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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【蛍の欠片】
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 八巻さんが出て行った後も、この空気感は消えることなく継続された。女性陣は相変わらず曇った喧騒のまま雑談を続け、我々男性陣は無言のまま置かれた惣菜に手を伸ばしていた。ただ、私にとってこの空気感は不愉快ではなかった。寧ろ、物事を割り切ってしまえる人間にとっては、捉え方次第で心地よくも感じる。


「首藤行かないんだ」と私が呟くと、しばしの沈黙が流れた。


 ああ、とだけ答える首藤。寛容になれた。


「桑原、美菜たちのグループに入りなよ。ほら、紗江も一緒だし」


 満面の笑みで朗らかに私は装った。そもそも彼らは旅行を楽しみに来たわけである。この暗い雰囲気は私だけで十分だった。


「ああ、じゃあ俺そっちに入っちゃおうかな」と桑原はほうれい線を際立たせた。


「やめてよ、変態と一緒のグループなんて紗江が可哀想」


「だ、誰が変態だよ。紗江ちゃんがいるなら俺そっちのグループに入ってやるし」


 桑原は立ち上がって陽気に踊りだす。


「なんだお前。絶対紗江に近寄らせないからね。紗江もこんな奴と一日中一緒に行動するとか嫌でしょ?」


「そ、そんなことないよ」


 紗江は訂正した。


 再び訪れた沈黙。それは一瞬だった。また昨日見た光景が広がった。目尻に皺を寄せてはしゃぐ桑原。おどけた表情の紗江を守ろうと、肩に身を寄せる明日香。相澤は桑原に向かって何か口にしている。それを楽しそうに見る美菜。


 私はあなたたちを侮っていた。もっと険悪なムードになることを予想していた。だが、人脈というものはどこまでも続いていくものらしい。無常の怒りはいつの間にか笑顔に姿を変える。それは彼ら自身の繋がりの賜物。安い言葉で言ってしまえば、友情は消えないのだろう。


 見つけようとしなければ、当然見つかるはずなどないのだ。


 別れを乞う人間に別れは訪れない。訪れたときにはもう乞うてはいない。そんな美徳が垣間見えてしまった。


「首藤?」


「ん?」


「今日が終わったらまた一緒に散歩しようね」


「気持ち悪い」


 そんな言葉でさえ私は褒め言葉として受け取ってしまえる。空気感がすべてを物語ってしまうと勘違いできるほどに、ここは居心地のいい居場所だった。


「でも、俺も話したいことあるから」


 その首藤の横顔は、また何かを失ってしまうときのような前兆に見えてしまった。


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