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三界奇譚  作者: みや凜
第一章 竜ヶ島編
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旅立ち9-蛟

 三界の蛟は、手足の有る水蛇の天人です。

天竜王族のお世話をしています。


 アオは慎玄(シンゲン)に、大滝に来た経緯(いきさつ)を話し終えた。

ただし、山賊と竜の事には触れなかったが――


「そういう訳で、慎玄様にも一緒に旅をしていただきたいんです。

 どうか宜しくお願い致します」深く礼。


「そうですか……それで、わざわざ このような深き山奥まで……ふむ……。

 私でも、皆様のお役に立つ事が叶うのでしたら、喜んでお供致します」合掌。


「ありがとうございます!」もう一度、礼!


「ところで、こちらには、ご自分の足でいらしたのですか?」


「えっ!? それは……」「竜に乗ったのじゃ♪」

「姫様っ!!」「正直に申したまでじゃ♪」


「いえいえ、責めておるのでは御座いません。

 お会いになっておればよろしいのです」


「――と、(おっしゃ)るのは?」


「私もお世話になっておりますので」にこり。


「竜に?」


「はい。食料など、よく運んでくださいます。

 魔物からもお護りくださっております故、戦われるのならば、お会いしておいた方がよろしいかと思った迄で御座います」


「姿を見せるんですね……」


「はい。敬愛の心で接すれば、御姿を見せてくださいます。

 巷では、そうは参りませんので、山賊などと呼ばれるが(まま)に隠れ住まわれていらっしゃるのでしょう」



 こうして、僧侶・慎玄も仲間となった。


「向こうに、こちらで修行する僧達が使っております(いおり)が御座います。

 今は私のみ。

 今宵は、そちらでお休みください」


慎玄の言葉に甘え、今夜は、その庵で休むこととした。



 庵に向かって歩き始めると、背後から、

「そんなぁ……アオ様ぁ、それは、あんまりでございますよぉ……」


振り返ると、もう一人の男が立ち尽くしている。


「私でございますよぉ。

 アオ様の(みずち)でございますよぉ……」うるうる。


 蛟……困ったな。思い出せない――


「あ! そうだ! これをお見せしたら――」

持っている袋をごそごそし始める。


 あの装束は、おそらく竜の国のもの。

 俺が竜だとしたら、その俺を知っている者。

 俺は知っていて(しか)るべきなんだろうな。


 だが――


「……すまない……記憶が無いんだ……」


蛟の動きが止まる。


「本当に!? それでは……」何やら思案し――


「心配過ぎです! お供いたしますっ!

 嫌だと言われようが離れませんよ!!」

ズンズン迫って来た。


 心配は有難いが……

 変なのが、また増えたな……。



♯♯♯



 慎玄の庵に落ち着いた。


「これからなんですが、まず、何処に向かいましょう?」

確認も込めて尋ねた。


「アオ殿が思う所について参ります」

陰陽師達が微笑む。


「私も、それがよろしいかと存じます」

慎玄も微笑みに加わる。


「では、城下の町衆から聞いた、魔物が現れる砂漠に向かいたいんですけど、何か準備しておかねばならない物って、ご存知ですか?」


「西の国の事は、あまり知らないのです……」

「私も……」陰陽姫が申し訳なさそうに頷く。


「姫様は? 隣国なんだから、何か――」

「知らぬ。

 ワラワは西の国には行った事が無いのじゃ」


「山に(はば)まれているでもない、すぐ隣の国なのに?」


「東の山を越えるのが楽しぃのじゃ♪」


 それで、魔物に追われていたら世話は無い。


「砂漠ならば、問題は水の確保でしょうね」

慎玄が話を戻した。


「砂漠の旅でございますか……準備も水も、私にお任せくださいませ♪」

持って来た荷物を確かめ、片付けていた蛟が、手を止め、嬉しそうに胸を張る。


「なら、蛟殿、お願いしますね」


「あっ、アオ様! 私なんぞに『殿』などとっ!

