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目が覚めると、まだ皆は寝ていたようだった。枕元のスマートフォンに目をやると、右から「5」「:」「1」「4」と並んでいた。私は寝巻のままそっと立ってそっと襖を閉めた。
夏とはいえ、朝方は少し冷え冷えとしていた。空にまだ太陽は見えず、陽光はまだ温かさを生まない。薄い青と白が調和されて広がっていた。
色味のない砂利道を抜け、アスファルトの上を歩いた。ただひたすらに続く一本道。まるで廃線の上を歩くかのようにずっと歩いていたのだと思う。考え事の進行も同時に送っていたので、気がつかなかったのだろう。
そこは、まだ島に来てから一度も訪れていない場所だった。陽光がなければ私は慎ましく、光こそが私にとっての設えられた背中を押す存在。
代り映えのない風景に、一人の少女が紛れ込む。それは見たことのない場所。猫一匹でも視界に入ってしまえば違う場所。疎ましい人間でさえ許してしまえる、そんな光景。
なりそこなった自分が、明瞭に、聡明に、見えた。
きっとこれは罰だ。太陽が隠れているのはそのせいだ。
道端で猫が毛繕い。全身をグレーで覆った毛の色。緑がかった眼、黄色。そこに少女がやって来て「ちょいちょい」と抱き上げる。顎の下を掻き、赤ん坊のようにあやす。
「あ、昨日の……」
「起きるの早いんですね」
私の視線に気づいたのか、彼女は自分の着ている服に目をやった。
「こ、こんな姿でお恥ずかしい」
猫は麗しい声で鳴いた。私は近づいてほっぺたをつんつんと触ってみる。また鳴く。
「この子野良なんですけど、この辺りに住み着いちゃったみたいで。車に轢かれないといいんですけど」
彼女はそう言って原っぱの方に猫を帰す。振り向かずに猫は走って行った。
「名前聞いてもいいですか?」
そう聞くと一瞬躊躇った様子だったが、「三好飛鳥っていいます」と言った。
「ここに住んで長いんですか?」と聞くと、今度は躊躇わずに「はい。生まれも育ちもこの島なので。同期たちはみんな本州に行っちゃいましたけど」と若干塞ぎがちに言った。
私たちは民家に戻ろうと歩き出した。歳は私と同い年のようだった。今はこの島の役所に勤めているようで、八巻さんのことも知っていた。私と首藤と目を合わせても驚かなかったのはそういうことだろう。
隣を歩く三好の顔を覗こうと首を捻った私。すぐに目が合ってしまい、「何か?」と返されてしまった。「お綺麗ですね」と私が言うと、照れることもなく、どうも、と軽く会釈をしていた。言われ慣れているのかもしれないと思った。
三好の家は民家に戻ってすぐのところみたいだった。着くと、「じゃあ私はここで。また機会があれば」と、会釈をして塀の向こうへといなくなってしまった。