西航行16-進む
いろいろと少しずつ進みます。
♯♯ 天界 長老の山 ♯♯
キンは、大婆様の部屋に向かいながら、シロから話を聞いていた。
「シロ爺様、それでは、護竜宝とは単なる武具ではない、という事なのですね?」
「詳しい事は、これから調べるが……
亀ジジィが言うには、神竜と竜を結ぶ物なんじゃそぅな」
「過去、その、結ぶ為に不可欠な竜宝を復元や再現が出来た記録は有るのですか?」
「まだ、ざっと調べただけじゃが、一度使えば、完全に消滅するから、復元は出来ぬようじゃ。
古文書からの再現も出来ておらず、消耗するのみで、とうとう尽きてしもぅて、その術は廃れてしもぅたようじゃ」
「術は判っているのですか?」
「虹紲の術と言うらしい。
おそらく、大婆様は、その術をご存知じゃと思ぅとる。
最後の記録が、リリス女王の先代の頃じゃからの」
大婆様の部屋に着いた。
大婆様の前には、竜血環が入った瓶が三つ有った。
「大変な事をお願い致しまして、申し訳ございません」
シロが深く礼をした。
「いえいえ、私に出来る事は何なりとのぅ。
役に立てる事は嬉しい事じゃ」穏やかに笑う。
「この、新しい環を作っておる者……
もちろん、魔人じゃが、この者、前二つの時は心が有ったが、最新の環には心が無いのじゃ……」
「これら全て、同じ魔人が作っている事は確定なのですね?」
「確かじゃ。
最も古い環は、一年前、ハザマの森で巡視兵が見つけた物。
これは、忠実に再現された物じゃ。
次は、ハクが亀殿に預けた物。
力を吸い取る効力が強化されておる。
ここまでは、作った魔人の心が読み取れる。
この学者殿は、ご家族の命を護る為に、これらを作っておったのじゃ。
出来得る限り開発が進まぬよう、時を稼ぎ……
苦しみながらのぅ……
しかし……最新の物は……
作っておる手は、同じ学者殿じゃが、心が違うのじゃ。
心が……支配されてしもぅたのではのぅて、別人が、学者殿の身体を、その知識を、使ぅておる……
この環を、最初に嵌められてしもぅたのは、この学者殿のようじゃ……」
ひとすじ涙が流れた。
「この竜血環は、触れた者に魔獣の種を植え付け、心を縛る。
そして、環が身体から離れた時に、発芽が始まる。
種が育つと、その身体を支配し、傀儡よりも遥かに有益な下僕と成すのじゃ。
現段階では、本人の心を死滅させるまでには至っておらぬようじゃ。
今のうちに、この学者殿を救う事が叶えば、更なる開発は止められる筈じゃ。
この学者殿の名は、リジュン。
……ウェイミンの……友人じゃ……」
「リジュン殿は何処に……?
私は魔界の事を知らなすぎる……」唇を噛む。
「本格的に偵察隊を送り込むよう、王達には進言する。
キン、まだまだ、其方らの力は、魔界に入るには不十分じゃ。
まぁ、言わずとも、自覚しておるから、護竜宝を使おうとしておるのじゃろうがな」
「もう、ご存知でしたか!?」
「シロ、あれだけ大騒ぎして探しておったら、奥に居っても分かりますよ」
ほっほっほ
「しかし、虹紲の術を発動するには、結心の矢が必要不可欠じゃ。
如何致すのじゃ?」
「アカが再現しようとしています」
「そうか……
術は存じておる。
揃ぅたなら、ここに来るがよい」にっこり
「ありがとうございます! 大婆様!」
♯♯ 人界 ♯♯
ハクとサクラは、船の上空に到着した。
「こんなに……たくさん……」
アオを乗せた爽蛇が近寄って来た。
「全て魔人の子供です。
確かに、治癒の光で元に戻せます」
サクラが人姿になって、ハクの背に乗る。
「ハク兄、力 貸してねっ」
二人の気を合わせ、サクラの手に光を生み、四眼に、その光を込め、振り放つ!
