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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【蛍の欠片】
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 島というのは広いもので、昨日ちょっと歩いたぐらいでは完全に知った気にはなれない、ということを痛感させられた。ひたすら原っぱが広がり続ける道もあれば、山奥の参道のような自然を感じさせる場所もある。「リーダーどっちに行きたい?」と楓に聞かれ、「じゃあこっちかな」と田舎のあぜ道とは程遠い、道なき道を躊躇いながらも選び、上り坂を進み、山奥の山頂を目指すことにした。


 謙輔や楓は、「ここって本当に道なの?」なんて言いながら無邪気に小川を飛び越えていたが、本当にその通りだった。この先に番号の書かれた看板が刺さっているような場所があるのだろうか。それは私が一番懐疑になっていたところであった。しかし、三好が言うには、「意外とこういうところに高い点数があるのかもね」


 ということみたいなので、まんざら間違っているという訳でもなさそうだった。


「今何時?」


 と楓が明日香に聞いていたの耳にして、自分も腕時計に目をやる。スタートしてから一時間は軽く過ぎていた。


 その割には、楓と謙輔は疲れているようなそぶりを見せていなかった。自分の幼少期を思い出すと、おそらくこの状況で「なんか食べたい、飴は?」などと口にしていてもおかしくはなかった。


 暗く夏にしては日の陰った道なき道は終わりをつげ、Y字に分かれる分岐点が現れた。誰かが、どっちに行く? と声に出すまでもなく、皆、謙輔の後ろを追って右に続く道へと逸れた。


 程なくして人為的だとわかる木の階段が現れる。丸太で区切られた浅い階段を私は一つひとつ上った。子どもの楓と謙輔は、我々と比べて脚が短いにも関わらず、二段飛ばしで軽く駆け上がっていった。


 その行く先を目で追うと、階段は神社までのそれのように長く連なっていた。心地よかったはずの蝉時雨がだんだんと鬱陶しくなり、私は軽く息を切らせていた。


「奏太さんの生まれは都会ですか?」


「いえ、都会とまではいかないですね」


「この島みたいなところだと体力も付くんですよ」


 私が息を切らせている横で、三好はすました顔でそんなことを言う。


「電車なんか当然ありませんし、自転車ですら高価なものです。皆歩いて学校に行くのは当たり前ですし、土日になれば、子どもたちは島中を駆け回って遊ぶんです」


 前かがみでまた一つ階段を上りながら、私は自分の体力のなさを悲観していた。ないものねだりに過ぎない。


「三好さんもこんな感じで昔遊んでたんですか?」


「はい。よく覚えてるのは、ちょうどこんな感じの石段が続いてる神社にはよく行きました。だから体力がついたのかもしれませんね」


 三好はすいすいと私の前を上って行った。私も気だれるまで疲れていたわけではないので、それに従って足取りを早めた。


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