表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三界奇譚  作者: みや凜
プロローグ
1/429

人界の任-出立の儀

 はじめましての方も、GREEからの2周目の方も、

お越しくださり、ありがとうございます。m(_ _)m


♯♯ 天界 天竜王国 ♯♯


 天竜(テンリュウ)王城の大広間で、七人の王子達の人界(ジンカイ)への『出立(しゅったつ)()』が厳かに執り行われている。


 玉座には二人の王、その左右に王妃の座。

更に、その左右に一段下がって二人の前王、そして前王妃が並ぶ。


 荘厳な楽曲が静かに流れる中、王子達は、王達に向かい横一例に並んでいる。

手には王位継承者の証である笏杖(しゃくじょう)を持ち、玉座に向かって静かに進む。


 玉座の数歩手前で止まり、揃って一礼すると、第一王子キンが一歩前に出、落ち着いた声で口上を述べ、父ギン王に笏杖を預けた。


 キンが後退するのと同時に、弟達が前進して並び、再び一礼すると、キンを残して前に進み、それぞれ前にいる者に笏杖を預けた。

第三王子アオだけは、亡き王妃スミレの座に笏杖を立て掛けた。


 王子達は、玉座の方を向いたまま後退した。


 二人の王からの(ことば)が始まる。


 兄コハク王は、弟ギン王をチラと見た。

詞を引き継ぐためではあったが、儀式直前の会話を思い出す。



――――――



 出立の儀の直前、控えの()で、

「本当に護衛は付けないのか?」

コハク王は、王子達の父・ギン王に問うた。


「七人も居るのだ。必要無かろう。

 今後の為にも、協力し合う事を身を以て覚えなければなるまい」

ギン王はフッと笑った。


「だが、末のサクラは、まだ幼い。

 準備も不十分なのであろう?

 サクラだけでも護衛すべきではないのか?」


子がいないコハク王にとって甥達は、我が子のように可愛く、心配で仕方ない。


 それは解っているし、心配なのは負けないが――


ギン王は目を伏せ、少し考えていたが、

「サクラが試練の山から戻り、兄達と一緒に行くと言った時、キンは何があっても護る、そう言った。

 その言葉を信じる証としても護衛を付けることはできない」

まるで己に言い聞かせているかのように言った。



――――――



 天界を支配すべく攻撃を仕掛けてくる魔物と戦う天竜にとって、人界は最前線である。

王子達は、その最前線を保持するために、これから『人界の任』に赴くのだ。


 魔物の侵攻が激化している昨今である。

おそらく、かつて、王達が初めて降下した時より、遥かに多くの魔物が襲いかかって来るであろう。


 魔物にとっては、王子達のうち一人でも捕らえるなり倒すなりできれば、大きな功となる。

鱗の一枚ですら箔が付くというものだ。


 天界から降下し、人界の地上に着くまで……

 それが最初にして最大の難関となるであろうな。


 天界から人界までの道程は、竜体で飛ばなければならない。

だがしかし、人界では竜の姿では消耗が激しい。

人界に慣れなければ、ただ飛ぶことすらも(まま)ならないであろう。


ギン王は、かつて自分達が初降下した時のことを思い出し、


 皆、無事に……。


と、心の内で祈った。



♯♯♯



 儀式は滞りなく進み、王子達は、天界の門に向かうため、大広間から続く飛翔台へと出た。

王達は王子達の笏杖を持ち、見送るために飛翔台に向かう。


 コハク王は、己が妃スミレの座に立て掛けてある、アオの笏杖を手に取る時、

「甥達を見守ってくれよ」

と、亡き妃に語りかけた。



 飛翔台に皆が整列すると、王子達は次々と竜体になって飛び、(そら)で再び並ぶと、キンが一声吼えた。

それを合図に、王子達は列を乱すことなく旋回して向きを変え、天界の門へと飛んで行った。


 王子達の姿が見えなくなり、二人の王の宣言で、出立の儀は終了した。



♯♯♯



 人界への出立の儀を終え、城を飛び立った天竜の七王子は、天界の門が見えた時、思わず引き返しそうになった。

門番しかいないはずの天界の門には、王子付きの(みずち)達が、わんさか見送りに来ていたのだ。


 蛟達は、王子達が卵の頃からずっと、お世話をし、基礎教育をし、武術の相手をしてきた。

代々の王族達は、蛟を伴って行ったので、自分達も当然、同行できるものと思っていたのだが、王子達が、兄弟七人もいるから十分と固辞したため、置いてきぼりを喰らったのだ。

