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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【蛍の欠片】
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 宿に戻ると、すでに朝食の準備ができていた。朝食とはいえども、我々がスーパーで買った食品が机に並べられているだけ。この中の誰かが買いに行ったのだろう。


「どこ行ってたの?」と美菜に尋ねられ、私は「散歩」とだけ答えた。


 川の字に並べられていた布団は畳まれていて、端に寄せてあった机が真ん中に移動させられていた。その上にコンビニ弁当、おにぎり、パン、惣菜などが見られる。左側に座る相澤と明日香は端末に目を落とし、美菜は二人に身を任せ、首藤と桑原は机の右側でじっと机の前に座っていた。女性陣と男性陣の座っている位置が端に寄っていた。真ん中の空間。昨夜の雰囲気と比べて、重い、と感じるのは朝だからだろうか。


「ごめん、待たせちゃったみたいで」


 そう私が口にすると、「じゃあ食べよう」と美菜が顔を上げて切って入った。その言葉を先頭に、止まっていた時間は動き出す。各々が割り箸を取って食品に手を付け始めた。私も座る。


 女性陣は雑談を始める。やはり、重い雰囲気は朝のせいだったのだろう。次第に通常の雰囲気へと舞い戻って、色づき始めた。


 これが、朝六時半の話だ。我々大学生にとっては、起きるのも億劫な時間。しかし、今日催されるオリエンテーリングは八時から始まる。都会と違って田舎の子どもたちは活発なようだった。


 本日の昼食は、島の主催者側が弁当を準備してくれているということだった。それを持って、途中でグループごとに食べる。


 そのグループ。こちらのイベントに参加させていただきたいという主を電話で伝えたときに、「五人ごとのグループで行う」ということを聞いていた。しかし我々は七人。必然的に島の方と一緒のグループに入れてもらわざるを得ない。どうしようかということを皆に聞けずにいたのだが、その点は問題ないようだった。


「女性の方々のところに男性が一人入っていただいて、もう一人の男性がこちら側のグループに入っていただきます」


 部屋に入って来た八巻さんはそう言った。


 普通、女の中に男を一人だけ入れるだろうかという疑念が浮かんだ。せめて女二人男三人のグループを作るのが普通だと思った。だが、更にそれを追うようにして疑念が浮かんだ。


「もう一人男がいるんですけど」と私は訂正した。


「そちらの方が参加されないということをお聞きしたので」と八巻さんが訝しむことなく続ける。そちらとはどちらだ。考える間もなく、


「俺は部屋に残るから」


 胡坐をかく首藤がそう私に呟いた。


 つらつらと並べられた言葉は、私の心を刺激した。いつもの首藤はそこにはいなかった。言葉と理性の陰に隠れていて、他人には普段どおりの首藤が見えたのだろうが、私には違いがわかった。これも、昨日首藤と出歩かなければわからなかったことだろう。


 この空気感は、この男から発されている。疑念は確信に近づいてしまった。


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