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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【泡沫汀の集合体、火花】
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1

 結果から言うと、私たちのグループは四位だった。一位から三位までは景品とやらが他と比べ豪華だったようだ。四位以下は皆同じ景品を受け取る。中身は、幼少期を思い出させるような十円の駄菓子をはじめ、スナック菓子、シャープペンシルなどの文房具だった。


 一位から三位までは表彰された。我々の並んでいる前に出てきて、八巻さんから形式的な温かい言葉をもらっていた。賞状はない。しかし、彼らは笑顔だった。その姿を見ていた私たち四人は、拍手をして、ただ黙って見つめていたのだった。


 四位以下の景品、言わば参加賞をもらいに行った。謙輔と楓は仲良く手を繋いで二人で貰いに行った。帰ってきた二人を出迎え、「何が入ってた?」と三好が聞くと、「お菓子」「シャーペン」と二人は呟いた。謙輔の口には、タレの付いたような薄い長方形の駄菓子が咥えられていた。


 思ったよりも今年の参加者は頑張っていたようだった。百八十五点の我々を越えたグループが三つもあったのだ。そう考えた方が納得がいく。細かい点数を積み重ねたのか、我々が来る前に百点と八十点の看板をすでに見つけていたのか。人を見かけなかった分、不思議である。


 駄菓子を頬張る二人に「楽しかった?」と聞いてみた。すかさず、口をもごもごさせながら「楽しかった」という返答が返ってきた。それで十分だった。


「奏太くんはこれでもう帰るんだっけ?」


「うん。明日の午前中には。もう少し自然に浸っていたいけど」


 そう私が言うと、謙輔が、「午前中はいるの? どっか連れてってあげようか!」なんて彼氏らしい男前な言葉をくれる。「明日から学校でしょ?」と楓に肩をつつかれ、あえなく断念した。


「ちぇえ、山行ったから今度は海に連れてってあげようと思ったのに」


「じゃあ、一人でも行って来るかな。すぐそこだよね?」


 そんな軽い私の言葉に、謙輔と楓は丁寧に説明してくれた。本当は穴場、彼らのおすすめする場所があったようだが、口で説明するのは難しかったようだ。


「また今度一緒に行こうよ」


 その言葉を言い残して、彼らは走って友人らの元へと駆けていった。


「あんな優しい言葉かけてもらったの久しぶりかも」


「謙輔くんも楓ちゃんも優しい子だからね。明日は、じゃあ海に行くんですか?」


「まあそんな感じになりそうですね」


 首藤のことを思い出した。何か話したいと言っていたのだ。そのついでになることだろう。


 前を見ると、美菜たちがこちらに向かって歩いてきていた。


「お友達いらっしゃいましたよ?」


 三好は下ろしていたリュックサックを肩にかけた。「じゃあ私はこれで」そう言って歩き出そうとしていた。


 不穏な感覚を第六感が手にしていた。そのとき私は、もう彼女に一生会えないような気がした。冷たい風が私の体の中だけを舐めていくような、そんなおぞましさを感じたのだ。だた、一生会えない気がするだけであったらたいしたことはなかったのだろうが、そのおぞましさが妙に気がかりだったのだ。また旅行にでもこの島に来れば、彼女はここにいるのだから会おうとすれば会えるだろうに、そのときは不穏な感覚に後押しされて本当に会えない気がしてしまった。


 以前もこんなことがあった気がする。きっとそれは私と同じようで同じでない人間の記憶だろう。


「千紘!」


 私は思わず叫んでいた。叫んだあとで、郷愁にかられた。彼女の振り返る姿、上目遣い、表情。私はじっくりとそれに浸った。浸って、


「また会えるよな」と口走った。


 彼女は微笑んで、「ええ、また」と言う。そう言い残すと、踵を返してそのまま歩いて行ってしまった。


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