表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
106/429

西航行18-気付いた想い

 恋愛経験?

――少ないですよ。はい。


 ハクが巡視に、クロが天界に行ってしまい、アオとフジは並んで海を見ていた。


「もうすぐ大陸に着くらしいね……

着いたら、空龍さんとリリスさんは、誰かに送ってもらおうと思っているんだ。


フジ、それっきりになるかもしれない。

いいのかい?」


「いいも何も……そんな……」


「あれだけの大作を丁寧に書き上げてたから、相応の想いが有るのかと思っていたんだけど……

思い違いだったかな? ……すまない。


今日の事は、理解してもらえてるなら、あまり気にしないようにね。

じゃあ、俺はサクラの様子を見に行くから」


「アオ兄様……」


 私は……そんな……そんな事……


海面を見詰める――


 でも……だからと言って……


アオが去った反対側から足音が近付いた。


「フジさん……」


「……リリスさん……」


「やっぱり……

私より、ずっと傷ついて、落ち込んでますよね?」


「いえ、そんなことは……」


リリスが首を横に振る。

「私は、本当に嬉しかったんですから。

あんなに一生懸命、私を助けようとして頂けて。

攻撃だって、あんな状況なのに、私を気遣って下さってたでしょ?」


「それは、当然の事ですから」


「それを当然だと思って頂ける事が、嬉しいんですよ。

それに……さっきは言いませんでしたが……

フジさんの気持ちも、流れ込んで来たんです。

たぶん、心の中まで来て頂いた時から……」


「えっ!?」


「裏も表もなく、このまま脱出できなくなるかも、なんて躊躇いも何もなく……

ただ、助けたい、それだけで飛び込んで下さったんだ、って解って……

あと、ずっと『すみません』って」にこっ


「あ……」赤面。


「本当に誠実で優しいんだな~って、感動してしまいました。

感謝と感激と感動と……そういう気持ちしかありませんから、引きずらないで下さいね」


「すみません……気を遣わせてしまって……」


また、首を横に振る。

「私、踊り子だったから、酔客相手が日常で……

それなりに免疫あるんですよね。

本当に、気にしないで下さいね」にっこり


リリスは視線を海に向けた。


「私は、大丈夫なんですけど……

私が大丈夫なら、フジさんも立ち直れると思うんですけど……」


「私は大丈夫ですから。それより……

姫様とクロ兄様の方ですよね……」


「ええ、私と同じように……

あんな風に、好きな人の気持ちが流れ込んで来てしまったら……」


「おそらく、その点では、心配は要らないと思います。

クロ兄様は真っ直ぐですから。

助けたい、その一心だと思います」


「恋する女の子にとっては、その『助けたい』の原動力が問題なんですよ。

姫様に何が伝わって、何があったのか……

何も話して下さらなくて……

ただ、落ち込んでいて……


ですから、私、本当はクロさんを探していたんです」


「クロ兄様は修行に戻りました。

これから魔界に進むために、今は、新しい技を会得すべく修行中なんです。

遠く離れていて、あの状況を全く知らないクロ兄様が、あの場に来た事、それだけでも奇跡としか思えないんです」


「それは……姫様への想いが生んだ奇跡?」


「わかりませんが……

クロ兄様が、姫様の心の中に入って以降、その事を思い浮かべたとは思えません。

ただひたすらに、目の前の姫様を助けたい、それだけを思っていたでしょうから」


「私、もう一度、姫様の所に行ってきます!

フジさん、本当に、ありがとうございました」


リリスは軽やかに駆けて行った。


 クロ兄様を呼んだのは、

 サクラしか考えられません。


 やはり、サクラは、こちらが話しかけなくても

 察知できるのでしょう。

 気持ちなのか、状況なのかは、分かりませんが……


 それは、サクラなら有り得るので、

 いいんですけど……


 その事は……いいんですけど……


 護竜甲殿が、あのような事を言うから……

 リリスさんに伝わってますよね……


【お呼びでございますか? フジ様】


(あ、いえ……あ!

護竜甲殿は、心の中に入ると、気持ちが伝わってしまう事をご存知だったのですか?)


【はい】


(知っていて、あのような事を?)


