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八十点の近くにあったのは、百点だった。偶然といえば偶然。必然と言われれば必然。だが、その百点を見つけたときの謙輔と楓は、八十点を見つけたときと喜び方が違った。また、最初に彼らを見たときの印象を蘇らせるように、大人びて見えたのだ。謙輔はゆっくりと近寄って行き、その隣を寄り添うように歩く楓。輪郭のぼやけた数字を間近で見ることによって、その点数の大きさを知る。二人は驚くでもなく、はしゃぐでもなく、また抱き合うでもなく、いつも通りの口調で「百点だ」と頬に皺を寄せるのだった。
「なんかあの二人が大人びて見える。大人の俺らが子どもみたいだ」
「うん。なんか本来の人間の形を見たような気がする。都会で若者の街で買い物するのとはまた違った良さがある」
「あ、三好って都会に行ったことあるんだ」
「あ、うん。昔ちょっとね。こんな島にいるもんだからやっぱり憧れるのよ。それで都会に出てみると、人が多くて、ビルが高くて、おしゃれな店がいっぱいあって、みんなそんな店にいつも来てるかのように平然と入っていく。楽しいところだなって思った。毎日こんなところに居られたら楽しいんだろうなって」
「俺は慣れちゃったせいか、こういう島の方が楽しそうに見えるけどな」
「それはずっと都会にいるからよ。いざこの島に住んでみたら絶対都会が恋しくなるはずだって」
そういうもんかな、と私は呟き、看板の前でしゃがみこんでいる二人を眺めていた。後姿を見ているのだが、たまにちらっと横顔が見えるのだ。二人が顔を見合わせて話しているとき。その顔に美徳を見出そうとしている私がいたのだ。
「でもやっぱり、美しいもんは美しいよ。場所が都会でもこんな島でも、純粋な恋愛の姿はやっぱり見るに堪えられる」
「こんな島でもは余計じゃない?」
「うんごめん。こんな美しい島の間違いだった」
そう言ってみるが、やっぱりこの島はこんな島だった。日本人だからだろうか。侘び寂びの精神が抜けきらないからだろうか。非日常的な物事が綺麗に見えてしまう。それは別にこれに限ったことではない。一週間の仕事を終えた後のビールとさして変わらないのだ。
地図に数字を書き終わったであろう謙輔と楓が立ち上がって近寄ってきた。
「百点だったよ。これで百八十五点だ。もしかしたら俺たち優勝じゃない?」
目を瞬かせて謙輔は言った。やっぱり子どもなのだ。
「そういえば飛鳥ちゃんと奏くん仲いいんだね」と楓が言った。
「あ、確かに。よくよく見ると結構お似合いかも」と謙輔が。
そんなこと、と私と三好が言ったとき、二人は私たちの手を引っ張って走り出していた。「もう帰ろう? 百八十店あれば十分だよ」「そろそろ時間だしね」そう言って、楓が三好の手を、謙輔が私の手を引いて走った。緩やかな茶色い緑道を風を感じながら駆けた。速さは当然ない。涼しい風が顔に当たり、自分の髪の揺れによって感じられる。私の手を握って一歩手前を走る斜め下の謙輔は、やっぱり隣の楓を見ていた。ふと、私は隣を見てみた。そこには楽しげな顔の楓と、私と同じ三好の姿があった。次第に鼓動が聞こえ出してきた。
ずっと続けばいいと思った。鼓動が聞こえ出して、少し息を切らせ始めた私はそう思った。数十メートル先でアスファルトが顔を出した。それは真夏でも月冴えるゴール地点。緑道の出口へと、私たち四人は駆けていった。