やかさの彩橙色の竜がハクを突っつく。
「あ……」
「私では……ダメ?」
「そうじゃなくて、人界の任が終わってからって考えてたからな……
それより、兄貴から何も聞いてなくて、寝耳に氷水ぶっかけられたみたいな気分で……
まぁ、それだけだ。
ミカンには何の不満も無いさ」
「よかった……」安堵が、ため息になる。
「許可か……署名だけか?」
「うん」紙を差し出す。
サラサラと署名する。
「大変だけど、頑張れよ」
さりげなく抱き寄せ、口づけた。
♯♯♯
「まだ、婚儀は先の話になる。
待っていて欲しい。
出来るだけ早く、正式な婚約者には、すると決めているのでな」
キンが優しく微笑み、ボタンの髪を撫でる。
ボタンはキンの肩に寄り添い、頷いた。
「ん?」
ハクとミカンが天界に向かっていた。
「私達も行こう。長老の山まで送る」
「ありがとうございます」にっこり
幸せそうに煌めき、ぴったり寄り添い、キンとボタンも天界に向かった。
♯♯♯♯♯♯
夜になってもキンとハクが戻らないので、フジは巡視に出ていた。
クロ兄様に伝えにも行っておきましょう。
ハザマの森の修練場に豪速で向かった。
「クロ兄様、少しよろしいですか?」
「どうした? フジ。
お前……何か……雰囲気 変わったな」
「そうですか?
リリスさんから伝言があるんです」
「なんでリリスさんから?」
「姫様から聞き出して頂きましたので」
「え? それをわざわざ?」
「まぁ……兄様達も仲良くなって頂きたいので」
「『も』? フジ……もしかして、お前達……」
フジの頬が染まる。
「わかりやすいヤツだなっ!」
「私の事はいいでしょう?
姫様が酷く落ち込んでいましたから、伝えに参ったのです」キッパリ
「お、おぅ」何か強くなったな……
「姫様が目を開けられなかったのは、魔物がした事が恥ずかしかったからで、何かを企んでいたとか、騙そうとか、そういう悪意は無かったそうです」
「解ってるよ。姫に悪意が無い事くらい。
怒ってなんかいねぇから安心しろ、って伝えてくれ」そっぽを向く。
可愛い照れ隠しですね♪
「それだけで来たんじゃねぇだろ。
翁亀様んトコ行くのか?」
「ええ、教えて頂きたい事がありますので」
「リリスさんを天界に連れて来る方法か?」
また頬が染まる。
「人を連れて来る事が出来れば、アオ兄様も可能かもしれませんし……」
「そうだな……かもしれねぇな。
オレも知りたい。行こう!」
翁亀の湖に曲空した。
しかし、桜の大木が見当たらない。
「深い所に居るのかなぁ」
クロは気を掴む要領で、翁亀の気を探したが、湖には居ないようだった。
「留守にする事も有るのか?」
「いえ、無いと思います」
二人は不安に包まれた。
黒「あーっ! またっ!
オレのは何でも書くクセに!
フジのは何で書かねぇんだよ!」
凜「だって、ほら……」
黒「ゲッ…… スッゲー睨んでやがる……」
凜「でしょ?
だから、クロが説得してくれたら
書けるんだけど――」
黒「いや……オレにはムリだ……
劫火で焼かれたくねぇ……」
アイツはマジで燃やすからなぁ……
凜「でもねっ♪
説得を頼んでるから、たぶん大丈夫♪」
黒「それって、まさか……キン兄に、か?」
凜「当ったり~♪
ここからは書きたいからね~♪」
黒「それって……脅してるんじゃ……」
凜「皆さん、お年頃だからね~♪
当然、有ると思うのよね~♪
だから、書きたいじゃない?」うふふっ♪
藤「有るのは当然ですがっ!
書くのは別ですっ!!」
凜「ヤバッ! クロ、曲空してっ!!」