【あのような事、とは如何なる事でしょう?】


(『好き合っているならば、心をひとつとする事など容易い筈』と……)


【違っておりましたか?】


(いえ……ただ それまで……

自覚しておりませんでしたから、少し戸惑っただけです……)


【私は、物ですから、よくは解りませんが、単純な事では無い、という事ですか?】


(そうですね……単純ではありません。でも……)


フジは空を見上げた。


 この気持ちの正体が解った事は、

 良かったのかもしれませんね……


(ありがとうございます。護竜甲殿)


【はい。また、いつでも、何なりと……】



♯♯♯♯♯♯



 姫の部屋では――


「姫様、フジさんから伺いました。

クロさんは遠くで修行中なのに、なぜか来て下さったって。

私、それが、クロさんの姫様への想いが生んだ奇跡だと思ったの♪」


「リリス……」


「あ♪ やっと、声が聞けた♪」にっこり


「……フジと話したのか?」


「私の事は、今は、いいでしょ。

何も問題無いんですから」


「いや、大有りじゃろ。フジと話したのは、それだけではなかろぅな?」


「問題有りませんからっ!

必要な事は話しましたし、聞きましたから、私はいいんです。

問題は姫様の方でしょ?」


姫は、長い ため息をついた。

「ワラワが話せば、リリスも話してくれるか?」


「……ええ。

姫様と私だけの秘密なら……」


「うむ。決して他言はせぬ」

姫は、伏せていた視線を真っ直ぐリリスに向けた。


「ワラワは、ただ……

クロに悪い事をしてしもぅて……


その……クロの気持ちが伝わってきて、それは嬉しかったのじゃが……


その前にした事を思うと、恐くなってしもぅて……

目を開ける機を逸してしもぅたんじゃ。


じゃから……

今、クロは怒っておるじゃろぅな、と……


それ故、如何に謝れば赦して貰えるかと、考えておっただけじゃ……

それだけなのじゃ……

じゃからワラワの心配は要らぬ。


リリスは、フジに、しかと自分の気持ちを伝えたのか?」


「何かしたのは魔物でしょ?

姫様は何もしていないでしょ?」


「魔物がした事とは言え、あまりな事をしてしもぅたのじゃ……」


「何を……?」


「リリス……

怒らんで聞ぃ――いや、こればかりは言えぬ」


「あ……フジさんに何かしたのね?

クロさんには見られたくない様な事を……」


「うっ……」


「魔物がした事なのに、私は怒りませんよ。

もちろんクロさんもよ。

そんな事で怒るわけないでしょ」クスクス♪


「そぅは言うが……」両掌で顔を覆った。

「その後、クロにも同じように……

じゃから、恥ずかしゅうて……」


「そういう事だったって聞けば、クロさんは怒ったりしないわよ~

姫様、任せといて♪

秘密とは言ったけど、それだけは……ね?」


「リリス……かたじけない」ぺこり

「それはそぅと、はぐらかそぅとしてはおらぬか?」


「それは……」


「ワラワは話したぞ」


リリスは、一瞬、目を伏せたが、

「私は……この気持ちを伝えるつもりは、最初から無かったんです。


姫様の気持ちが、クロさんに伝わっていないように、私の気持ちも、フジさんには伝わっていない筈。


それなら、言ってはいけないんです。

フジさんから流れてきた気持ちにも、気づかなかった振りをしなければならないんです」


「何故じゃ!?」


「私は酒場の踊り子……

生きてきた世界が、あまりにも違うんですよ。

……それに、どう見ても私の方が随分と年上じゃないですか……」


 いや、アヤツらは、おそらく百年単位で

 生きておるぞ。


「そんな事を、フジが気にする訳が無かろ?」


「だからダメなんです!

……優し過ぎるから……」


「リリス……」


「姫様は、ちゃんとクロさんに飛び込んで下さいね」

にこっ

「私は、ちゃんと別の幸せ、探しますから」


 まるで泣き顔ではないか。

 ワラワの背を押すクセに自分の事は……

 如何したものか……





桜「このままどんどんヒト増えるの?」


凜「その章でしか出ない人もいるからね~

  リリスさん、空龍さんも、そのつもり

  だったんだけど――」


藤「そうなのですかっ!?」


凜「あ……いや……どうしよう……かな、と……」


桜「フジ兄、なんで焦ってるの?」


藤「いえ、焦ってなど……

  お母様のご病気の事とかが、

  まだですので……その……」


凜「そうなのよね~

  でも、それ、脱線――」


藤「そんな事ありませんよっ!

  大事なこ――あ……」


凜「わかった」うんうん、ポンポン


藤「いえ、その……人として、大切な――」


凜「皆まで言わずとも解ってるからね」うん


桜「凜、なんか企んでる顔してるよ?」


凜「人聞き悪いなぁ、もうっ」


桜「じゃあ、なに解ったの?」


凜「ちゃんと婚儀まで書いていくよ」うんうん


藤「ええっ!? そそそそそんなことっ!!」


凜「失恋したらしたで――」


桜「凜!!!!!!」


藤「シ、ツ、レ…………」ふらっ


桜「ああっ! フジ兄! しっかりしてっ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