そこで、せめて見送りだけでも、と勝手に集まったのである。


 かなり恥ずかしいんだけど……。


 そんな王子達の思いは完全に無視して、あれこれ世話を焼きまくる蛟達。

肩に埃が積もってたのか? ってくらい、埃を取ってもらい、荷物が数倍に膨れ上がったところで、王子達は門の外に逃げ出した。


 蛟達は許可を得ていないので留まるしかない。


 荷物は必ず取りに来る、と門番に預け、うらめしそうな眼差しから逃げるように、王子達は飛び立った。



 長兄キンを先頭に、皆が飛び立ったのを確認して、次兄ハクも飛んだ。

門が見えなくなった辺りで、末弟サクラは、体の自由が利かないことに気付いた。


 その様子を見て、兄達がサクラを囲む。


「落ちないようにだけ集中するんだよ」

三男アオが優しく声を掛ける。


「サクラん坊、尻尾と手足で、こうするんだ」

四男クロが手本を見せる。


五男アカは無言で気を送り、サクラを支えている。


「サクラは器用ですから、すぐ慣れます。ねっ」

すぐ上の兄フジが微笑む。



 フジは、一度しか人界上空に行っていないが、飛ぶことに関しては兄弟の中で最も速く、巧みなので、十分コツを掴んでいた。

他の兄達は、何度か人界上空までは行っている。


 初めてなのはサクラだけ。

サクラは、この状況が悔しくて堪らないようだが、人界に行くための試験『試練の山』に合格して、まだ半月も経っていないので致し方ない。



 サクラが、どうにか体勢を保てるようになり、兄達がホッとした時――


「兄様っ! あれはっ!」


「やはり来たか……多いな……構えろ!」


 逸早く魔物の群を見つけたフジに、キンが応え、指示を出す。


 何度か人界上空に行ったとはいえ、まだまだ自由自在とはいかない若い天竜達に、容赦なく闇黒(あんこく)色の大群が襲いかかる!


 次の天竜王と成るであろうキンとハクへの攻撃は特に激しい。

ひと回り小さく、飛ぶことも儘ならないサクラもまた、目敏(めざと)い魔物達の標的となっていた。



 アオは、キンとハクが、自分より遥かに強い事は分かっていたが、この状況では、加勢することも頼ることもできないと判断した。


「クロ、アカ、なんとしてもフジとサクラを護るぞ!」


クロとアカが頷き、三人で弟二人を囲み、背に(かば)うと、

「私も戦えます!」

フジがサクラの下に抜ける。



 その態勢で暫く耐えていたが、魔物は後から後から湧いて来て、(きび)しさは増すばかりだった。


 ――このままでは全滅する。


そう思ったアオは、

「俺が囮になる。サクラを頼む!」

飛ぶのを()め、落ちていった。


「待て! アオ!!」

クロの叫びはアオに届いてはいたが、アオは兄弟の無事を祈りながら落ちていった。


 負傷した竜が落ちたと思った魔物達が、一斉に大群でアオを追う。



 唐突に己が周りの魔物が減り、残りを殲滅(せんめつ)したキンとハクが状況を理解した時には、アオの姿は見えなくなっていた。


 キンとハクが弟達を助けに向かおうとした時――


「うわぁぁぁぁぁーーーっ!!」


 サクラの叫びは、竜の咆哮へと変わり、爆発的な閃光と波動が(ほとばし)った。



 強烈な光が去った空には、魔物の姿は無く、兄弟しかいなかった。

カクンと力が抜け、落ち始めたサクラを、下にいたフジが背に(すく)った。


 兄弟はアオを探しながら降下したが、見つからぬまま人界の地に着いた。

すぐにも手分けして探したかったが、動く事も儘ならない為、ひとまず、人界の任で代々使われている山深い洞窟に身を隠した。



♯♯♯♯♯♯



 一方アオは、魔物の大群を引き連れ、攻撃を避けるうち、人界の夜の域に入ってしまっていた。

瑠璃色に輝く美竜は、夜空では目立って仕方ない。


 昼間なら、

 雲間に身を隠すことができるんだけど……

 なんとか逃れるには――


眼下には高い山の連なりと、その裾野に広がる森が見えた。


 あの森で人姿になり、

 一時的に力を封印して気を消せば、

 魔物達も追跡できないだろう。


勢いよく森に突っ込み、地面に激突する寸前、アオは人姿となり、急いで封印の術を唱え始めた。


その時、一体の闇黒色の竜の如き魔物が現れ、襲いかかってきた!


アオは、瑠璃色に煌めく波動で反撃した!


その波動を受けた魔物が消滅する刹那、アオに向かって剣の如き何かを(はな)った!


 放たれたもののうち、ひとつは宙で消え、ひとつはアオが剣で弾き消し、

もうひとつを(かわ)そうとしたが、躱しきれず、鳩尾(みぞおち)に小さな傷がついた。


その傷から瘴気(しょうき)が溢れ出る。


 もしや、(ジュ)が込められていたのか!?


封印の術が発動した。


 術は途中だった筈……なのに、何故――


アオは気を失い、倒れた。






 頑張って堅そうに書きましたが、本編は、やわやわです。



 天竜王国には、二人の王様がいます。

プロローグで登場した二人の天竜王が、コハクとギンです。


コハクの妃がスミレ、ギンの妃がミドリ。

天竜の皆さんの名は、鱗色に因んでいます。


前王が、シロとムラサキ。

シロの妃がモモです。

この方々が、王子達の笏杖を預かりました。



     キキョウ(大婆様)

        :

     ┌──┴──┐

─┬───┤     │

故ベニ シロ=モモ ムラサキ

 │    ├──┐

故スミレ=コハク ギン=ミドリ

┌──────────┴───────┐

キン・ハク・アオ・クロ・アカ・フジ・サクラ



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