西航行17-心の中で
前回まで:クロは姫と、フジはリリスと……
クロは護竜杖の光を追って、姫の心の中を泳いでいた。
心の中って、こんな暗いものなのか……
【今は、ご本人の心が閉じ込められておりますから、このように暗いのです】
(俺の心、読めるのか?)
【いえ、偶然 聞こえて参りました。
これが起こるという事は……
かなり相性が良い、という事です】
(そっか。なんか嬉しいな)
【私も、良き主様に巡り会う事が出来、嬉しく存じます】
(これからヨロシクなっ♪)
【はい。宜しくお願い致します】
(で、ここは、普通どんな感じなんだ?)
【その方のお気持ち次第でございます】
あ! もしかして……(心の色か!?)
【そうですね。纏う気に現れる事もございます】
【見えて参りました】
前方に石の箱のような方形のものが有った。
急いで近寄る。
(どうやって開けるんだ?)
継ぎ目など全く無く、ツルンとしている。
【この為に密着して頂いたのです】
護竜杖の光が、石の箱を包む。
【クロ様、私と同化してください。
覆い被さるだけです】
両手を拡げ、覆い被さると、クロの心は、護竜杖の光に溶け込んだ。
【それでは……
クロ様、この内に入り、姫様の心を起こし、脱してください。
私に出来るのは、クロ様をこの内に導く事まで……
お二人の心をひとつとし、共に脱したいと、強く願ってください】
光に包まれていく――
【それでは!】
クロが眩しさに目を閉じた時、背を押され暗転した。
ここ……箱の中なのか?
薄ぼんやり光る球が、ぽつんとあるだけの闇――
近寄って手に取ると、中に赤子が眠っていた。
姫? ……なのか?
「おい、姫? 起きろよ」ぽんぽん
「姫なんだろ? 目を覚ませよ!」
振ろうが、叩こうが、反応は無い。
「起きてくれよ! 姫っ!!」ぎゅっ
暫く抱きしめたまま、起きてくれ、返事をしてくれ、と繰り返す。
「なぁ……このままなんて……ないよな?」
掲げて覗き込む。
「一緒に、懸け橋になってくれるんだろ?」
もう一度、覗き込んだが変化は無い。
「なぁ、姫……返事してくれよ……」
「一緒に……生きてくれるんだろ……?」
再び抱きしめ、球に額を付けた。
涙が落ちた――
光の球が弾け、赤子が成長していく――
が……まだ、眠っているのか、目を開けない。
ぐらり……
倒れそうになった姫を抱き止める。
姫だと確認できて、少し落ち着いた。
「どうしたら目を覚ましてくれるんだ?」
各種おとぎ話が、脳裏を過る――
王子だよなぁ……オレ……
はぁぁぁぁぁ……
やらなきゃ、オレも 戻れねぇよな……
姫の顔を見る。
ま、嫌いじゃねぇからな……
姫の額を指でツンと突っつき、
「眠り姫様、目を覚ましてください」
抱きしめ、口づけた。
一緒に戻ろう!
浮遊感……そして、光が戻った。
姫を支えながら、ゆっくり離れ、護竜杖を掴む。
【お帰りなさいませ、クロ様】
(ありがとな、護竜杖)
「あっ!!」慌てて姫に頭巾を被せる。
姫が目を開けた。
「クロ……」頬を染める。
「戻ろう」にこっ
出口に向かう。
巻貝の口は塞がっていたが、すぐ横に穴があった。
穴から出て、竜体になる。
「乗れよ」
姫がクロの背に乗った時、フジとリリスも出て来た。
♯♯♯♯♯♯
船の右舷中程で、クロとフジは垣立にもたれ、海を見詰めていた。
「なぁ、フジ……お前もリリスさんと――」
フジが真っ赤になる。
「クロ兄様も、ですよねっ!」
顔を見合わせ、ため息……
「命を……助ける為ですから……」
「そうだよなっ! ああ、そうだっ!
