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もう少し時間があるので、この付近にある番号を探そうということになった。我々は誰かが何ということもなく、右から私、三好、謙輔、楓、と横一列に歩き出した。
ここで一つ確認しておくが、グループに一枚渡された地図の空白の部分、すなわち番号を書く余白の得点は不明だ。スタート地点から遠いからといって高得点があるとは限らない。だからさっき見つけた番号も低得点の可能性もあったのだが、運がよかったのだろう。
毎年行われるこのイベントだが、噂によれば、主催者側が毎回番号の看板の位置を入れ替えているのだそうだ。そりゃ、一番近いところに高得点があれば、皆それを見つけてしまうので面白味がないからそれはないだろうが、まあ入れ替えているみたいだ。このイベントの醍醐味は、時間をかけて見つけるということみたいだった。
以前はなるべく多くの得点を見つけて欲しいという願いから、多くの看板を用意していたこともあったそうだが、今は時間と労力、容量も乏しくなってしまった。流入人口を募るための一環として始められたこのイベントも、今では地元島民の恒例行事として定着してしまったというのが素性だろう。
そんな話を八巻さんから電話で聞いたのだ。でも私はその考えに違和感があった。そもそも流入人口なんて増えるものなのだろうか。この未明島に暮らしたいと思う人間がいるのだろうか。当然いるはずだ。世界は広い。自分が想いもしないような、考えもしないような発想力を持つ者たちで溢れ返っているのだ。起業する日本の人口に比べたらごく少数の若者。多くの時間を費やしてきた団塊の世代。恐れを知らぬ数々のアイディアがはためいている。そういう人間にとっては、一般人との「新鮮」の感じ方が違うのだろう。だから、この島に住む人を募るという考えは、理にかなっていなくはなかった。でも何かが違うのだ。そう思ったときにたどり着いたのが、「そもそも人口を増やすべきなのか」という点だった。
「ねえ三好。この島の運営って今大変なの? お金とかさ、補助金とかって」
一瞬きょとんとした三好だったが、ああなんだその話かとでも言うように応えてくれた。
「まあ、あまりいい状態ではないかな。暮らせなくもないんだけど、裕福に暮らせるって程でもない。なるべく自給自足の生活を強いられているというか、どの家も畑と田んぼを持っているところが多いし、休みの日は漁に出たりもする。その余った野菜や米や魚を売り出して足しにしてるって感じかな」
「でも売りに出すって、この島結構遠いよね?」
「うん。だから高い売値はつかない。このイベントもそういう印象が変わればいいってことも含めて始めたんだけど、最近じゃ今の生活に満足しちゃってる人も増えてきたから」
「それって……」
「そのうち限界集落みたいになるんじゃないかな。子どもたちももう少ないし、親は親で年を取ってそのうち動けなくなる。子どもが本州に出たらもうそれまでかな」
三好の言葉は寂しげだった。おそらく三好はこの島が大好きなのだろう。子どもたちも、ガキの頃からお世話になっている島民も。それだけに、失ってしまうのは辛い。現状に満足してしまうのもつらい。かといって成す術も思いつかない。
「俺は残るよこの島」
「え?」
「俺はこの島大好きだし、友達も好きだ。友達がいなくなったとしても俺は残る。母さんと父さんとも一緒に居たいし」
「じゃあ楓も残るー」
そのとき楓は謙輔の手を握った。その姿が何だか微笑ましかった。