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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【蛍の欠片】
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 私が一人で物を考えているうちに、彼らの食事は終盤に差し掛かろうとしていた。謙輔は最後に残していたであろう梅干をがじっている。楓は、すでに食べ終わって空になった容器をビニール袋の中に入れて、鞄にしまっていた。


「楓! ちょっとそっちいってみようぜ」


 食べ終わった謙輔は、立ち上がる。謙輔の言葉を聞いて楓は頷き、謙輔は弁当を片付けずに二人で原っぱの奥の方へと走って行ってしまった。


「あんまり遠くに行かないでよー!」


 三好の言葉に「わかったー」と他人事のように叫ぶ二人だった。


「いつもあんな感じなんです。謙輔くんが楓ちゃんを引っ張ってっちゃうんです」


「楓ちゃんは謙輔くんのことが好きとか?」


 三好は驚いた表情で「よくわかりましたね」と言った。


「そうなんですよ。理想の形ですよね。男の子が女の子の気持ちを汲み取って引っ張って行ってくれる」


「でも、謙輔は楓ちゃんの気持ちを知らないと」


「え、何でそこまでわかるんですか? 武田さんすごいですね。意外と人の心を読めちゃったりして」


「そんなことないですよ」


 私はすぐに否定した。


「人の心なんて読めませんよ。もし仮に心理学を勉強して人間の行動の原理とか知ったとしても、絶対にわからない自信があります」


 へえー、そうなんですか、と三好は呟く。次第にこの話題に興味を持ったのか、津々とした表情になる。


「でも何でですか? 申し訳ないですけど、正直見た目からいろいろ遊んでる人にしか見えませんよ。いろいろと慣れてるんじゃないですか?」


「よく言われます。でも俺は正反対の人間ですよ。本気で人と向き合えないですし。だからよく一歩引いていろんな視点から物事を眺めたりするんです。そうすると意外と様々なことに気づいたり、勝手に共感もできるし、許容の範囲も広くなります。だから楓ちゃんと謙輔くんの関係もわかったのかな」


「あ、それわかります。自分の信念を曲げない人っているじゃないですか。融通の利かない人とか。ああいう人たち私嫌いだったんですけど、そういう私も彼らから見たら同じ人なんじゃないかって思ったりします。そう考えると案外悪い人でもないのかなって思っちゃうんですよね」


「そんな感じですよね。でもこれって少し厄介な面もあって、許容しすぎると何が何だかわからなくなるんですよ。この可能性も否定できない、これもだ、あれもだなんて言ってたらきりがないですからね」


「え、ちょっと、どういうことですか?」


 三好は困った表情で首を傾げた。


「自分の意見がなくなるんですよ」


 と私は言った。


「はっきり言ってしまえば、信じられるものがわからなくなるんです。今まで信じていたことが、一歩引いて眺めてみて、他人に苦痛を与えていたと知ったとき、すぐに行動を改められる人ならまだ軽症なんですけど、その改めた行動によってまた苦痛を与えてしまうかもしれないと可能性を感じてしまったら、もうそこから抜け出せなくなるんです。次から次へといろんな可能性が浮かび上がって、何をすればいいのかわからない。それが一人に対しての悩みならまだしも、自分に関わる人間は多いですからね。だから、もっと掘り下げて言うと、許容のし過ぎは信じられるものを少なくすることでもあると思うんです。あくまで自分の考えですが」


 次々に言葉を並べた私に「そうなんですね」と曖昧に彼女は頷いていた。


「だから、信念みたいないな一つや二つの柱が人間には必要みたいです」


「そうですね。私は他人の考えを許容したとしても、同調はしません。信じたいことは周りにいろいろ言われても最後まで信じます」


 そう言って最後にはにかんだ三好。そんな三好の言葉は、あなたにも信じているものがあるんじゃないですか? とでも言いたげに聞こえた。


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