しっかし、姫が起きなくて苦労したよ~」
「え!? そんな事ありませんでしたよ」
「眠り姫は、王子の――」
「おとぎ話ですか?」クスッ
「リリスさんは、一部始終 見聞きしていたと仰ってましたよ」
「え!?!?」
「ですから、ご理解くださっ――兄様!?」
クロは船首に向かって、走って行った。
「睦月! 姫はどこだっ!」声だけ聞こえた。
兄様……してやられましたね……
「フジ……」
フジが船首側を向いて苦笑していると、船尾側から呼びかけられた。
「あ、アオ兄様」にこっ
「フジは、リリスさんと――」声を潜める。
「え!? な、何をっ――」ハッとする。
「もしかして……貝の穴は……」
アオが申し訳なさげに頷く。
「いえっ! あれは、他に方法が無くて……」
「魔人の子供達は、治癒の光で元に戻せたんだけど……人は違うのかなぁ」
「治癒の光? ……そういえば……
護竜甲殿も、そのような事を――」
「そんなカンタンに戻せるのかぁ……」
一周して戻ったクロが、アオの後ろで へたり込んだ。
「簡単ではないけれど……
二人の苦労に比べれば……簡単か……」あはは……
「クロ、もう、腹括ったらどうだ?」
上から声が聞こえた。
「ハク兄……だからぁ、人命救助だってば~」
いつから、屋根の上に居たんだ?
「兄貴は、きっと……
クロに王太子が回らないように考えてる筈だ。
王太子は人を娶れねぇからな」
「そんな決まりが有るのですか!?」
「ああ、今のところは、だがな。
兄貴は、自分が即位する前に
子をつくる気でいるようだ」
「オレの為にか? ……でも、相手は?」
「長老会にでも決めて貰うつもりじゃねぇかなぁ」
「そんな……感情抜きかよ……」
「だよな……」
「キン兄こそ、恋した方がいいんじゃないかなぁ」
「おっ♪ 言ってくれるなっ♪
でも……俺も、そう思う。
だが、こればっかりは……なぁ」
「もっと外に出してあげるだけでも……
洞窟に籠ってて出会えるワケないんだから」
「だなっ♪
俺も やりたい事あっから、クロが、曲空 会得して 戻ったら、ちょっと離れるわ。
その分、兄貴を引っ張り出してやってくれ」
「あ、うん。わかった」
アオとフジも頷く。
「クロ、フジ、人を竜と同じくらい生きさせる方法が、無い訳じゃねぇんだ。
ただ……人界には戻れなくなる。
一応、頭に入れとけ。
んじゃ、巡視してくるわ」
片手を挙げて微笑み、白銀の竜は天に昇った。
「あ! オレ、ムラサキ様 放ったらかしだ!」
クロが竜体になったかと思ったら、消えた。
「さっき、ハク兄さんは『クロ、フジ』って言ったよね……」
「……はい……確かに……」とっても困り顔。
「一緒には、行っていないんだけど……」
「え!? ……なぜ、知って……」
二人、天を仰ぐ。
凜「あれ? サクラは?」
青「眠ってしまったよ」
凜「また、力使い過ぎたのね~」
青「そうだと思うよ。俺も眠いから」
凜「でも、フジを放っとけないよね~」
青「そうだね。あと一歩だと思うからね」
凜「あれ? クロ……」
青「どうしたんだろうね」
凜「フジと話してるね」
青「そっとしておいてね」
凜「は~い」
♯♯♯
黒「で、フジは、どうやって出たんだ?」真剣
藤「えっ……どう、って……別に……」
黒「教えてくれよ~、なぁ」
藤「光の球を拾い上げたら、リリスさんが
出てくださって……
それで、一緒に出ただけですよ」
黒「で、どう『一緒に』出たんだ?」真顔
藤「……それは……言えませんっ!!」真っ赤