光の弧が大きく拡がり、一気に浄化していく。
アオの三眼も呼応し、輝きが増す。
「アオ! こっちに乗れ!」ハクが呼ぶ。
アオはハクの背に移り、サクラと背を合わせた。
三人の気を合わせ、高め、アオとサクラは、同時に水平に宙を斬った!
光の波紋が拡がる。
それを見た紫苑が降下し、珊瑚と共に一気に念網を拡げる。
コギが現れ、加わり、更に拡げた。
念網で受けた魔人の子供達に、慎玄が浄化の術を追って掛けた。
「もぉ来ないかな?」サクラが見回す。
「終わったみたいだね」アオも見回す。
三人が安堵の息をついた時、コギが宙に現れた。
「子供達をお救い頂き、ありがとうございます。
必ず親元に帰しますので」
恭しく一礼し、消えた。
眼下では、コギの配下達が、現れては、魔人の子供を抱き上げ、消えるのを繰り返していた。
「ハク兄さん、少し休んでください」
「アオ兄、行こっ♪」サクラが竜体になる。
「サクラも大丈夫なのかい?」
「俺、だいじょぶ~♪ 乗って♪」
サクラとアオが海に入る。
紫苑と珊瑚も付いて来た。
「皆様、海底ですね」
紫苑の言葉に、皆 頷き、揃って潜り始めた。
♯♯♯
「今度は巻貝ですね……」
「入り口は塞がっているね」
「じゃあ、穴あける~♪」
尾に気を込めて斜めに振り下ろした。
バキッ! 側面に穴が開いた。
「行きましょう。
リリスさんを乗せないといけないから、サクラは、そこで休んでいて」
「うん。ありがと、アオ兄♪」
アオと、人姿になった紫苑、珊瑚は、巻き貝の穴をくぐった。
三人、慎重に進んで行く。
そして、固まる――
「戻りますか?」紫苑が囁く。
「いや……でも、フジとリリスさんが――」
「この奥のようですね」
少し後退し、平静を装ってはいるが、頬が染まっている珊瑚が、壁に掌を当て、斜め上を指す。
紫苑と珊瑚が壁に掌を当て、術を唱える。氷結した壁を押して穴を開けた。
壁の穴をくぐり、目の前の壁に掌を当て、更に内へと穿つ。
三人は、そうして最奥へと穴をくぐり、進んで行ったが――
すぐに戻って来た。
♯♯♯
「あれ? クロ兄達は?」
「無事だよ。サクラ、戻ろう」
「え? おいてくの?」
「大丈夫。自分達で戻って来るから」
「サクラ殿、参りましょう」
「うん……」?????
藤「祈ったのに……
あれから、ずっと祈っていたのに……」
黒「フジ、しっかりしろ! お~い!」
藤「もう、船には行けません……もう……」
黒「アオと紫苑・珊瑚なら、話しゃしねぇよ。
大丈夫だっ、な、元気だせよぉ」
藤「クロ兄様は、いいですよ。
相思相愛なんですから……
私は……どうすれば……
もう……リリスさんに会えませんよ」
黒「ん? って、フジ……
リリスさんに会いたいのか?
もしかして、好きなのか?」
藤「そ、そ、そそそ、そんなこと言ってません!」
黒「え? だって――」
藤「普通に! 合わせる顔がないと!
言っているだけですっ!!」
黒「ふぅん……」じと~
藤「どうして、そんな目を!? 私は――」
黒「うんうん。よ~く分かったからなっ♪」
藤「クロ兄様ぁ~」ボッ!
黒「ゲッ! やめろっ! フジ!?
悪かった! やめてくれーーーーっ!!」
藤「赦さない……絶対……赦しません!」メラッ!
黒「怖ぇよおぉぉっ!」曲空!