 私はアオ様の従者でございますのでっ!」


「従者とな? アオとは何者なのじゃ?」


「あ……いえ、それは……あ!

 ご記憶が自然と戻られるまで、お話しできません!」


「さよぅか。ならば、仕方ないのぅ。

 アオ、早ぅ思い出してくれよのぅ」


「そう言われてもね……」苦笑。



 慎玄が、竜ヶ峰から西の国に向かう地図を描き始め、蛟は片付けを再開した。



「これは何じゃ? どぅ使うのじゃ?♪」

地図を待っている間に退屈したらしい姫が、蛟の背後で、蛟が片付けた荷物を広げ、はしゃいでいる。


「あ、危のうございますから――」

片付けていた手を止め、振り返り「おや?」


如何(いかが)したのじゃ?」


「姫様、ほつれておりますから、大人しくしてくださいませね」

姫の肩辺りを器用に縫っている。


「上手いのぅ♪

 ミズチ、家来にしてしんぜよぅぞ♪」


 あ……蛟は、婿ではないんだね。



♯♯♯♯♯♯



 夜更けに、蛟は、皆の着物と裁縫道具を持って外に出た。

天高には月が煌々と輝いている。


 さてと……出て参りました目的は、もうひとつ。


「クロ様、いらっしゃいますよね?」


ガササッと茂みが揺れ、人影が現れた。


「お前、アイツらの面倒、見てくれるのか?」


「はいっ♪

 アオ様のお世話は、誰にも譲れませんのでっ♪」


「ん~~、ま、いっか。宜しく頼む」


ぱぁぁぁぁ~♪ な蛟。


――が、ハッとして、

「あっ、これをお願いしたいのですが……」

革袋を差し出す。


クロは中をチラと見て、

「今のアオじゃ使えない、か……」

肩に担いだ。


「代わりに、コレ持ってけ」

糸の先に小さな鏡が付いた糸巻きと、桃の形の鈴を渡した。


「水鏡と魔除けの鈴だ。

 あの姫だけは人だからな。

 この鈴、着けさせとけってさ。

 水鏡には、アオが光と水を込めてるらしい」


「アオ様の……」うるうる――



♯♯♯♯♯♯



 翌朝、出立の準備をしていると――


蛟が、皆から預かっていた着物と、面を抱えて来た。


「砂漠に向かいますので、細工しておきました♪」

各々に返していく。


「アオ様は、特に乾燥には弱いですから、こちらを――」

「あ~、良いのぉ~」


「そう仰ると思いましたので、姫様にも新しく作りました♪」

「うむ♪」



 着替えて、再度、集まる。


「また、竜で、ひとっ飛びなのか?」


 いいえ、歩きます。


「砂漠とやら、如何(いか)な所よのぉ♪」


 ただただ砂ばかりですが……。


「楽しみじゃのぅ♪」わくわく♪



「蛟」手招き。


「アオ様、何でございましょう?♪」


蛟の耳元で「任せた」姫を指す。


アオは、待っている慎玄と陰陽師達の方へと駆けて行った。



 やっと出発だ!





凜「キン様、お邪魔しま~す。早速ですが――

  どうして、あの時は、

  洞窟に皆さんお揃いだったんですか?」


金「アオが来た時か?」


凜「はい。珍しいんですよね?」


金「軍の幹部が視察に来ていたのだ。

  目的は、アオの所在を確かめる為であろう」


凜「これまでは、どうしていたんですか?」


金「アオは、極秘に動いている為、

  滅多に洞窟には戻らない。

  そういう事で徹していたのだ」


凜「今回、それは?」


金「通常は予告無しに訪れるが、

  今回は予告が有り、全員揃っておくように、

  との通達が有ったのだ」


凜「大丈夫なんですか?」


金「アオは戻れなかった、と伝えたが……

  どうであろうな。

  サクラが別件で呼ばれた事からも、

  かなり疑われているのは確かであるな」


凜「それは、どういう……?」


金「また、いずれ話す」


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