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Tシャツ一枚でベットに仰向けになっていると、横からミナトが転がり込んでくるのがわかった。言葉は聞こえず寝息を立てているような呼吸音が、二の腕を伝って聞こえてくる。
つい数か月前まで、私は他人に触られるだけでびくびくしてしまうほど身体が敏感だったのだが、それも今では最初からなかったかのように肌の感触に繊細になれている。感じるには感じるが、慣れというものは怖い。嘘のように薄い吐息も、触れる髪の毛も、膨らんだ胸の感触も、今となっては歴然とした心地よさをもたらしてくれる。年の離れた人間でも、経験と経過した時間さえ除いて考えれば、どこにでもいるごく普通の人間として関わりあえる。
まあ確かに、それはこの女性に対しての話なのだが。
「ずっとこのままでいられたらなあ」とミナトが言う。
「死ぬまでこのままだよ」と私が言う。
えっ、と声を発し、顔を起こしたミナトの表情はやけに柔らかかった。それなりに冷淡な口調で言ったと思ったのだが、どうやら勘違いしている様だった。
「ずっと一緒にいてくれるの?」
「それは無理だ」
言葉にした途端、彼女の表情がさらに柔らかくなったように見えたのは私だけで、見えない第三者が見たら、それはとても落胆したような失望したときのように見え、その感触を手にしたことだろう。誰にも知られていないだろう彼女の優しさを、そっと胸の奥にしまって、またこれから歩いていかなければならない。どんなに親しくなろうと、どんなに日々を積み重ねようとも、これ以上の関係になることはありえない。それを彼女はわかっている。私も知っている。