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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【泡沫汀の集合体、火花】
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 私は考えるまでもなく言った。


「俺海来たのって修学旅行以来なんだよね。修学旅行で行ったのが初めてだったんだ。ほら、俺らの地元って田舎じゃん?」


「俺もそんなに行ったことはないな」


 首藤からレスポンスが来たことに安心した。安心したがために、私は首藤の横に並んで続ける。


「そういえば、修学旅行のときも首藤と一緒だったんじゃん。覚えてる? 脚だけだけど浅瀬で走り回ったの」


 首藤の返事は、返ってこなかった。少し歩いて、波打ち際に来ていたことがわかった。海の黒さを目の前にして首藤は砂浜に腰を下ろした。私はその隣に座れずにいた。


「海って夜見ると黒いんだね。やっぱ、光って偉大だね。光を通さないと俺たちも色がない訳なんだから」


「ああ。光は偉大だ。でも俺は嫌いでもある」


 首藤はそんなことを言った。すかさず、私は「どうして?」と聞くのだ。返って来たのは、


「醜さが晒されてしまう」


 そう言った。


「隠してきたことを無理やり晒されるんだ。社会は小さいところから多きところまで集団で生きている。家族も学校も会社もコミュニティも、全部他人から構成される。人に知られたくないことを隠し切れないんだ」


「いじめ……とか?」


「ああ、それもそうだけど、俺が言いたいのはいじめよりももっと日常的なことなんだよ。人が生きていく上で通らなければならない関係性とか、価値観だとか、そういう意味ではいじめもあながち間違いじゃないが」


「関係性ってことは、友人関係とかもしかして恋愛とかも?」


「まあそうだな」


 単刀直入に首藤は言わなかった。遠回しに言ってだんだんと私を誘導させる。それは首藤が単に自己表現が得意ではないシャイだからという訳ではなさそうだった。なんとなく昼間の映像が浮かんで、三好の顔が頭に浮かんだ。


「三好って人さ、あ、昨日の夜会った人ね。千紘に似てない?」


 私は満を持して首藤に伝えた。ほぼ正解に近い問いを確実にするべく、私が間違っていないか確認の意味でそう問うた。


「さすがに首藤、千紘のこと忘れたわけじゃないでしょ? そういえば、修学旅行のときも同じ班だったじゃん。海に入ったときも確かいたし」


「ああ、覚えてるよ。寧ろ、そこからよく話すようになったと言ってもいいくらいだ」


「え、どういうこと? もしかして首藤、千紘のこと好きだったとか?」


 私は話の流れでそんなことを言った。笑い話になる、いじりのつもりでさらっと言ったのだ。だが、私が声を発した後、首藤は何もしゃべらなかった。途端に申し訳ない気持ちが込み上げてきて、「あごめん。当たってた? でもいいじゃん。お似合いだと思うけどなあ。もしかして高校のとき付き合ってた? 全然知らなかっ……」


「付き合ってねーよ」


 私が次から次へと並べたフォローの言葉は、あっさりと首藤によって遮られた。この後も続くはずだった言葉は、首藤によってなかったことにされる。


「俺は好きだったんだけどな」


 首藤が恋をしていたことが発覚した。その言葉を聞いた直後、また私の中での今までの首藤の印象が崩れ落ちてしまう。


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