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上の方で声がした。見ると頂上に到達した謙輔が、身振り手振りで何か伝えようとしている。その数段下にいた楓も頂上に到達したみたいで、二人で「早く行こうぜ」と好奇心を押えられないようなそぶりを見せて、彼らは私たちの視界から消えた。
私もせっせと重たい脚を上げ続けた。次第に左右に連なっていた樹から木漏れ日のように陽が射してきて、視界が少しずつ明るくなっていった。やっと上り切った拓けたそこで、彼ら二人は走り回っていた。
普段遊びまわっているという楓と謙輔も、ここに来たのは初めてのようだった。若い草が目立たずに心地よく広がっている丘。広さは先ほどいた小学校の校庭と同等のものだ。なにより景色がいい。上ったということで、この位置は少し高いところにあった。丘の奥に進むと、民家や原っぱ、それに面した海が一望できた。
「こんなところがあったんですね。私も初めてです」
ちょうど時間も時間で、昼食をとるにはちょうどいい場所だったのもあり、ここで食べることになった。皆、鞄を開いてペットボトルのお茶に手を付けていた。三好は持参したであろう飴やチューイングガムなどの袋の口を開いていた。
「食べていいからね」と三好が言うと、楓と謙輔は弁当よりも先にそちらを手に取って口にした。
こんなときでさえ、私は彼らを一歩引いて眺めている。まだ幼い二人の姿を見て、私にもこんな時代があったのだろうかと物思いに耽って見たり、そのまた一歩後ろに引いたところで三好の整った顎のラインに見とれていたりする。
幼い二人の今後はどうなるのだろうか。謙輔は本州の中学に通うことになってクラスの中心の輪の中にいる。楓はおしとやかさを表面に備えているので、自然と周りから人が寄ってくるだろう。